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メイド人形はじめました  作者: 静紅
魔法学校
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第五十話 ラッキースケベ

 鞭のように襲い掛かる無数の蔓。身を捻りながらその隙間を躱し、避けきれないものは魔力刃で防ぐ。


 バメルを出る前にミールに作ってもらった紫鋼の篭手の使い心地は良好。実はこの篭手、魔力刃を使いやすくする為のものなのだ

 魔力刃とは放出した魔力を刃の形で固定したもので、以前使っていた革の篭手は伝導する魔力に耐えられずグローブ部分がボロボロに傷んでいた。だが紫鋼は魔力伝導に優れ、俺の身体を内部から動かしている神経糸と同じもの。つまり俺の身体の一部同然なので魔力刃の負荷を受ける事は無い。

 結果的に魔力刃を形成する精度が増し、切れ味がよくなった。


 相手は凶暴な食人花、マンイーターだ。

 地球の一般的な(?)マンイーターのイメージとは違うかもしれないが、この世界のマンイーターは寄生植物だ。太い茎と蔓をまるで蛇のように木に巻き付け、その木から養分を奪いつつ甘い匂いで獲物を引き寄せていると魔物図鑑に描いてあったのを覚えている。

 何でそんな魔物と戦闘になっているのかというと、このマンイーターの実はかなり美味らしく、丁度実を付けていたので頂こうと思ったからだ。

 略奪?

 狩猟なんて元々そんなもんじゃん。


「キシャアアァァァァ」


 マンイーターが大きな花の中心にある口を開いて威嚇する。

 だが小動物じゃあるまいし、その程度で俺が怯むわけが無い。

 むしろ知識にしかなかった魔物との実戦に、仮面の下で笑っているくらいだ。

 ちなみに目的の果実は花の隣にあり、大きさはスイカくらいで形はザクロに似ている。


 振り下ろされる蔓を掻い潜り、一気に距離を詰める。

 マンイーターは本格的に危機を感じたのか、実を支えるだけの蔓を残して、あとの花と蔓が木から離れる。そして蔓を絡め合い、巨大な身体を形作った。ビオランテの花獣形態に似てる。


「シャッ!」


「おっと」


 マンイーターが口から液体を飛ばした。余裕で避けたが、液体は地面に落ちると発泡音と共に煙を上げた。

 溶解液か?

 だけどそれくらいじゃあな。


 左腕を射出。

 撃ち出された左腕の魔力刃が花に突き刺さる。だけどそれで終わりじゃない。

 腕は勢いを失わず、そのままマンイーターを押し飛ばし、近くの木に叩き付けた。


「シャ、シャ」


 マンイーターは足掻こうとしているが、貫通して木に刺さった魔力刃に磔にされて身動きが取れない。


「さて、それじゃ」


 左腕の神経糸を垂れ流しながら、右手の魔力刃でマンイーターの実を切り落とし、そのまま真下に開いた収納空間に収める。


「シャア~~」


 マンイーターの鳴き声がとても悲しそうに聞こえる。

 すまんなぁ。


「貰うのは実だけにするから許してくれよ」


 俺はマンイーターのスピードでは追ってこれないほどの距離まで離れ、魔力刃を消して左腕を回収する。

 マンイーターは植物の魔物だし、あれくらいじゃ死なないだろ。また暫くしたら実を付けてないか見に来よう。移動出来るようだから宿主の木を捨てるかもしれないが、そうなったらそうなったで別にいい。


 さて、森に潜ってもうかなり経つが、未だにティラノガビアルが現れてくれない。物欲センサー仕事すんな。

 他の魔物や兎や鹿など普通の動物は見掛けたが、新武器の練習にならないようなのは適当に追い払っている。死ぬまで向かってくるのもいるが、それは仕方ない。

 なんにせよ、今回の収穫らしい収穫はこのマンイーターの果実が最初だ。

 早速この初戦果を味わってみようと、適当な木の下に腰を下ろして収納空間から実と包丁とまな板を取り出す。

 何で包丁とまな板なんか持ってるのかって?

 メイドの嗜みと応えよう。


「さーて」


 まな板を敷き、実に包丁を入れようとしたそのとき。


「きゃあああぁぁぁぁぁぁ!」


 ガクッ


 ベタ過ぎて思わず脱力してしまった。


 今時そりゃ無いだろう。

 せっかくマンイーターの実を試食しようと思ったのにさぁ。

 でもここで無視するのもなぁ。


 俺は手早く収納空間に仕舞い、渋々声のした方に向かった。


 少し走ると四人組のパーティーが魔物と戦っていた。

 前衛には槍を持った人間の男と剣を持った犬獣人の男、後衛には魔術師らしいエルフの女と長いブロンドの清楚な美少女。一見するとオーソドックスなパーティーのようだが、最後の一人が妙に浮いている。

 前衛連中は喰い千切られてこそいないが、所々に傷を負って血を流していた。放置すればいずれ失血死するだろう。


 場所が場所だけに魔物に襲われるのもその結果も自己責任だ。

 それは別に良い。問題は魔物の方だ。


「グゥゥゥゥ」


 低い唸り声を上げながら迫る巨体の魔物、ティラノガビアルだった。


 叫んでくれてありがとう!


 俺は内心で歓喜の声を上げた。


 ティラノガビアルは前にミールと一緒に倒したやつよりも小振りだが、このパーティーに勝ち目は無さそうだ。

 前の二人はボロボロで、魔術師は錯乱しているのか、詠唱途中で詰まって魔法発動が上手くいっていない。もう一人の女は戦力外のようだ。

 他人の獲物を横取りするのはマナー違反だが、これはもう行っちゃって良いよな?


「グァオ!」


 大きな顎が開いて襲い掛かろうとした瞬間、茂みから飛び出して無防備な喉元を魔力刃で貫いた。

 ブラックホークでこいつを仕留めるのは大変だが、今はこれがある。

 収納空間から抜いたホワイトヴァイパーをこめかみに当てて引き金を引いた。癖になりそうな振動と共に夥しい魔力弾が吐き出される。きっちりマガジン一本分撃ち尽くしてやる。

 ティラノガビアルが白目を剥いて沈黙したので、魔力刃を振り抜いた。

 切り裂かれた喉から大量の血が溢れ、足元に赤い水溜りを作る。


「さて、余計なお世話だったか?」


 澄まして尋ねると、前衛二人は呆気に取られたような顔をしていた。

 危うく死ぬところだったんだから無理も無いか。


「あ、ああ、いや、助かったよ」


 冒険者達は半ば困惑しながらも平静を取り戻したらしい。


「皆さん、まずは傷の手当をしましょう」


 奥にいたブロンドさんがメンバーを集めて治療に当たる。だが、そうすんなりとは進まないようだ。


「えぇっ!? 薬草も回復薬も切れたか!?」


「さっきので最後だったんだ」


 なにやら冒険者連中が騒ぎ出した。


「あの、すまないが…」


 振り向くと槍を持っていた男が申し訳無さそうにしていた。


「助けてもらった上にこんな事を頼むのは申し訳無いんだが、薬草か回復薬を持っているなら分けてくれないか?」


 どうやらこのパーティー、回復手段が尽きたらしい。

 魔術師がいるなら回復魔法も使えるだろうに。

 そう思って魔術師の方を見ると、彼女は顔を青褪めさせて首を横に振った。


「あいつももう魔力が無くて。本当に申し訳無い」


 なるほど、それなら仕方ないか。

 回復薬なら自分で作ったやつがかなりある。バメルではギルドで買い取ってもらっていたので、品質は市販品と比べても遜色無いものだ。


「判った」


 別にパーティーを組んでいるわけでもないんだが、トラブルを避ける為にもくれてやろう。むしろそうすればティラノガビアルを全部貰っても文句言わないだろ。


「何本だ?」


「とりあえず、三本」


「なら、これもやる。まだあるから必要なら言え」


「あ、ああ。恩に着る」


 収納空間から出した回復薬とおまけの魔力薬を渡して、彼らが手当てしている間にティラノガビアルの解体を済ませる。

 性能の上がった魔力刃だと前より簡単に出来るな。それでも骨を切るのは大変だけど。


「あの、助かったよ。本当にありがとう。俺はギィセ。俺達は街に引き上げるが、次に会ったときは何か礼をしたいから君の名前を教えてくれないか?」


「名前か…」


 しまった。

せっかく素でいられる時間が出来たのに、ここで本名を名乗ってもし街中で会って正体がバレでもしたらオリビアに知られる可能性がある。

 顔を仮面で隠しているとは言え、可能性は小さくとも潰しておくべきだ。

 ここは偽名を言わねば。


「レイジだ」


 咄嗟に知ってる暗殺者の名前を言ってしまった。

 我ながらよくそんな古いアニメキャラがすんなり出たと驚いている。


 解体し終わったので立ち上がり、細切れにした肉を収納空間で呑み込む。

 うん、まだまだ入るな。


「え、何だ、今の?」


「収納空間…よね? ティラノガビアル一頭分?」


 冒険者達がおかしなものを見るような目を向けてくるが無視だ。

 さて、俺も目的は達成したし、いい時間だからそろそろ引き上げるか。

 こいつらと同道するのも面倒だから、適当にぶらつきながら帰路に着いた。







 寮に戻ったが、オリビアはまだ帰っていないようだ。

 今日は寮母さんが休みだから夕飯は自分で作らなければいけないから、早く着替えて作り始めよう。

 どうせ他の生徒も食べたがるだろうから、多目に作らないと。せっかくだからティラノガビアル尽くしやってみようか。

 スープやサラダに入れるのもいいが、メインはやはりステーキだな。

 デザートのマンイーターの実は早い者勝ちになるが、足りないので仕方ない。

 よし、今日はこのメニューで行こう。


 ガチャ


「ナタリア、ただいま」


「あ、お帰りなさいませ、お嬢様」


「……」


 ん?

 ナタリアは何でドアを開けたまま固まってるんだ?

 その目線の先には俺がいて……


「あ……」


 俺は着替えている途中、しかもさらし代わりのタオルを外したところだった。


「し、失礼しましたっ」


 慌てて胸元を隠したが、どう考えても手遅れだ。

 確実に見られただろう。


「う、うん、ごめん。部屋の外で待ってるね」


 そう言ってオリビアはもう一度は部屋から出て行った。


 うわ、恥ずかしい。

 いつも部屋でメイド服に着替えるときはオリビアが起きる前だから油断してた。


 つーか、中身男の人形の着替えとか誰得だよ。

オリビアが得してるよ。

オリ得だよ。

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