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メイド人形はじめました  作者: 静紅
魔法学校
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第四十八話 ナタリア先生のはちみつ授業

オリビアの成績を向上させるのが最優先事項よ(17歳ボイス)

 オリビアが席に着き、俺も自分の机から椅子を持ってきて隣に座る。


「まずこちらを見てください」


 一枚の紙を取り出して机に広げる。


「これは?」


「魔法の基礎の要点を纏めておきました。」


 俺が勝手に教科書に書き込んだりするのも気が引けたので、代わりに全部手書きしたのだ。凄く面倒だったが仕方ない。


「教科書と合わせて説明しますので、ご自分でノートに書いてください。一通り終わったらちゃんと覚えているかテストをします。そして覚えられなかったところを復習して再テスト。それを繰り返します。基礎を覚えるには反復するのが確実ですので」


「わかったわ」


 勿論テストも俺の手作りだ。


「では始めますよ」


 こうしてオリビアへの補習授業が始まった。





「56点です」


「うぅ」


 一度目のテストの結果はやはり優秀とは言い難いものだった。


「いえ、まだ始めたばかりですので。ここから苦手を克服していきましょう。では今間違えた箇所をもう一度説明しますね」





「42点ですね」


「あ、あれ?」


 一回目より点が下がっている。

 俺の説明解りにくいのかな?


「次はもう少し噛み砕いて説明しますね」





「24点です」


「…ごめん」


「少し休憩しましょう。お茶をお淹れしますね」





「16点…」


「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい」




「3…点…」


 俺もオリビアも力尽きたので、今日の補習授業はここまでになった。

 あぁ、明日はもう少し解り易い説明を心掛けよう。







 ナタリアによる補習授業が行われた翌日の昼休み、オリビアはエイミーと一緒に食堂で昼食を取って、そのまま話し込んでいた。


「回を重ねるごとに点が悪くなっていったと」


「うん」


「それで、これがナタリアさんの用意してくれた纏めなの?」


 エイミーはオリビアが差し出した紙にざっと目を走らせる。


「うわ、凄く解り易い」


 学校の教科書は魔法陣を除けば文字でびっしりと埋まっているのだが、ナタリアの書いた纏めは教科書が文章だけで説明している部分を図で説明し、特に重要な箇所にアンダーラインを引くなどして、とても同じ事を書いているとは思えなかった。

 彼女が前世の教科書等を参考にした結果なのだが、オリビアやエイミーがそれを知る由は無い。


「でもどうしてこれで散々なの? オリビアは確かに勉強苦手だったけど、お母さんに補習してもらった後の休み明けテストなんかだと平均点くらいは取れてたのに」


「だって、すぐ隣でナタリアがすっごく凛々しい顔してて、そっち眺めるのに夢中で勉強なんて頭に入らなかったんだもの」


「怒られなかった?」


「怒られたわよ、何度も。でも怒ったナタリアも綺麗なの」


「重症だね」


 昨夜の授業風景を思い出して恍惚の笑みを浮かべるオリビアに、エイミーは溜息を漏らす。


「でも実際問題どうするの? その調子じゃAクラスから落とされるのも時間の問題だよ?」


 エイミーの言う通り、今のオリビアの成績ではいずれAクラス不相応の評価を下されるのは目に見えていた。別に不都合は無いと言ってしまえばそれまでだが、将来の目標やオフィーリアの名誉などを考えると、受け入れ難いものであるのもまた事実だ。


「ナタリアさんが近くにいても大丈夫なように慣れるか、他の人に教わるかだね」


「慣れるのはまだ暫く無理かな。昨日頭を撫でられたときも嬉しすぎて心臓爆発しそうだったもの」


 表に出ないように努めていたが、意中の相手とのスキンシップは年頃の少女には刺激が強すぎたようだ。それでも避けたり控えたりしようとは思わないのは、複雑な乙女心故にだろうか。


「早く慣れないと日常生活に支障をきたしそうね。一応解決方法に心当たりはあるから、また用意しとくよ」


「うん、お願い」


 オリビアがナタリアと再会してから事あるごとに抱き着くようになったのは、実はエイミーの入れ知恵だったりする。尤もナタリアにとってオリビアは主人の娘か手の掛かる妹といった認識なので、効果の程は芳しくないが。


「話を戻すけど、それならナタリアさん以外の誰かに教わるしかないんじゃない?」


「うーん、でもそんなに仲の良い人はいないし、この間の決闘のせいで周りから勝手にライバル認定されちゃってるから」


「塩送ってはくれないよね。でもオリビアに教えるならAクラスの人じゃないと意味無いしなぁ」


 Aクラスの生徒の大半は入学前から魔法を学んでいる貴族の子弟が多い。流石に全員というわけではないが、彼らは入学早々に実戦における高い実力を示したオリビアに対抗意識を燃やしていた。


 ちなみにオリビアは上級生からも注目されているのだが、それはまだ本人の知らぬところである。


「ねぇ、エイミーはその纏めの意味解るんでしょ? だったらエイミーが教えてよ」


「確かにナタリアさんが纏めてくれた範囲は私でも解るけど、そのうち授業内容で差が出る筈だからその場しのぎにしかならないよ」


 エイミーの言う通り、今は入学したてなので各自の能力を再確認する為に各クラス共通で基礎部分を教えているが、いずれクラスに合わせた授業内容に分岐して行く。そうなればBクラスのエイミーにAクラスの授業内容を教える事など出来なくなるだろう。


「誰かAクラスでオリビアを敵視してなくて気兼ね無く教われる人いないの?」


「そんな都合の良い人いるわけが――」


「あ、あの」


 エイミーの言に肩を竦めようとしたオリビアが声に振り向くと、そこには一昨日決闘した相手の片割れであるクリスティナ・バーナードが立っていた。


「お話中すみません。今、お時間頂いてもよろしいでしょうか?」


「あ、うん。いいわよ」


 予期せぬ来訪者に二人は目を丸くしながらも、その話を聞く事にした。


「先日はご迷惑をお掛けしました。申し訳ありません」


 そう言ってクリスティナは深く頭を下げた。

 学内で貴族の権力は通じないとはいえ、彼女は子爵家の娘である。それが庶民であるオリビアにこれほどまで丁寧に頭を下げるのは、いくら魔法学校の中でも滅多に無い事だった。


「あ、ああ、その事だったらもう良いわよ。マティアスも謝ったし、クリスティナ、だっけ? 気にしないで」


「いえ、それでは私の気が治まりませんから、何かお詫びをさせてください。私に出来る事なら何でもしますから」


 予想外の申し出に、オリビアとエイミーは顔を見合わせた。

 しかし次の瞬間、二人は声を揃えて叫んだ。


「「都合の良い人いた!」」







 昨日の反省を活かし、と言いたいところだが、正直自分では何が悪かったのか判らない。

 実のところ、教科書に載っている魔法の理論は理解出来るが、初級攻撃魔法すら満足に仕えない俺では自分の理解が正しいのか確かめる術が無いし、説得力に欠けるのだ。しかしどうにもならない事でもあるので、割り切ってしまうしかない。

 なので昨日より範囲を絞り、言葉を更に噛み砕いて説明する事にした。もう噛み砕いて磨り潰して砂のようにさらさらな言葉で教える所存だ。


 後はオリビアが帰ってくるだけ。


「ただいま、ナタリア」


「お帰りなさいませ、お嬢様」


 授業終了予定時刻から程なくして、オリビアが帰ってきた。

 さぁ、早速今日の補習授業の始まりだ。


「クリスティナが勉強教えてくれる事になったから。今からクリスティナの住んでる第一寮に行ってくるわね」


「え?」


 オリビアはそれだけ言うと、俺が止める間も無く出て行ってしまった。


 クリスティナ?

 決闘で俺が相手したリス獣人の女の子だよな?

 なんでオリビアの勉強教えてくれる事になったんだ?

 どういう経緯で?

 今日用意してた補習の準備要らなかった?

 俺、オリビアより弱い上に勉強教える事すらさせてもらえないの?


 残された俺は状況が飲み込めず、それ以上に自分の『要らない子』っぷりにアイデンティティが崩壊するのを感じていた。

ナタリア「今回タイトル詐欺じゃないか」

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