姉妹
「ただいまぁ~・・・」
家に着いた美恋は元気なく玄関のドアを開け、脱いだ靴をそのままにしてフラフラと廊下を歩いていた。
「おかえり!おねえちゃ・・・・ん?」
リビングのドアが開いてそのから顔を出したのは、1歳年下の妹の渦宇志 萌江である。
美恋は妹を横目で少し見ただけであった。
彼女は美恋とは逆で16歳でもう数名の男子とお付き合いがあり、明るく活発な性格である。
見た目も美恋と違い、前髪のぱっつんはそっくりだが、首までの短髪で着る服もおしゃれである。今は学校から帰ってきて部屋着なので裸足に青の太もも半分までの短パンと黄色のTシャツだけだからか美恋よりも大きな胸が強調されている。
ちなみに美恋はDで萌江はFである。
萌江は高校に入学してからすぐにクラスの男子達から「美人」や「可愛い」など言われて数日後には萌江のクラスの男子を中心に『萌江ちゃん萌萌ファンクラブ』が結成された。
(今、この萌江の姿を見たら男子たちは興奮するだろうなぁ・・・)
美恋はそう思いながら自分の部屋へと向かっていった。
ー(幕間)ー
「はぁ~・・・」
部屋に入るなり美恋はブレザーを脱いでベッドに投げ捨てると、タンスを開けた。
タンスの中には左側にはお洒落な服が、右側には地味な服がハンガーに掛けてある。
「はぁ~・・・」
美恋はお洒落な服を見てため息をする。
「結局、この服たち一度も着てないなぁ・・・」
美恋は自分に言い聞かせるように呟くと、そのお洒落な服の1着をまるで自分の愛しい子供に触れるかのように優しく撫でた。
この服はもともと美恋のではなかった。
同じクラスで彼女の友達に『色江戸 めぐ』という人物がいる。
めぐはおしゃれ好きで、美人というよりは可愛い系の(誕生日がきてないから)16歳の女性である。
茶髪の髪を後ろ上くらいで結んでポニーテイルにして、左目の下には小さななきボクロがある。
ある日、めぐは美恋に顔を近付けて言った。
「ミレーヌ(彼女が付けた美恋のアダ名)ってさ、実はちょー美人だよね?」
「ええっ!?い、いきなりなによぉ?」
本当にいきなりめぐが言い出したから、美恋はドキッとして少しだけ慌てふためく。
「ううん。これガチだから!・・・・・じゃあ今度さ、私の着なくなった服をあげるから着てみなよ?」
と言い、休みの日に半ば強引に貰った服たちなのだ。
ちなみに部屋の鏡台には、めぐと遊んだときに「100均でもいい化粧が売ってあるよ?」と言われ一応買ってみた化粧もある。
もちろん、お洒落な服も一度も着たことないし、化粧も抵抗がありしたことない。
「もし、この綺麗な服を着て化粧したら、ひろきは振り向いてくれるのかな・・・」
美恋はお洒落な服に話しかけるように呟いて手を伸ばした。
お下げを解き眼鏡を外す。三つ編みにしていたから、ストレートの髪は自然と少しウェーブがかかった髪みたいになっている。
眼鏡を外すとぱっちりとした目が可愛らしい。
お洒落な服を1着適当に取り、制服を脱ぎ捨てるとすぐにその手にした服を着る。
「あら?私に・・・ぴったり?」
友達のめぐから貰った服は一度も試着をしていなかったのだが、大きくもなく小さくもなく丁度いいサイズだったのには驚いた。
服を着たあとに鏡台の方へ早足で歩いていき、鏡を覗き込む。
「・・・・・えっ!?」
美恋は鏡を見て驚きやっと出た言葉がそれであった。
鏡に写る自分。それは地味な自分とは違う、全く別人の美女を写していた。
「これが・・・私?・・・・・えっ!?ええっ?」
美恋には鏡が実はテレビのモニターで、なにかアイドルかモデルが出ている番組が映っているのではないかと錯覚するくらいの自分が写っており、戸惑いを隠せなかった。
どうしても鏡に写っているのが自分とは信じられない。
しかし、鏡に写る美女が自分と同じ行動をとっているのが、その人物が美恋であることを証明している。
美恋は化粧箱から道具を取り出して薄く化粧をした。
化粧が終わり再び鏡の自分とご対面してみる。
「わぁ~・・・」
美恋は思わずうっとりとした声を漏らしていた。
鏡に写る人物はもう男女関係なくうっとりとさせる美女がいた。
もはや地味な美恋の姿は欠片もない。
「本当に私なの?」
いまだに信じられなくて美恋は鏡の自分に問いかけるが、鏡の中の自分は答えることはなかった。
「ねぇ、お姉ちゃん。だいじょ・・・う・・ぶ?」
ノックもせずに美恋の部屋に入ってきた萌江は、鏡台の前に立つ人物を見て固まってしまった。
「えっ!?あっ・・・。ご、ごめんなさい。お姉ちゃんの友達ですか!?えっ?えっ?いつの間に家に?」
萌江は美恋の部屋にいた美人に顔を赤くして何か混乱しているようだ。
「あははは・・・。萌江、どうしたの?」
「ええっ!?この声・・・。もしかして、お姉ちゃん!?」
萌江は飛び上がるほどに驚き、家中に響いたのではないかと思うほどの大きな声をあげていた。
「す、すごいよ、お姉ちゃん!とても綺麗だよ。・・・わぁ~・・・すごい。女性の私でもお姉ちゃんにメロメロになっちゃうよぉ・・・」
萌江はそう言いながら美恋の頭の先から爪先までを何度も頭を上下に動かしながら言った。
「そ、そんな・・・。大袈裟だよぉ・・・」
「そんなことないよ!お姉ちゃん。すっっっごく美人だよ?」
萌江はムキになって美恋に近寄ってきた。萌江がこんなにムキになるのは珍しく、この場合は心の底から本当に思っているときだ。
「そ、そうかな・・・。なんか、恥ずかしくて嬉しいよ・・・」
「うふふ・・・。これで、ひろきお兄ちゃんもお姉ちゃんにメロメロだね!」
「えっ!?」
萌江の発言に美恋は驚き、同時に心臓が1回だけ大きく鳴ったような気がした。
美恋は友達のめぐはもちろん、妹にも自分がひろきの事が好きだということは話していないのだ。
「も、萌江・・・。どうしてそれを!?」
美恋は動揺して発言してしまったのが仇となった。
「ああっ、やっぱり~!えへへ・・・。ちょっと鎌をかけたんだよねぇ。そう言うってことは、やっぱり好きなんだ~!それにお姉ちゃんがひろきお兄ちゃんと一緒にいる時の動作などを見たらなんとなく分かるよぉ!」
萌江はそう言い終わると、テヘペロをして見せた。
「うう・・・」
美恋は好きな人が妹にバレたことが恥ずかしくて俯いてしまった。
「ねぇ、その姿で告白したら?今のお姉ちゃんならいちころだよ?」
「うう・・・」
美恋は告白という言葉に更に恥ずかしくなって小さくなってしまった。
「でも・・・その・・・。やっぱりまだこのままがいい・・・」
「えっ?このままって?」
「まだ、友達のままでいいの。告白して、その・・・いろいろ恐いの・・・」
告白してひろきがオッケーしてくれたら嬉しいが、もし振られたらと思うと今の関係のままか、最悪もう二度と話すこともないかもしれない。
美恋はその後方を恐れており告白できないでいたのだ。
「大丈夫だよ、お姉ちゃん!」
そう言って萌江は美恋の耳元に唇を近付ける。
「痛いのは最初だけだよ?」
「うう・・・。その痛いのは嫌だよぉ~・・・」
萌江は美恋がひろきに告白してオッケーを貰うのが当たり前だと思っていた。
その先の初体験の事を恐れていると勘違いして言っていたのだが、美恋は『告白が駄目でも、心の痛みは最初だけだよ』と勘違いして落ち込んでいた。