覚醒
ずっと、嫌な夢を見続けていた。
まだ、夢は覚めないようで、延々と悪夢が繰り返される。
それは、私が死ぬまでの記憶。
苦痛の毎日をひたすら耐える日々。
いや、もう耐えているという感覚すらない。
なんとか一日をただ過ごすだけの日々。
ただ一日を過ごすのが精一杯で、何かを考えることもできなくなり、生きることだけでいっぱいいっぱいの日々。
助けてくれる人もおらず、親元を離れ憧れていた一人暮らしは、生活するということが、生きる力を削っていく。
寝れない。
寝る時間もない。
莫大な仕事量と、意味の分からない叱責が力とともに時間も奪っていく。
それを取り返そうと頑張っても、頑張っても何もかもが無駄になる。
好きだった漫画もゲームも何もかもを諦めて、ただ生きる日々。
動こうとしない身体を何とか動かして、職場に着くと与えられた仕事に取り付く。
集中力も無くなってミスも多くなり、仕事の終わりが見えなくなる。
最近は会話が辛い。
相手の話が頭に入らない。
言葉が出てこない。
話そうと準備していた言葉も途中で飛んでしまう。
ただ、どうやって会話をせずに仕事を済ませられるか、あの人たちに目を付けられないで一日を過ごせるか。
それだけをただ考えていた。
いつも今を終わらせたい、楽になりたいといつも思っていた。
通勤中や一人になる時は、楽になる方法がいつも頭の中をよぎる。
こんなに疲れてて、頭も胃も痛くて、動悸と目眩が頻繁に起こっていたけれども、身体はまだ動いてしまう。
ぱったりと意識が無くなればいいのに。
電車を待っている時、交差点にいるとき、高い所にいるときに。
思考することも、判断することも、理解することも段々とできなくなっていることが自覚できる。
それをどうすれば取り戻せるか、分からない。
楽になりたい何かの切っ掛けを待ち続けていたのだと思う。
ただ、その日、切っ掛けも何もなく、一歩前に進んだ。
最後に見えたのは、ホームの向こう側にいた人々が私に向けた恐怖の視線だった。
楽になりたいと思っていたのに、ひたすらその悪夢が繰り返されていた。
楽になるどころか、ひたすら地獄が続く。
いや、私は死んだのだから、実際に地獄に来たのだろう。
抵抗することも逃げることできず、延々と地獄が続く。
針の山や血の池地獄はひたすら罪を贖える時が来るまで、ひたすら、無限と思われる時間を繰り返されるものではなかったのか。
この無限に続く地獄の中で、変化したものがある。
最近なのかもうかなり前からなのか、既に時間の感覚は失っているのでいつからかも分からないが、この地獄が始まった最初の方ではないことだけは確かだろう。
昼、夜があるのが感じられる気がするのだ。
昼は安心感とともに、なんだか力を与えてくれているような心地になる。
しかし、夜になればその心地良さも消え、再び地獄が始まってしまう。
私の地獄はまだ終わってはいなかった。
いや、新しい地獄の始まりでしかなかったのだ。
「あれ、この子、血も精も与えられていないのに、育っているわね。アルラウネまでもう少しじゃないかしら。」
どこかから、人の声が聞こえた。
言っている意味も良く分からない。
そして、何も見えない。
明るいか暗いかのみ何故か知覚できてはいるが。
その声を認識してから、再び私はいつもの地獄へ引き戻されていった。
「きゃーっ!」
何処かから、女性の叫び声が聞こえる。
私が電車に飛び込んだ瞬間、向かいのホームの女子高生と目が合ったことを思い出す。
痛かったのだろうか?
そればかりは何故か思い出せない。
女性の叫びは一つならず、周囲のあちこちから聞こえてくるような気がする。
痛い!
髪を掴まれ引き上げられる。
「いやーっ!痛いっ!」
自分の声がした。
声を出すことができたのだ。
かすれ、詰まった喉から出るその声は力ないものであったが。
痛みは掴んで引かれる髪だけではなく、下半身からも痛みを感じる。
その瞬間、視界が広がった。
私の目に映ったのは、下品な嗤いを浮かべる貧相な髭面の白人だった。
状況が理解できない。
理解はできないが、ひたすら恐怖を感じ、声も出せなくなる。
「中々の上玉だな。コイツは高く売れそうだな。」
そう言って男は私の身体を睨めあげる。
その視線は執拗にセクハラしてくる上司を思い出させ、身体が震え始める。
「おっ、良いのがいてたみたいだな。」
「ああ、まだ青いが中々の上玉だと思うぜ。」
「きっちり俺の栄養をやれば、良い女に育つぜ。1回ぐらいなら大丈夫だろ。」
「お前みたいな変態の金持ちに売れば、良い値をつけてくれるだろうから、我慢しとけよ。」
「ところで、そっちの方はどうだった。」
「育ちきったのが2匹だな。毒花を持ってたから、剪定しないと駄目だったよ。」
「葉っぱは残してるんだろうな。」
「ああ、それでもそんなに保たないだろうから、早く売りに行かないとな。」
「この辺りはこんなもんか。そろそろ帰るか。」
髪を掴んだ男はその顔を私に近づけてきた。
臭い息が、更に恐怖を掻き立てる。
「そういや…」
そう言って男は私の髪を掴んで引き上げたまま何処かに移動し始める。
「あった、あった。」
髪を掴んだまま、水につけられる。
小川の水のようで、冷たい。
全身を小川につけられ、いららしい手つきで、体中を弄られる。
「綺麗になったな。」
そう言うと、私の身体を舐め始めた。
激しい嫌悪感が身体を支配する。
嫌だ。
嫌…
助けて…
声が出にくい。
必死に声をあげるが、呟くような声しかでない。
「嫌…助けて…」
「助けてなんて、変な奴だな。まぁ、誰も助けになんか来ねぇけどな。」
男はそう言って下卑た笑い声をあげる。
助けは来ない。
今までもこれからも同じなんだ。
また死んで、また地獄を味わい続けないといけないんだろうか?
嫌だ。
私は。
私は生きたい。
生きたいんだ!
「まだ、小さいけど、大丈夫か。」
男は私を釣り上げたまま、ズボンを下ろし始める。
身体は、身体は動くか?
手をバタバタさせるが、思ったほどの力が出ない。
足の方は感覚はあるが、うまく動かない。
「ジタバタしやがって。」
男の大きな手が私の頬を叩く。
痛い。
叩かれたところも痛いが、髪も同じぐらい痛い。
そうだ。
痛いんだ。
やっぱり生きてるんだ。
私は生きたい。




