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メイド人形はじめました  作者: 静紅
魔法学校
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第七十一話 魔女の弟子

 昼食後、俺は実験棟へと足を向けた。ここには幾つかの教科の実習室や、それらを担当する教職員の個人的な研究室がある。

 言われた通りにアナベルの研究室を訪ね、扉を叩く。


「鍵は開いてるわ」


 入って来いという事なのだろう。

 扉を開けると、奥の席で何かの作業をしていたアナベルは手を止め、ニヤニヤと不気味な笑みを貼り付けた顔を上げた。


「いらっしゃい。その辺りに適当に座って頂戴」


 じゃあお言葉に甘えて。

 部屋に足を踏み入れた俺は座る場所を探し、そして諦めた。

 座れる場所無いじゃねぇか。

 オフィーリアの私室も物が多かったが、それでも整理整頓はされていた。だがここは大量の本と器具が棚から溢れ出し、床を埋め尽くしかけている。

 椅子やソファーの上にまで置いているのは如何なものか。


「あの、アナベル先生、この辺りの物は動かしてよろしいですか?」


「ええ、構わないわ」


 椅子の上に積まれていた本をどかし、漸く腰を下ろした。


「それで、ナタリア先生は魔道具作成や錬金術に興味があるという話だけど」


「はい、ご主人様がお亡くなりになってからも―」


 そこまで言って、俺は慌てて口を噤んだ。

 オフィーリアの死は近くで交流のあった人や冒険者ギルドくらいにしか伝えていない。昔から付き合いのあった人達にはオリビアに手紙を書いてもらったが、それもエイミーの両親くらいだった筈だ。さっきの廊下での会話から察するに、おそらくオリビアはアナベルの事は知らなかったのだろう。

 突然師匠の死を知らされて、きっとかなりショックなんじゃないだろうか。


「あぁ、大丈夫よ。師匠がもう長くないのは知っていたから。予想よりはずっと早かったけど」


 俺の心配に反して、アナベルはあっけらかんとした様子で続ける。


「師匠とはたまに手紙のやり取りをしてたのだけれど、三年前だったかしら、『私はあと十年以内には死ぬだろうから、娘の世話をする魔導人形を創造(つく)りたい。設計図を書いたから意見があれば言ってほしい』ってね」


「そうだったのですか」


 シューマさんが死んだのが今から四年前だから、その悲しみや戦いの傷が癒えてからと言ったところか。


「それでねぇ、私なりの改良点や使えそうな機構を書いて返したわけだけど、流石は師匠ね。私が考案した部分の欠点も見事に克服されてるわ。弟子としては誇らしくもあり、専門家としては悔しいわね。結局師匠を超える事が出来なかったわけだし」


 表情はさっきから変わらないけど、アナベルなりに哀愁を感じてくれているん……だよね?

 この人感情が読みにくいな。


「話を戻すけれど、錬金術はどの程度出来るの?」


「ええと、一般的な薬品ならほぼ作れます。あとは金属や鉱物の精製と合成くらいなら出来ます」


 錬金術は毎日でなくとも練習してきた。最初に教わった回復薬は当然ながら、魔力回復薬や解毒薬、麻痺治し、ついでに痛み止めや関節痛の薬なんかも安定して作れるようになっている。

 金属も成分を分解したり混ぜ合わせたりするだけなので、薬より時間は掛かるが出来る。ついでに質を変えずに整形するのも概ね問題無い。


「じゃあ、貴女は起動してどれくらい経ってるの?」


「ええと、確か一年と3ヶ月ほどでしょうか」


「へぇ…」


 俺の前に立ったアナベルは猫背気味の姿勢を更に屈め、真っ直ぐに目を覗き込んでくる。

 底の見えない暗闇のような目が不気味で、何とも居心地が悪い。思わず目を逸らしたくなる。


「そう、半自律型育てると言っていたけど、結局死んだ人間の魂が宿ったのね」


「―っ!」


 見ただけで気付かれた!?


「アナベル先生、どうしてそれを―」


「魔導人形は魔道具の延長線上にある、技術だから…これでも一応専門家だからね」


 確かに、オフィーリアは日常生活の中で俺が人形に宿った死者だと見抜いた。ならその弟子で、より専門的な道に進んだアナベルが気付くのも当然だ。

 もとより隠しておける事でもなかったのだろう。

 だが今のうちに言っておかなければいけない事もある。


 たとえ偶然でも、俺が転生出来たのはオフィーリアがこの人形(からだ)を創造っていたからだ。俺がこの世界でもやっていけているのはオフィーリアが色々な知識や技術を教えてくれたからだ。娘の為に創造った人形を見ず知らずの他人である俺が奪ってしまったのに、オフィーリアは受け入れてくれた。

 その恩は一生掛かっても返しきれない。

 だからその名誉を汚すような事は絶対にさせてはいけない。


「確かに私は一度死んでこの人形に宿りました。ですが私の死とオフィーリア様に因果関係はありません。断じて、オフィーリア様が私を殺したわけではないので、そこは誤解なさらないでください」


 そう言うとアナベルは身を起こし、一瞬目を細め、すぐにさっきと同じにやけ顔へと戻った。


「大丈夫よ。師匠はそんな事をする人じゃないって解っているわ」


俺の懸念を他所に、アナベルは事もなさげに告げる。


 「半自律型が自律型に成長するにはおよそ五年は掛かるから、起動して一年では自立型にはなれない。なら死者の魂が宿ったタイプと考えるのが自然よね。これは最近の研究結果だし人形術師は少数で閉鎖的だから、もしかしたら師匠は知らなかったかもしれないけれど」


 アナベルはオフィーリアとは別の観点から見抜いたというわけか。

 だが問題はそれだけじゃない。


「オフィーリア様は私が死者であると気付いておいででした。ですがこの件はここだけの秘密にして頂けませんか? オリビアお嬢様には今まで通りに接して頂きたいのです」


 オリビアは(ナタリア)を母が創造した魔導人形だと思っている。だからあんなに気さくに接してくれている。それが異世界から来た他人、それも元男だと知れたら。

 嫌われて捨てられたりしたらなんて、考えるのも恐ろしい。


「言いふらしたりはしないわ。でもさっきの研究は授業で教える事ではないけれど、他はちゃんと教えるし、自分で気付いたとしても責任は持てないわよ?」


「それは…」


 もしオリビアがアナベルの授業を受けて、同じ結論に至ったら……


『? どういう事? え? ?』


 頭を抱えてハテナマークを乱舞させるオリビアが思い浮かんだ。


「多分大丈夫だと思います」


 自分の仕える主をこう言うのはなんだが、オリビアは座学や研究に関してはとても残念な頭をしている。授業についていくのがやっとなのに、そこまで思い至るとは到底思えない。

 無理に考えようとしても、頭から煙を出して俺かクリスティナ嬢に泣きつくのがオチだろう。

 凄いだろ?

 あのオフィーリアの娘なんだぜ、これ。

 言ってて悲しくなってきた。


「なら良いわ。話を戻すけれど、金属の加工が出来るなら錬金術の基礎は大丈夫ね。あとは速度と精密さと扱える質量を上げていければ、複雑な魔道具も作れるようになるわ」


 そうか、俺でも魔道具が作れるようになるのか。

 魔銃のマガジンは魔晶石の形を整えて表面を金属で覆っただけで、実は魔道具と言えるほど複雑な代物ではないのだ。あくまで魔銃の一部と言った位置付けだろう。

 だが錬金術を今より上手く使えるようになれば、そのうち自分で新しい魔銃が作れるようになるかもしれない。

 まぁ、ブラックホークとホワイトヴァイパーの他に、オフィーリアが死に際に遺してくれた魔銃がもう一丁あるのだけれど、今のところ使う場面が無いから収納空間の底で眠っている。もし自分で魔銃を作るとしたら、こいつを充分に使いこなせるようになって、それでも対応出来ない場面を想定したものになるだろう。


「錬金術や魔道具に関しては、授業で教えるわね」


「はい、よろしくお願いします」


 個人的に教えてもらいたい部分もあるが、それは高望みしすぎか。授業でやるなら都合が着く限り傍聴させてもらうとしよう。


「あとはそうね、貴女の動作性能を見せてもらった方が良さそうね」


「それは構いませんが、何をすればいいのですか?」


「そう難しい事じゃないわ。私の作ったゴーレムと戦ってもらうだけよ」


 へ?

 実戦形式なの?


 一瞬思考停止したが、冷静になった頭は単純にして的確な答えを出した。

 そう言えばオフィーリアもちょっと基礎を教えただけですぐに本番させてたな。

 あの師匠にしてこの弟子ありか。


 俺は納得しながらも、アナベルの後に着いて校庭へと移動した。







 目の前に立つゴーレムは1.8メートル程度の大きさで、以前樹海で戦ったやつのような大きさではない。全身に凹凸が殆ど無く、デッサン人形を人間サイズにしたようなものと言えば良いだろうか。


「なるべく素の性能を見たいから、武器なんかは使わないで戦ってもらえるといいわね」


「解りました」


 魔銃は禁止か。

 まぁ、自惚れるわけじゃないが、この身体は基本性能も高い。相手は魔導人形ではないゴーレムなので魔法による遠距離攻撃の心配も無いし、見たところ以前のあのゴーレムのようなパワー型ではないだろう。つまり同じ土俵で戦えば俺が有利というわけだ。

 何の問題も無いな。


「じゃあ行くわよ。始めぇ」


 気の抜ける開始宣言と同時に構える。


「え?」


 目の前にゴーレムが居た。


 速い!

 そう思うより先に、金属製の拳が強かに俺の鳩尾を打った。


「ぐっ!」


 押し出されそうになった呻きを堪え、一旦距離を取ろうと後ろに跳ぶ。だがゴーレムは一瞬の隙も許さず、ぴったりとくっついてきた。


 このままでは拙い。追撃される前に仕掛けなければ。

 手に出した魔力刃で追いすがるゴーレムに斬り掛かる。


 キィン


 甲高い音を立てて、俺の魔力刃とゴーレムの装甲がぶつかり、そして一方的に弾かれた。

 迫る拳をしゃがんで躱し、身を屈めたまま脇をすり抜け背後を取る。がら空きの背中に魔力刃の刺突を放つ。

 しかし鋼の装甲は刃を通さない。


 くそっ、やっぱり斬撃で装甲を破るのは無理か!

 あの時のゴーレムみたいに動きが鈍いなら同じ箇所に何度も当てれば……っ違う!

 覚えてない記憶が勝手に出てくるな!


 意図せずに湧いてくるあの時の記憶。だが俺はそんなの知らない。俺が俺ではなかった時間など受け入れるわけにはいかない。

 俺は俺だ。


 ゴーレムの拳を魔力刃で防ぎつつ、自分の中の記憶を振り払う。

 ゴーレムの拳は強く正確だが、それでも決して鋭くは無い。ただ力任せに振るっているようで、格闘戦として基本的な構えや挙動が滅茶苦茶だ。だから冷静に対処すれば防ぐのは何とかなる。

 素人レベルなのは俺も同じだが、魔力刃のリーチがあるだけ有利だ。

 とはいえ今のうちに有効打を見付けないと。

 そう思った矢先、ゴーレムの動きが止まった。


 何だ、と思ったのも一瞬。

 ゴーレムの胸部装甲が開き、奥から筒状の機構が露出した。

 筒の中に青白い光が燈る。


「あ」


 これ知ってる。


 ゴーレムの胸の砲から炸裂弾が発射されたのは次の瞬間だった。

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