第八十四話 熱と肌と
※R-15程度の性的表現があります。こ、このくらいならセーフやろ…
ぼんやりとしていた意識が漸くはっきりしだした頃、くしゃくしゃに泣いていたオリビアも落ち着いたのか、身を離してベッドの端に腰掛けた。
横になったままだった事を思い出して身体を起こすが、まだ本調子じゃないのかふらついてしまった。
「大丈夫?」
「はい。すみません、お嬢様」
即座に支えてくれたオリビアにお礼を言い、自分の状態と部屋の中を確認する。
まだ僅かに頭が痛い。
ゴーレムと戦った後に目を覚ました時も頭が痛かったけど、あれって魂に負荷がかかった痛みだったんだな。あの時は戦いで傷を負ったかオフィーリアが俺の身体を弄った影響かと思ってたけど、冷静に考えれてみれば魔導人形には痛覚が無いんだから、そんなわけなかったんだよな。
他には四肢の鈍さが残っているが、これも時間が経てば治るだろう。身体に関してはそれくらいか。
服装はいつも使っていたネグリジェだ。寝ている間に着替えさせてくれたらしい。
窓の外は暗く、時間帯は夜のようだ。
俺の机の上には紙の束が詰まれており、一方オリビアの机の上には教科書やノートの山が出来上がっている。
「ナタリア、お水飲む?」
「あ、はい。頂きます」
オリビアが水を入れてくれたコップを受け取り、喉を潤す。
魔導人形の俺は水分を取る必要は無いが、それでも水の感覚から喉が渇ききっていた事が解った。
「目が覚めてくれて本当に良かったわ」
「ご心配をお掛けして、申し訳ありません」
「さっきも言ったけど、私を庇ってくれたんだから気にしないで」
フルートも言っていたけど、実際にオリビアの無事な姿を見れて安心出来た。
「お嬢様、大きくなられましたね」
オリビアは更に成長したらしく、身長はもう俺と同じか少し高いくらいだ。オフィーリアも背が高かったからいつか抜かれるんじゃないかと思ってたけど、寝てる間に抜かれるとは。
「身体測定の時はクラスで一番だったわ。多分もうナタリアより大きいと思うわよ?」
そう言ってオリビアは強調するように胸を持ち上げて揺らして見せる。
「あの…身長の話ですよ?」
「え、そっち? あ、うん、身長ね! うん、わかってた!」
顔を真っ赤にして誤魔化そうとするオリビアだが、勘違いしていたのはバレバレだ。
まぁ、見たところそちらも俺より大きくなってるみたいなので間違いではないのだろうけど。
それからオリビアは俺が眠っている間に起きた事を話してくれた。
どうやら俺は半年近くも眠っていたらしい。これを短いと取るか長いと取るかは微妙なところだが、その間に色々とあったようだ。
まずオフィーリアから貰った俺の設計図をアナベルに見せたらしい。
魔導人形の知識に乏しいオリビアでは気を失った俺を修理出来なかっただろうし、これは適切な判断だったと思う。
技術の秘匿はこの際目を瞑るべきだろう。俺を診て貰う上で必要な事だし、アナベルはオフィーリアの弟子なんだからそこまで隠すような相手でもない。
とりあえずアナベルとその助手をしていたらしいクリスティナには後日御礼を言いに行こう。
次に学校の臨時講師の話だが、今年の一年生全クラスの授業に一度は参加しており、後の反復練習などは正規の教師が見ていれば良かったので特に問題は無かったようだ。
エイミーと契約していた魔法の参考書は、俺がこんな状態だったので新刊の発売は出来なかったらしい。
これに関しては悪い事をした。
そして観学祭だが、オリビアは参加せずに一日中寮で俺の傍に居てくれたらしい。
観学祭の模擬戦大会参加を諦めさせる代わりに樹海に行ったのに、結果的に観学祭そのものへの参加すらさせてあげられなかったのか。せっかくの学校行事を楽しむ機会を奪ってしまったなんて。
「そんな暗い顔しないでよ。私が自分で決めた事なんだから、ナタリアのせいじゃないわ」
「ですが……」
どう取り繕ったところで、これは俺のせいだろう。
俺がもっと上手く立ち回っていれば、ラッカスもコメットウルフも上手く撃退出来た。
思い返せば幾らでも自分のミスが浮かんでくる。
「……あ、そうだ! せっかく起きたんだし、身体を綺麗にした方が良いわよね。お風呂に入るのはまだ危ないから、拭いてあげるわ。準備するからちょっと待ってて」
落ち込む俺を励まそうとしてか、オリビアは戸惑う俺が返事するより先に部屋から出て行った。
気を遣わせてしまったか。
でもオリビアがあんなふうに励まそうとしてるのに、俺が引き摺るのも良くないな。
よし、気持ちを切り替えていこう。
「お待たせ」
部屋に戻ってきたオリビアが桶をベッドの前に置く。桶の中には湯が張られており、白い湯気を昇らせている。
「じゃあ、脱がせるわね」
…………イマナンテイイマシタ?
肩に掛けられたオリビアの手を、何とか思考が復帰した俺は身を捩って躱した。
「お嬢様、何をしようとしてるんですか!?」
「何って、拭いてあげるって言ったじゃない。服を着たままだと身体拭けないわよ?」
「いや、それはそうですけど、その」
オリビアの言う事は尤もだが、年頃の女の子に裸を見られるのはこちらが見る以上に恥ずかしいものだ。
「女同士で恥ずかしがる事無いわよ。それに一度は一緒にお風呂に入ったし、あのときだってナタリアの背中洗ったじゃない」
お、女同士じゃないんです!
と言える筈も無いが、入浴に関してもオリビアが一方的に入ってきたのであって俺の意思じゃない。
「あの、メイドの身としてはこれ以上お嬢様の手を煩わせるのは」
「まだ起きたばかりなんだから遠慮しないの。それにナタリアはいつも私をお世話してくれてるんだから、こんなときくらいお礼させてよ」
オリビアの気持ちはありがたいけど、これは流石に恥ずかしすぎる。
ここは心を鬼にして断らないと。
「嫌だった? 私の気持ちって迷惑?」
だからその訊き方はズルイんだって。拒否出来ないから。
「……お願いします」
「やった」
ガクリと項垂れて了解すると、オリビアは嬉しそうに声を弾ませた。
俺は諦めつつもネグリジェを脱ぎ、オリビアに背中を向けてブラジャーを外し、拭きやすいように姿勢を正す。
「お嬢様、さっきのような言い方はその、殿方に使う場合は気を付けて下さいね。あらぬ誤解を招きかねませんから。将来を共にしたいと思えるような相手だけにしてください」
純粋で快活な腕白娘のオリビアだが、あと数年もしたらきっとオフィーリアに似た魅力的な大人の女性になるだろう。オフィーリアに似た容姿であんな事言われたら、大体の男はイチコロだよ。
無自覚に使って勘違いさせたら修羅場不可避だ。
「大丈夫よ。ナタリアにしか使わないから」
う、うーん、そういう意味じゃないんだけど、信頼されてると喜ぶところなのかなぁ?
「じゃあ、いくわよ」
オリビアは湯に浸したタオルを固く絞り、俺の首にそっと当てた。
うなじから肩へとタオルが滑り、表面の汚れを拭き取っていく。タオルの温かさと、拭き取った後に空気に触れる冷たさが心地良い。
入浴出来ないのは残念だが、逆に世話を焼かれるのもたまにはいいか。
とは言うものの、子供相手でも裸を見せているのは恥ずかしいもの。
でもオリビアも女同士なんだから恥ずかしがらなくていいって言っていたじゃないか。
って、対外的にそうなってるだけで俺は男だろ!
駄目に決まってる!
もう、何これ!
「あれ? これどうしたの?」
背後から聞こえた訝しむ声に首だけ振り向くと、オリビアは俺の肩をまじまじと見ていた。
「お嬢様、どうかしましたか?」
「あ、うん。大した事じゃないと思うんだけど、肩に痣が出来てるの」
「痣ですか?」
「うん。木の枝みたいに先が分かれた細い線みたいな痣」
俺の身体は自動修復機能があるので小さな傷なら数時間で完治する。オリビアが魔力粉を取り除いてくれたお陰で眠っている間も問題無く機能していた筈なので、戦闘の痕が残っていたとは考えにくい。
元からあったという事は無いだろう。オフィーリアはこの身体を最高傑作と豪語していたし、そこにわざと傷跡を残すような真似をしたとは思えない。
『せっかくだ、もう少し楽しませてもらうとしよう』
ふと、目覚める前に聞こえたフルートの台詞を思い出した。
あいつ、最後に何かしたな。枝分かれした線はあいつの鹿角のマークか。
しかしあいつが何をしたところで、俺にそれを知る術など無いし、どうしようも無いだろう。
それに俺が目覚めるのに手を貸してくれたのに、後から俺の害になるような事はしないと思う。
「お嬢様、それはその内直ると思いますので、お気になさらないでください」
「…うん。早く治るといいわね」
納得してくれたのか、オリビアは俺の背中を拭くのを再会した。
うわ、やっぱり恥ずかしい!
「ナタリア、背中は終わったわ」
「はい、ありがとうございます」
や、やっと開放される。
「次は前ね」
「ファッ!?」
変な声出したのは仕方ないだろ。
「いや、あの、お嬢様、それは流石にちょっと」
断ろうと思って首だけ振り返ると、オリビアの顔が至近距離にあって思わず息を呑んだ。
癖の無い黒髪や深い色の瞳など、オフィーリアの面影を残す部分もあるが、組み上げられた印象はまるで異なる。
オフィーリアが黒百合なら、オリビアは向日葵だった。
真逆とも言えるが、芯の通った雰囲気と端正な顔立ちは共通している。
「ね、やらせて」
「う…あ……はい」
上手く言葉が出なかった俺はオリビアの要求に頷いてしまった。
「ナタリア、手も退けてくれないと拭けないわよ」
「あの、本当にやるんですか?」
オリビアの方を向きつつもせめてもの抵抗として胸を手で隠していたが、それすらも取り払えと言う。
「当然じゃない。こんなおいし、じゃなくて、ナタリアはやっと起きたばかりなんだから、もっと私に頼ってよ」
「……解りました」
オリビアが善意で言ってくれてるのに、俺がいつまでも恥ずかしがってるのも失礼か。
俺は覚悟を決めて手を退かした。それでもやっぱり恥ずかしいものは恥ずかしいので、固く目を瞑って顔を背けてしまったが。
「きれい……」
オリビアの呟きが耳に届いた。
そりゃあ正直言って自分でも綺麗だと思う。あのオフィーリアが拘って創造っただけあってプロポーションは完璧だし、関節の継ぎ目さえ無ければ理想的な女性の身体だ。でもそれを人に言われるのは何とも言えない気持ちになる。
「あの、お嬢様、するなら早くして頂きたいのですが」
「あ、うん」
一行に拭いてくれないので待ちきれなくなって急かしてしまった。
断じてオリビアに拭いてもらいたいわけじゃない。この羞恥プレイを早く終わらせたいだけだ。
「始めるわね」
温かいタオルが俺の肌に触れる。ただし先程のような起伏の少ない背中ではなく、今度は凹凸のはっきりした真正面にだが。
タオルが肌の輪郭をなぞり、鎖骨の窪みから胸の膨らみへと至り、更にその先端に触れる。
「んっ」
思わず声を漏らしてしまったのが余計に恥ずかしい。
ただ身体を拭いてもらっているだけなのに、まるでやましい事をしているような気になってくる。
オリビアはずっと眠っていた俺を気遣ってしてくれているんだ。こんなに大切にしてくれてるのに、変な事を考えるなよ。
と、自戒しようとしているのだが、敏感な部分を薄布越しに撫でられる度に身体の奥から熱が湧き出て震えてしまう。
そんな俺の内心の奮戦を知らず、オリビアは膨らみの下から胸部と上腹部の繋ぎ目、下腹部まで丁寧に拭き取る。
「っ……あぁっ…ん」
な、何だ、今の声?
俺が出したのか?
まるで女の声みたいじゃないか。いや、声は元からなんだけど、喘ぎ声というか、そんなのを俺が出すわけがない。
普段のメイドとしての振る舞いだって、前世の知識を基にした演技でしかないんだ。俺の感性が女に近付いてるわけじゃない。
なのに、なんであんな声が出ちゃうんだよ。
「………」
不安に耐えられず薄く目を開けると、身体を拭いてくれていたオリビアと目が合った。
オリビアは僅かな間気まずそうに目を逸らしたが、すぐに視線をこちらに戻した。その瞳には燻る様な熱が宿っているように感じられたのは、気のせいだと思いたい。
「ねぇ、ナタリア」
「…なんですか?」
オリビアはタオルを脇に置き、俺の方ににじり寄って来る。
言い知れぬ圧迫感に俺はつい後ずさったが、すぐに背中が壁に当たってしまった。
「あのね」
オリビアが何か、とても重要な何かを言おうとしているのは雰囲気で判ったが、同時に何故か俺はそれを聞いてはいけないような気がした。
けれど俺が動くより先にオリビアは両手を壁に突き、俺の逃走経路を完全に塞いでいた。
「私…」
顔を林檎の様に赤く染めたオリビア形の整った瑞々しい唇が俺の名前を口にする。その動きから目が離せない。
「私は、その、ナタリアが、ね」
言葉を一つ一つ選びながら繋げようとするオリビア。初心な愛らしさに何処か艶を伴った仕草は成長過程にある少女のもので、それが目の前にある事で俺は無意味に緊張してしまっていた。
だが目は彼女の唇を見逃すまいと、耳は彼女の声を聞き逃すまいと、やたらと張り切って敏感になっている。そしてそれらが生み出す熱は目覚めた時にあった頭痛をすっかりと追い出し、代わりに奇妙な陶酔感を生み出していた。
「す――」
オリビアが言おうとした何かをノックの音が遮る。
「エイミーだけど、ナタリアさんが起きたって聞いたからお見舞いに来たよ」
扉越しに聞こえた声に、オリビアは弾かれたかのようにその場から飛び退いた。
俺も慌ててネグリジェを被り、何事も無かったかのように装う。
危なかった。何なんだ、今のは。
両頬に手を当てると妙に火照っていた。
「え、エイミー、ちょっと待ってね」
オリビアは少しどもりながらもエイミーを制止し、視線をこちらに向けてくる。
俺は大丈夫だと頷き、扉を開けるように促す。
オリビアが扉を開くと、入室したエイミーは俺を見て目を丸くした。
「あれ? ひょっとしてお邪魔だったかな?」
「そ、そんな事無いわよ。ねぇ、ナタリア?」
「え、ええ。何でもないですから、お気になさらないでください」
「そう? じゃあお邪魔します」
俺とオリビアは必死に取り繕い、さっきあった謎の昂ぶりを誤魔化すのだった。
ランキングに変動がありました
→1位 アリア(爆乳)
→2位 オフィーリア(巨乳)
↑3位 オリビア(巨乳)
↓4位 ナタリア(豊乳)




