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メイド人形はじめました  作者: 静紅
魔法学校
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第六十七話 男友達と街をぶらつくだけでした(過去形)

 魔法学校の長期休暇ももう終盤。半年振りの帰省だというのに、家の中やオフィーリアとシューマさんの墓の掃除に庭の手入れ、それが終われば手に入れた魔晶石を使って予備のマガジン作りなどをしていたら、いつの間にか時間が過ぎていた。

 明後日にはイングラウロに向けて発たなければいけないので、馬車に同乗させてもらう商隊との契約の確認に商業ギルドを訪ねた。

 前回と同じ商隊で、元からオフィーリアの付き合いがあった事もあり、ものの数分で終了した。


 思っていたよりも早く済んでしまったがどうしようか。

 帰ってしまってもいいのだが、せっかくなのでもう少し町を歩きたい。ミールの店に行ってみるのもいいかもな。

 そう思っていると、視界の隅に見覚えのある姿が映る。

 そいつはまだ開いていない酒場を、腕を組んで見上げていた。

 うーん、これは声を掛けるべきか否か。なんだか面倒臭そうな気配がするなぁ。

 よし、見なかった事にしよう。


「お、ナタリアか?」


 だというのに、俺が踵を返すより先にそいつの目は俺を見付けてしまった。


「人違い、いえ、人形違いです」


「お前みたいな魔導人形が他にいるかよ。つーか、帰ってきてたのなら言えよ」


 ダニーは馴れ馴れしく俺の肩に手を回し、調子の良い笑顔を浮かべる。

 やめろ。男にベタベタされる趣味は無ぇ。


「それで、そういう貴方は冒険者を辞めて不審者に転職したんですか? 警備隊に通報が必要ならしてあげますが」


 手を払い除けながら身を離すと、ダニーはバツが悪そうに頭を掻いた。


「相変わらず厳しいなぁ」


「この酒場がどうかしたのですか?」


「あー、いや、なんでもない。それよりせっかく久しぶりに会ったんだから、暇なら少し付き合えよ」


 窓から店の中を覗こうとした俺を遮るダニー。

 これは何かあるようだが、そこまで必死に隠すなら無理に踏み込むのも野暮か。時間もある事だし、ここは乗ってやるとしよう。


「予定は無いからかまいませんが、でしたら少し待ってください」


 そう言って路地に入り、幻影魔法で姿を隠し、収納空間に入れていた私服に着替える。


「お待たせしました」


 せっかく友人と遊ぶのに、メイド服のままでは堅苦しいだろう。

 それにこういう機会にでも着なければ、俺の私服の大半は無駄になってしまう。以前なら樹海に行くときに着たりもしていたが、あの件以来一人で樹海に入るのは止めたからなぁ。


「それで、どうします?」


「じゃあまずは買い物なんてどうだ?」


「その辺りが無難なところですね。では行きましょうか」


「ああ」


 ダニーはあれからも依頼をこなしつつ、冒険者としての経験と積んでいたようだ。市場の方に向かう道すがら、その事を得意げに話してくれた。


「それで漸く依頼のマーダーベアを倒したけど、殆ど儲けにならなかったんだ」


「薬や罠を使いすぎですね。掛かった費用を考えれば当然でしょう」


「そうなんだよなぁ。ジェーンさんにも言われた」


「でしょうね」


 一つの依頼をこなすのに、掛かった費用が報酬を食い潰しかけてる。

 よくある話だが、実際にそうなると日々の生活すらままならなくなってしまう。

 俺の場合はオフィーリアの遺産がまだまだあるのと、殆どの傷は時間を掛ければ自己修復してしまうし食事も必要無いからあまり痛手にはならないのだが、ダニーのようなまだ中堅ですらない冒険者だと致命的だろうな。


「とは言え、早く倒さないと近いうちに近くの村に被害が出そうだったし、他に誰も行こうとしなかったから」


「お人好しですねぇ」


「惚れるなよ?」


「天地がひっくり返っても無いです」


 生憎と身体が女型になろうとも、普段メイドを演じていても、俺のジェンダーは男のままだし、そっちの趣味だって無い。


「ん、この店、魔道具を売ってるみたいだぞ」


 ダニーが足を止めたのは指輪やネックレスなどの装飾品を中心に並べた露店だった。

 確かに立て札には魔道具と書いてある。


「バメルは冒険者が多いからな、こういう店は多いし質も良いのが揃ってるんだと」


 それは初耳だ。

 まぁ、俺が知ってる街はバメルとイングラウロだけだから比較しようが無いのだが。


「お、なかなか良い物を置いてるな。これなんか似合うんじゃないか?」


「少し派手ではありませんか?」


 ダニーが指差したのは緻密な細工に数種類の宝石がちりばめられた金の指輪だ。

 前言撤回。少しどころか滅茶苦茶派手だ。


「俺はこれくらいの方が好みだけどなぁ」


「ああ、そうですか」


 何故俺がお前の好みに合わさねばならんのか。

 派手なのを好む気持ちはわからなくも無いが、これは流石に派手すぎる。

 あ、でもこの店は魔道具屋だよな。

 ならここに並んでるアクセサリーも何かしらの効果がある筈だ。


「店主、お尋ねしますがこの指輪はどういった効果があるのですか?」


「ああ、そいつは着けた者を毒なんかから守ってくれるのさ。単純な毒だけじゃなく麻痺毒なんかも防いでくれるぜ。かなり値は張るが、今うちに置いてある免疫系魔道具の中では最高の逸品だ」


 俺が尋ねると、ドワーフらしい小柄な店主は気前よく教えてくれた。

 なるほど。免疫系か。

 毒と言われて思い出すのは以前戦った殺人鬼だ。俺が魔導人形だから奴の麻痺毒を受けずに済んだが、生身の人間だったら間違いなく殺されていた。

 たとえどれだけ強くとも、身動きを封じられてしまえば最早何も出来ない。

 ならばこの魔道具は今後の為にも買っておいた方が良いだろう。


「ちなみにお値段は如何ほどですか?」


「ちょっと高いぞ」


 そう前置きして店主が示した金額は俺が参考書作りで貯めた儲けをほぼ丸々毟り取るほどだった。ちょっとどころかかなりの値なんだが。

 高ければ良いというものでもないし、ふっかけられている可能性もある。しかしダニーの言葉を信じるなら、少なくとも粗悪品という事は無いだろう。それに金を惜しんで身を危うくするのも馬鹿馬鹿しい。金で安全が買えるなら悩むまでも無いか。


 鞄の中に開いた収納空間から代金を取り出して店主に渡した。


「はい、まいどあり」


「結局買うのかよ」


「誰も買わないなんて言ってないでしょう」


 何故か妙にニヤニヤしている店主から指輪を受け取り、散策を再開した。


 それから特に目的も無く市場の中を見て回り、今は休憩にと広場のベンチに腰掛けていた。


「そういやさっきは俺の方を話したけど、そっちはどうなんだ?」


 ダニーの言うのは、この町を出てからどうしていたのかという事だろう。

 別に隠すような事でもないか。


「イングラウロに行ってからはお嬢様のお世話の傍らで錬金術や魔道具作りの練習をしたり、魔法の参考書を作ったりする毎日でしたね」


「錬金術は解るが、魔法の参考書ってどういう事だ?」


「ああ、それはですね」


 俺はダニーに魔法学校の教科書の問題点と改善部分を説明した。

 現在の教科書は情報をただただ羅列している状態だ。これでは要点が解りにくく、読んだ者の理解力や記憶力によって大きく差が出てしまう。授業で教師の説明を聞きながらならばまた話は別だが、授業を受けるだけで済むなら優劣など着かないし誰も苦労しない。

 何事にも個人差、各々に合ったペースややり方がある。俺の作った参考書は、そういった一人一人の幅に合わせるためのものだ。


「色々やってるんだな」


「元はお嬢様の為に始めた事ですけどね」


 結果的に商売に繋がっただけであり、俺が参考書を作る根本的な目的はあくまでオリビアの為だ。


「あとは、合間で樹海に入って魔物を相手に戦闘訓練などをしていました」


「相手の魔物も気の毒に」


「冒険者の貴方がそれを言いますか」


 そこで先日のオーガと戦ったときの事を思い出した。

 あのとき俺は足から魔力刃を出そうとしていた。今まで一度もした事が無い筈なのに、ゴーレムとの戦闘でそれをした記憶はある。

 俺の認識と記憶の齟齬。その場にいたダニーなら何か知っているかもしれない。


「ダニー、聞きたい事があるのですが」


「何だ?」


「ミールさんとジェーンさんの四人でゴーレムと戦ったときの事を覚えていますか?」


「それは覚えてるが」


「あのとき、私はゴーレムに叩き落されたところで気を失い、目が覚めたのは家でご主人様にメンテナンスして頂いているところでした」


 ゴーレムは全て破壊したとオフィーリアは言っていた。だからあのゴーレムは駆け付けたオフィーリアが倒してくれたのだと、ずっとそう思っていた。

 だがオーガ戦で収納空間を使ってリロードしようとしたり、足から魔力刃を出そうとしたりして、そこから知らない記憶が芋蔓式に浮かび上がってきた。

 それらが示すのは、俺の知らない一つの事実。


「あのゴーレムは…私が倒したのですね?」


「…ああ、そうだ。あのゴーレムを倒したのはお前だ」


 ダニーは一瞬口籠ったが、確かに頷いた。


「ジェーンさんは、あれが本来の魔導人形だって言ってた」


「そうですか」


 予想はしていたが、俺の身体が俺の意識が無いのに動いたという事だ。

 思い出せる限り、ゴーレム戦以外に身に覚えの無い記憶は無いが、それもただ思い出せないだけかもしれない。

 “俺”という精神と“ナタリア”という肉体の食い違い。こんなのは初めてだ。

 今まで“俺”=“ナタリア”だと思っていた。だがもしそれがただの思い込みだったら……


 オフィーリアはオリビアの為に魔導人形(ナタリア)創造(つく)ったと言っていた。それなら俺じゃない本来の魂と言うべきものがあったんじゃないか?

 そしてその魂は今でもこの魔導人形(なか)に宿っているかもしれない。

 もしそうなら俺は……


「その、なんつーか、自分が自分じゃなくなるなんて、怖い、よな」


 選びながらも紡がれたダニーの言葉に、俺はやっと自覚した。

 ああ、そうか。

 俺は怖いんだ。

 自分が自分じゃなくなるのが。

 一度死んで、転生して、今こうしていられる機会をくれたオフィーリアとその娘のオリビアの為なら死んでもいいと思ってた。いや、それは今でも思ってる。

 でも“俺”が“俺”じゃなくなって、“俺”の意思が無くなったまま消えるのは怖い。

 死んでもいいと思ってるけど死にたいわけじゃない。

 ただ、どうせ死ぬなら、“俺”は“俺”のまま、“俺”として死にたい。

 だけれどそんな願いは叶うのか?

 どれだけ願ったところで、俺が魔導人形である事に変わりは無い。

 人ではなく、魔物で、突き詰めて言えば物でしかない俺の願いにそんな価値があるのか?


 ぽんっ


 不意に頭に手が乗せられた。


「上手く言えねぇけど、そんな湿気た顔すんな。お前は余裕ぶって笑ってる方が似合ってるよ」


 見ればダニーは困ったような、かなり無理矢理な笑顔を浮かべてた。

 なんだよ、アドバイスにもなってないぞ。それで励ましてるつもりかよ。


「まったく、お前にそんな事言われるなんて」


 そもそも野郎に頭撫でられたって全く嬉しくないんだよ。


 まぁ、でも、そうだな。

 悩みすぎるのも俺らしくない。

 きっと悩んで解決するものでもない。


 それにオフィーリアがこの事を話さなかったという事は、きっと知る必要が無かったからだろう。

 恐怖も不安もある。

 でも信じよう。(ナタリア)創造(つく)って育ててくれたオフィーリアを。


「お、少しはらしくなってきたな」


「別にお前に言われたからじゃねぇよ」


 つーか、いつまで手を乗せてやがる。


 頭を振って手を退かせると、ダニーは目を丸くしていた。


「お前、そんな喋り方するんだな」


 あ、しまった。

 つい素で喋ってた。


「いいんじゃねぇの。なんとなくそっちの方がしっくり来るわ」


 自分の迂闊さに思わず顔を伏せ、更に両手で覆った。

 俺のアホォ…


「いやマジで似合ってるって」


 声が笑ってんじゃねぇかッ!


「ナァァァァァァ」


 ああ、もう最悪だ。


「タアァァァァァ」


 オフィーリア以外には隠してきたのに。


「リィィィィィィ」


 よりによってこいつの前でやらかすなんて。


「アアァァァァァ!」


 ん?

 誰か呼んだ?


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