第七話 人類と魔物
翌日から午前中は、俺は家事、オリビアは自分の部屋(二階の鍵のかかっていた部屋)で学校の宿題をする事になった。
そして午後からオフィーリアの授業が始まる。
今回は人類種族に関してだった。
この辺も既存の知識があるから楽だったな。
まず人間。最も人口が多いが他の種に比べて短命。能力は基本的にバランスがいい。
エルフは魔力と弓に適正がある代わりに筋力が劣る。
ドワーフは筋力に優れ鍛冶の才に恵まれる代わりに魔法が苦手。
獣人は人間以外の生物の特徴を持った人種で、何の獣かによって能力が全く違う。竜人、ハーピー、人魚も大きく分けるとここに含まれる。
これらが基本だが、例外的なものもある。それがアンデッドと鬼人だ。どちらも人類に含まれているが、その扱いには未だにはっきりしていない。
アンデッドは生前持っていた倫理や道徳が欠落し、人を襲うようになる事が多い。その場合は魔物として討伐対象になる。真祖と呼ばれる生まれたときから吸血鬼の種はそんな事は無いらしいが、基本的にプライドが高く他の種を見下しているのであまり友好的ではない。
そして鬼人。オーガやゴブリンの上位種を先祖に持つ。彼等は好戦的且つ排他的で、多種族と友好関係を築こうとしない。友情や義理には厚いので、一度仲良くなればそれこそ死んでも友達なくらいになれるらしい。
これらのハーフもいるが、細かくなるので割愛する。
「種族の特徴を知っておけば接し方も合わせられますね」
「そうね。異種族とパーティーを組むときはもとより、日常でのコミュニケーションでも大事だわ」
俺が思った事を言うと、オフィーリアが頷いた。しかし隣に座っているオリビアは要領を得ないのか、首を捻っている。
「ご主人様、そういった事で何か事例や実体験はありませんか?」
「そうねぇ。昔他の人とパーティーを組んで渓谷地帯に行ったときの事なんだけど、事故で食料を川に流されてしまったのよ。私達は食べれる魔物を狩ればよかったんだけど、メンバーにエルフがいてね。エルフって基本的に菜食主義なのよ。だからとってもつらそうに魔物の肉を食べてたわね」
「そんなに嫌だったの?」
オリビアはいまひとつ実感が湧かないらしい。
「そうですね、お嬢様は何か嫌いな食べ物はありませんか?」
「ピーマン嫌い」
「では家に食べられるものがピーマンしかなくて町に買いに行く事も出来なくなったと想像してみてください」
「うへぇ、地獄だ」
オリビアは苦そうに眉間に皴を寄せた。
「そういう事ね。あと、一部の犬系獣人にとって耳を触るのはプロポーズなのよ。だから知らずにやったりしたら大変な事になるわよ」
「ああ、そういうのもあるのですね」
犬系獣人の耳かぁ。モフモフは触らせてもらえないらしい。
「お母様、この間学校で犬の獣人の男子とケンカしたのだけど」
「オリビア、貴女」
「ちゃんと勝ったもん!」
「そこじゃないわ」
うちのお嬢様腕白すぎません?
おっと、そうじゃなくて。
「それでケンカをしてどうしたのですか?」
ここでお説教が始まっては話が進まないので、先を促す。
「その男子が動けなくなって、せっかくだから前から気になってた耳をもみもみしちゃった」
お、おぉ。
俺とオフィーリアは頭を抱えた。
「そしたらその男子、泣き出しちゃって。でもおかしいの。それまですっごく仲悪かったのに、それからは変に優しいの」
「オリビア、新学期にその男の子に会ったらそんなつもりは無かったとちゃんと謝りなさい。その男の子、貴女にプロポーズされたと思ってるわよ」
「え、やだ、気持ち悪い」
犬の男の子可哀想。
うちのお嬢様が男子の純粋さを弄んでる。
俺は元男として、犬男子に心から同情した。
夕食後、俺はオリビアの部屋を訪ねた。
昨日の授業で、オリビアは九九を覚えていないのだろうと思った。九九は計算の基礎だ。これを覚えなきゃ話にならない。
「ナタリア、どうしたの?」
「お嬢様にお渡ししたいものがございまして」
「わたしたいもの?」
「こちらです」
というわけで、九九表を作ってきたぜ。
「これは九九表と言いますが、見た事はありますか?」
「ううん、こんなの初めて見るわ。どう使うの?」
俺は九九表の使い方を説明する。
「ですから6×7は、一番左縦列の6、一番上横列の7の交差する場所の数字である42が答えになります」
「凄い、これがあれば簡単に計算出来るのね」
確かにそう思うだろうが、『計算出来る』と言うのは間違いだ。
「お嬢様、これは計算ではなく覚えるためのものです」
九九は計算じゃない、暗記だ。そういう意味では、覚えてしまえば足し算引き算より楽だと言える。
「九九にはパターンがあります。それがわかればすぐ覚えれますし、覚えてしまえば考えるより先に数字が出てくるようになります」
そのパターンをこうして表にする事で気付き易くする。俺も小学校のときに最初は苦労したが、これで覚えた。
「パターン……あ、6×7も7×6も答えが同じなのね」
「その通りです。掛け算は数字の前後が入れ替わっても答えは同じなのです」
もう気付いたか。早いな。
「パターンはそれ一つではありません。お嬢様、出来そうですか?」
「うん、これなら出来るわ。ありがとう、ナタリア! 大好き!」
可愛いなぁ。
子供に対する一般的な感想です。
俺はロリコンでは(ry
今日の授業は魔物に関してだ。
魔物というのは魔力を宿した自我を持つものを指す。動物、植物、物質は問わない。
魔物は最初から魔物として生まれる先天性の魔物と、普通の生物が何らかの理由で魔力を宿して魔物化する後天性の魔物がある。
昨日習ったアンデッドなんかは後天性の魔物だ。
両者の違いはあまり無いが、明確な違いは魔物としての能力のスタートラインだ。
例えば最初から魔物として生まれた虎と魔物化した虎、同じ年数を生きたなら前者の方が強い。かと言って魔物として生まれた兎と魔物化した虎なら、強いのは後者だ。
そして後天性魔物の次世代が魔物である確率は50パーセントにも満たないのだとか。もっとも、種によっては一度に産む数が洒落にならないので、その分試行回数が増える事になるわけだが。
「では魔導人形は魔物に分類されるのですか?」
「そうよ。術士が操っている場合は道具扱いだけどね」
やっぱり俺、魔物でした。
「そして魔物の特徴としては、やっぱりその身体が素材として価値が高い事ね」
魔物の毛皮や骨の強度は同じ動物の比ではない。また様々な副次効果を持つものも多い。
「例えば火竜を素材にすれば、剣は刃に炎を纏わせる事が出来るし、鎧は炎に強くなるわ。強い魔物を狩ってその素材で装備を強化するのも冒険者の醍醐味ね」
うん、そうだよね。楽しそう。
俺以上に隣のオリビアの目がキラキラして眩しいくらいになってるけど。
閑話休題。
魔物はその脅威度によってFからSに格付けされる。
Fは一般人でも倒せるレベルだが、Sは国が軍を派遣しなければいけないほど危険な存在らしい。要は災害とみたいな扱いか。
「ねぇ、お母様とお父様が倒した魔物の最高ランクはどれくらいなの?」
「そうねぇ、二人だけで倒したのなら確か双頭のブラックガルーダがAランクだったかしら」
Sは国が対処するレベル。それを踏まえてAランク。それを二人だけで倒したそうです。
「でもあんまり自慢にならないわよ。比較的若い固体だったし」
いやいやいやいや。
「あ、ちなみにその素材から作ったのがブラックホークよ」
安い素材ではないだろうと思っていたけど、本当に高級素材だった。
途端に腰から下げた銃が重く感じてきた。
お嬢様が羨ましそうにこっちを見ている。
いけません、玩具じゃないんですから。




