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メイド人形はじめました  作者: 静紅
魔法学校
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第五十四話 餌をやってみる

 学校生活が始まって既に数ヶ月、オリビアの成績不振はクリスティナによる補習授業である程度解消された。どうやらあれから二人は普通に仲良くなったようで、エイミーを含めて三人でよく一緒にいるらしい。


「ナタリア、クリスのところに言ってくるわね」


「はい、いってらっしゃいませ」


 最近オリビアはクリスティナを愛称で呼ぶようになっていた。


 それは良いのだが、少し困った事もある。

 いや、それは言いすぎか。これは極めて個人的且つ些細な事だ。


 このところオリビアが甘えてこないのだ。

 以前はしょっちゅう抱き着いてきて、応えるように頭を撫でていたのだが、それがめっきり減っている。

 オフィーリアの死から本格的に立ち直ってきたという事か、それとも思春期だからか、あるいはその両方か。


「寂しい、と言うのは我侭かねぇ」


 閉まった扉に向かって独りごちる。


 何にせよ俺の勝手な感傷だ。

 オリビアも構われたくない歳でもあるだろうし、むしろ俺がオリビア離れしなきゃいけないかもな。


「さて、お嬢様も頑張ってる事だし、俺も自己鍛錬といきますか」


 家事は完了、エイミーに納品する参考書の原稿も夜のうちに書き終わっている。となればする事は一つしかない。

 狩猟を兼ねた戦闘訓練だ。







 という訳でやってきましたお馴染みのバーヘン樹海。

 服装は以前と同じ仮面の冒険者スタイルだ。

 当ても無く彷徨っても良いのだが、今回は一応寄る所がある。具体的な場所は不確かだが、近付けば大体判るから大丈夫だろう。


 道中で遭遇するお馴染みの魔物達は、これまたお馴染みの方法で倒していく。

 ついでに最近、参考書作りの為に教科書を読んでいて覚えた、攻撃魔法ではない魔法も試してみるか。


「スタンドミラージュ」


「ブオオゥ!」


 ハイオークの更なる進化種、オークソルジャーが跳躍した勢いそのままに巨大な戦斧を振り下ろす。

 俺は回避もせず、ただそれを見ていた。


 ドォン!


 戦斧が俺の身体を通り抜け、地面に激突して土埃を巻き上げる。


「ブゥ?」


 オークソルジャーが困惑した声を漏らす

刃が透過した俺は微動だにせず、その前に立っている。


「ブオウ!」


 オークソルジャーは事態が理解出来ず錯乱したのか、再び戦斧を持ち上げ、縦に横にと無茶苦茶に振り回し始めた。その度に力任せに空気が裂かれる鈍い音が鳴るが、どれだけ繰り返そうと俺はその場に黙って立っている。

 どうやらこの魔法は効果的のようだ。

 満足した俺はオークソルジャーに魔力弾を食らわせる。

 貫通した魔力弾と共に赤い血を噴き出したオークソルジャーが力無く倒れ、同時に使っていた魔法を解除する。

 オークソルジャーが今まで斬り掛かっていた俺は風に攫われるように掻き消え、代わりにオークソルジャーの背後に俺は立っていた。


「幻影魔法は面白いけど、やっぱり難しいな」


 オークソルジャーが相手していたのは俺が幻影魔法で作り出した幻だ。俺自身は同じように幻影魔法で姿を隠し、オークソルジャーの背後から効果の程を窺っていたのだ。

 ある意味結果は予想以上であり、また別の意味では予想通りだった。


 教科書には魔術師や熟練の戦士なら幻影魔法は簡単に見破れるので実戦では使えないと書かれていたが、知能の低い魔物相手ならば(デコイ)としては充分なようだ。これは予想以上。

 だがこの幻は動かすのが非常に難しい。下手をしたら手足が身体から離れたり、身体的にありえない変な姿勢で投影されてしまったりして、今の俺では使いこなせない。姿を消すのも、ゆっくり歩かないとすぐに姿が見えてしまう。これは予想通り。

 何にせよ、考え無しに使って撹乱出来るようなものではないというわけだ。


 気を取り直して、まだかろうじて息のあるオークソルジャーを引き摺りながら以前来た場所に近付くと、あの匂いが漂い始めた。

 どうやらさして移動していないようだ。

 茂みを掻き分けると、大きな巨木に蔓を巻き付けたマンイーターが見えた。


「よう、元気か?」


「シャーっ! シャーシャー!」


 声を掛けるとマンイーターは蔓を高く上げて威嚇してきた。

 どうやら俺の事を覚えているらしい。

 なんとなく『こっちくんな』って言っているような気がする。


「あー、当然の反応だとは思うが、今回は何も採らないよ」


 新鮮なオークソルジャーをマンイーターの前に投げてやる。


「……」


 マンイーターはこちらの意図が判らないのか、俺を警戒したまま動こうとしない。


「実のお礼、と言うかお詫びだ。良かったら食ってくれ」


 俺は敵意が無いとアピールするように離れた場所に腰を降ろす。

 そのまま様子を窺っていると、マンイーターや徐々に警戒を解いてくれたのか、木から離れてオークソルジャーの上に覆い被さった。


 ギュルッ、ギュっ、ゴキュルッ


 ベムスター、いや、どっちかと言うとアストロモンスか。

 花の中央にある口が粘液を滴らせながらオークソルジャーを丸呑みにする光景を眺めて、懐かしい怪獣を思い出した。


 食事を終えたマンイーターが木に戻っていく。

 俺も用が済んだので立ち上がった。


「シャー」


 今までと違って穏やかな鳴き声に目を向けると、マンイーターは自分が寄生している木の枝をまさぐっていた。

 何をしているのか不思議に思って見ていると、マンイーターは蔓の先にサクランボに似た赤い実を巻き付け、俺に向けて差し出した。


「シャー」


「くれるのか?」


「シャー」


 肯定するように鳴くマンイーター。

 こんな見た目の植物の魔物にそこまでの知性があるのかと少し驚き、それならむしろ騙して襲ってくるんじゃないかと警戒し、おっかなびっくり近付いた。

 警戒は杞憂に終わり、すんなりと木の実を受け取った。

 何だろう。マンイーターが可愛く思えてきた。

 また餌やりに来るのも良いかもしれない。


 それからは適当に森の中とうろつき、適当に魔物を倒し、時折すれ違う冒険者に軽く挨拶し、特に問題無く一日が終わった。

プライベート多忙で書き貯め出来ていないため、年内は一回の投稿につき一話とさせて頂きます。

投稿ペースは維持しますのでどうかご了承ください。

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