転生直前
ある男が道を歩いていた。
大人というには少し若く、子供というには少し年老い
ている男だ。
「今日もバイトかー、、、」
そうぼやきながらスマホ片手に歩いていた。
不意に男は家を出てから今まで一度も上げていなかっ
た顔を上げた。
その目に飛び込んできたのは、慣れ親しんだバイト先
までの道。
色とりどりの車が横を通り過ぎ、少し先には横断道。
黒くて少し艶のかかった色をしているアスファルト。
街路樹の緑とそれを照らす太陽の光。
いつも通りの景色。
ただひとつ、いつもと違うところがあった。
横断歩道の信号が赤で、その横断歩道についさっきま
での自分と同じ体勢で歩く女の子。
そこへと突っ込む車。
ただそれだけがいつもと違うこと。
男は自分を他人のために犠牲にできるほど正義の味方
でも偽善者でもない。
そう自分では思っているし、周りから見ても誰もがそ
うだと肯定するだろう。
しかし男は走り出した。
どうしてか、それは男が常日頃から願っている願いが
関係する。
男は虐めを受けていた。
いつしか男は死にたいと思うようになっていた。
それだけが男の願いになっていた。
男は走った。
こう思いながら。
「女の子助けて死ねるんだったらかっこよくね?」
男は女の子を突き飛ばした。
男が生きたいと思っていたなら逃げられたかもしれな
い。
しかし男はそのまま死んだ。