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メイド人形はじめました  作者: 静紅
魔法学校
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第七十話 呪術師じゃないのか

 怪我をした生徒は腕を押さえて呻いている。


「道を空けてください!」


 俺は叫ぶと同時に生徒達を掻き分けながら、収納空間から回復薬を出した。

 怪我人の前に辿り着くと、その腕に回復薬をかける。


「痛っ!」


「我慢しろ!」


 苦悶の声を漏らす生徒を叱咤しながら応急処置を施す。

 彼の足元には血の雫と真ん中から折れたマガジンの成れの果てが落ちていた。

 こいつ、よく見たら脚も少し怪我してるじゃないか。


「ダームエル先生、私は彼を医務室に連れて行きます!」


「解った。誰か案内を」


「私が行きます!」


 名乗り出たオリビアに先導を頼み、俺は男子生徒を抱え上げた。


「え、あの」


「大人しくしてろ」


 男子生徒は嫌がるが、怪我人、しかも子供が遠慮するなんて十年早い。

 あと脚を気遣いながら肩を貸すのも面倒臭い。


「ナタリア、こっちよ!」


「わかりました!」


 そしてオリビアの案内で医務室に走り、養護教諭に男子生徒の怪我を治療してもらった。と言っても俺の回復薬で殆ど治っていたので、念の為の消毒と包帯を巻いた程度だが。

 どうやら即座に回復薬をかけたのが良かったらしい。


「大した事が無くて何よりだ」


 休み時間になって医務室を訪れたダームエルは溜息を吐きながらそう言った。クールに見えて優しい良い先生だよな、この人。


「それでロジャー、原因は何だ?」


 ダームエルが尋ねると、男子生徒は気まずそうに俯いた。

 この男子生徒、ロジャーって言うのか。

 あ、こいつ授業の始めに、俺に教わるのに難色を示していた生徒だわ。


「ねぇ、話してくれないと先生達も困るのよ? それとも、言えないわけでもあるの?」


 黙っているロジャーに業を煮やしたオリビアが笑みを浮かべながら問い詰める。

 あ、これ機嫌が悪いときの顔だ。そういうところはオフィーリアに似てるよな。

 でも何でオリビアはこんなに怒ってるんだろう?


「…ナタリア…先生の収納空間が凄かったので、真似してみようとして、その、失敗しました」


 ロジャーは観念したのか、言い澱みながらも話してくれた。


「失敗とは、どのようなものだ?」


「魔道具を収納空間に入れてみて、そしたら回収の号令が掛かったから慌てて出そうとして、でも出しかけのところで収納空間を解除しまいました……」


「はぁ。まず、授業中に他事をするな」


 話し終えたロジャーに、ダームエルは深い溜息を吐き、教師としてお説教を開始した。


「そして収納空間は習得こそ容易な魔法だが、隙間に物を挟むと強い圧力が掛かるし、中に物がある状態で解除すれば中身が強制的に吐き出され、衝撃となって術者を襲う。習得難易度に反して危険な魔法であると教えた筈だ」


 え、何それ初耳なんですけど?

 収納空間ってそんな危ない魔法だったの?


「小石一つ分程度だったとしても、大怪我に繋がる。以後気を付けるように」


「はい…」


「全く、気を付けてよね。ナタリアが用意した魔道具も壊しちゃうし」


 肩を落として項垂れたロジャーに、今度はオリビアが容赦無く追撃する。


「あの、おじょ、オリビアさん、私は気にしてませんので」


 いつも通りに呼ぼうとしてしまい、慌てて言い直す。

 ロジャーも反省しているようだし、マガジンだってまだまだあるから別に構わないのだが、オリビアはそうは思っていないらしい。俺がロジャーを擁護すると頬を膨らませてそっぽを向いてしまった。

 俺の事を心配してくれてるのは判るけど、ここで騒ぎ立てして大事にするの方が厄介なので我慢して欲しい


「怪我は軽いので問題にはなるまい。それにナタリア先生はあくまで臨時講師だ。もしもの場合は私が責任を取るからオリビアも機嫌を直せ。それにそろそろ教室に戻らねば、次の授業に遅れるぞ」


 見兼ねたダームエルが話を打ち切るよう促すと、オリビアは不満げながらも引き下がった。あとダームエルがさりげなく格好良い。


 そして俺達は共に医務室を後にしたのだった。


 しかし収納空間にあんな危険性があったとは。簡単に伸びるのも考え物だな。普通は注意すべき点を見落とす可能性がある。

 などと考えながら歩いていると、不意に肩を掴まれた。


 オリビアもダームエルもロジャーも俺の前にいる。

 不思議に思いつつ振り返ると、俺の肩を掴んだ者の顔が目に入った。

 色白を通り越して蒼白と言える肌に濁った瞳、その真下には墨を塗りたくったような深い色の隈。生きた人間の顔とはお世辞にも言えない。


「みぃつけた」


「ぎゃああぁぁっ!」


 脳内に幽霊や亡霊といった単語が出現した俺は声を上げて飛び退いた。


「ナタリア!?」


「どうした!?」


 俺の悲鳴に他の面々も足を止めるが、続くダームエルの言葉に俺は一瞬間抜け面を晒した。


「なんだ、アナベル先生か。研究室から出ているのは珍しいな」


 は?

 先生?


「ふへへっ、私も出来れば部屋に篭って研究していたかったんだけど、オフィーリア師匠の創造(つく)った魔導人形が私の授業に興味を持っていると聞いたから、こうして会いに来たのよ」


 そう言ってアナベルと呼ばれた挙動不審な女性は不気味に口角を歪ませながら、深淵の底から滲み出すような声で言った。


「始めまして、私はアナベル。担当科目は魔道具と錬金術よ。よろしくね、メイド人形さん」


「あ、はい。ナタリアと申します。こちらこそよろしくお願いします」


 俺は若干気後れしながらも頭を下げた。


 いや、でも魔道具と錬金術の担当?

 嘘だろ?

 深い紫色のフード付きローブ姿でそれは無理がある。


「ふぅん、なるほどねぇ」


 アナベルは姿勢を変えては、俺の全身をあらゆる角度から眺める。


「これが師匠の魔導人形なのねぇ。素晴らしい出来だわ」


「あの、それは―」


「アナベル先生、もうすぐ次の授業が始まるぞ。そういうのはまた今度にしてくれ」


 気になる発言をしたアナベルに尋ねようとしたが、ダームエルが遮った。確かにもう少しで休み時間が終わってしまうので、教師としては仕方ないか。


「ああ、そうね。なら今日の午後は暇かしら?」


「ええと、特に予定はありませんが」


 臨時講師はさっきの時間だけで、午後からはいつもの生活に戻るつもりだった。


「じゃあ午後に実験棟の工作室の隣にある私の研究室に来て頂戴」


「は、はい」


 俺は見続ければ呪われそうな眼に迫られ、押し切られるように頷いてしまった。


「楽しみだわぁ、ふへぇ」


 そう言うとアナベルは踵を返し、夢遊病のようにふらふらと覚束ない足取りで帰っていった。


「変わった先生ですね…」


「ええ」


 オリビアが呟いた一言に俺も首を縦に振った。


「だが彼女の技術は折り紙付だ。それに彼女は君の母、オフィーリア氏の弟子だったそうだ」


「ああ、やっぱり」


「え?」


 俺にとっては発言から薄々予想していた、オリビアにとっては予想外だった発言に、俺達はそれぞれ違う声を漏らす。

 どうやらアナベル先生には色々聞かなきゃいけない事があるようだ。


0083のキャラではシーマ様が一番好きです

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