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メイド人形はじめました  作者: 静紅
漆黒の魔女
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第八話 お嬢様の奇行

 今日は俺の授業は無しだ。俺が教わる事が無くなったというわけではなく、連日の授業で家の掃除や洗濯物が溜まったからだ。

 休み中になるべく進めたいオリビアと違って、俺は特に急いでいるわけではないので、今日は家事に専念する事になった。

 午前中に洗濯を済ませ、午後には掃除に取り掛かる。

 溜まってるとは言っても、普段使う部屋は毎日優先してやっていたし、手が届いていなかったのは使っていない空き部屋なので、然程苦労せずに終わった。

 時間を見るともう三時だった。

 よし、予定通り。

 昼食後に後片付けを引き受け、そのときクッキーを作っておいたのだ。

 今頃オリビアが数式を前に頭を抱えている頃だろう。

 俺はクッキーとティーセットを盆に乗せ、オフィーリアの部屋をノックした。


「ご主人様、お嬢様、お茶をご用意しましたので休憩なさいませんか?」


 声を掛けると、オフィーリアが扉を開けてくれた。


「ありがとう、気が利くわね」


 オフィーリアが笑顔でウィンクしてきた。

 そんなに褒められる事だろうか?

 にしても俺の主人マジ美人。

 部屋に入ると、オリビアは俺の予想ほど苦戦していなかったようである。


「驚いたわ。あんなに苦手だった掛け算がかなり出来るようになってるんだもの。貴女のお陰なんですってね?」


 あぁ、九九表の事か。


「私は少しお手伝いしただけです。お嬢様の努力の成果ですよ」


 確かにアドバイスしたり九九表を作ったりしたけど、それをオリビア自身が実践しなきゃ意味が無い。だから褒められるべきは俺じゃなくオリビアだ。


「さぁ、お嬢様、お茶にしましょう。クッキーもありますよ」


 授業に使っていた教材やノートを除けた机の上にクッキーを盛った皿やカップを広げる。ティーポットを傾け、カップに飴色の紅茶を注ぐ。


「ありがとう、ナタリア。頂くわね」


 俺が全員のお茶を淹れて席に着くと、オフィーリアがクッキーを手に取り、口に運ぶ。

 初めて朝食を作ったときもそうだったが、この一瞬が凄く緊張する。


「うん、美味しいわ。流石はナタリアね」


「お褒めに預かり光栄です」


 自分でも味見はしたが、やっぱり他人の口から言ってもらえると安心するな。

 オリビアはどうだろう?

 オリビアはクッキーを手に取ると一口齧り、味わうように目を閉じたかと思ったら残りも口に放り込み、紅茶で一気に流してしまった。

 え?

 不味かった?


「ナタリア、ちょっとこっち来て」


「は、はい!」


 オリビアが椅子から立ち上がって俺を呼び付ける。

 俺は内心ビクビクしながらオリビアの隣に立った。


「しゃがんで」


「はい」


 言われた通り俺がしゃがんむと、オリビアが両手を伸ばしてきた。

 やられるっ!

 何をと問われれば返答に困るが、俺は本気でそう思った。

 しかし特に痛みや衝撃が来る事は無く、代わりにオリビアの手が俺の両耳に触れた。

 ふにふに。


「あの、お嬢様?」


 ふにふに。


「私の耳に何か付いてましたか?」


「……」


 え、何その反応。

 何で不機嫌そうに睨んでるの?

 やっぱり不味かった?


「お口に合いませんでしたか?」


「そんな事無いわ。凄く美味しいわよ」


 ジト目で頬を膨らませて不満そうに言われましても。


「もういいわ」


 オリビアは耳から手を離すと再び椅子に座り、クッキーを食べ始めた。いや、食べるというより口に詰め込み始めた。


「?」


 よくわからないけど、もういいと言われたのでとりあえず席に戻る。

 何なんだ?

 オフィーリアは口元に手を当てて微笑ましいものを見る目をしてるし。

 わけわからん。

 その後もオリビアの機嫌は直らず、微妙な空気のままティータイムは終わってしまった。







 衣服を全部脱いで扉を開けると、花の香りと湯気が肌を撫でる。

 シャワーからお湯を浴びると、一日の汚れと一緒に疲れも流れていくようだ。魔導人形の俺に体力的な疲労は無いんだけどな。気持ちの問題だ。

 しかし結局オリビアの機嫌は直らなかった。

 クッキーやお茶は美味しいと言ってたからそれが原因じゃないんだろうけど、でもじゃあ何が悪かったのかと言われれば思い当たる事が無い。それなりに仲良くなれたと思ってたんだがなぁ。

 ガラガラ

 ん?


「ナタリア」


「お嬢様!?」


 振り返るとタオル一枚巻いただけのオリビアがいた。


「お嬢様、ご主人様と一緒に先に入られましたよね!?」


 ちゃんと確認した筈だ。


「うん、ナタリアの背中流してあげようと思って」


「そんな事して頂かなくても」


「嫌? 迷惑だった?」


「そんな事は…ありませんが」


 その訊き方はズルイよ。拒否出来ないじゃないか。

 お嬢様、将来魔性の女になりそうだな。


「じゃあ座って」


「はい」


 俺は言われるままに椅子に座る。

 待ち構えていると、柔らかいタオルが背中に触れる。

 オリビアがタオルで俺の背中を擦り始める。まるで表面を撫でるような優しい手付きだ。


「痛かったら言ってね」


「大丈夫ですよ」


「ん、ナタリアの背中って大きいわね」


「そうでしょうか?」


 俺の体型はオフィーリアと同じか少し小柄かくらいなのだが。

 それはさておき、オリビアが背中を擦りながら、時折懸命に息を漏らす。


「んっしょ」


 いや、何だよこのシチュエーション。

 ロリコンなら理性ブッとばされてるぞ。

 俺はロリコンじゃないから大丈夫だけどな!

 俺はロリコンじゃないから大丈夫だけどな!

 大事な事なので二回言いました。


「よし、流すわよ」


「はい、お願いします」


「熱くない?」


「ちょうどよい温度です」


 オリビアがシャワーで背中の泡を流してくれる。


「うん、終わったわ」


「ありがとうございます」


「ねぇ、ナタリア、冷えちゃったから少し浸かっていってもいい?」


「はい、どうぞ」


 オリビアが湯船に浸かり、俺はその間に他の部分と髪を手早く洗う。

 俺の体は代謝があまり無いから、実は表面の汚れを落とすだけでいいんだけどな。


「私も入りますね」


 変に遠慮しても仕方ないので俺も湯船に浸かる。流石に離れた端っこだけど。

 なんだけど、オリビアがこっちに近付いてきて、俺に寄り掛かってきた。


「あの、お嬢様」


「何?」


「近いのですが」


「嫌なの?」


 だからその訊き方は拒否出来ないってばー。

 オリビアの柔らかさを感じないように、目を閉じて明日の家事の段取りを考える事にする。明日は俺も授業受けるから、午前中に上手くやっておかないと今日みたいに勉強が遅れてしまう。いくら前世知識で余裕があるとはいえ、あまり遅れるのはよくない。


「ねぇ、ナタリア」


「はい」



 しかしオリビアは俺を思考に没頭させてはくれなかった。


「掛け算が少し出来るようになってお母様に褒められたわ。ナタリアのお陰よ、ありがとう」


「それはお嬢様が努力したからです。私はほんの少しお手伝いしたに過ぎません」


 オフィーリアにも言ったが、いくら俺が九九表を作ったりコツを教えたりしても、オリビアが実践しなきゃ意味が無い。だからこれはオリビアが頑張った結果で、俺の功績じゃない。


「ん、でも、ありがとう。大好きよ」


 オリビアが見上げながら笑い掛けてくれる。

 可愛いなぁ。

 子供に対する一般的な感想です。

 俺は(ry


「ありがとうございます、私もお嬢様が好きですよ」


「……」


 あれ、なんかお茶のときほど不機嫌そう顔じゃないけど、似た雰囲気になったぞ。


「先に上がるわ。ナタリアはもう少しゆっくりしてて」


「は、はい」


 何故だ?

 思春期か?

 わからん。

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[一言] プロポーズか?プロポーズなんか?
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