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メイド人形はじめました  作者: 静紅
魔法学校
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第四十七話 成績対策

 入学早々に決闘という大事をやらかした夜、疲れを翌日に残さないようにいつもより早めに就寝した。部屋の両端に配置されたベッドの一方で、オリビアが規則正しい寝息を立てている。


 俺は音を立てないようにベッドから起き上がり、オリビアの机の上に置かれた鞄を開ける。中には学校の授業で使う魔法の教科書が入っていた。

 自分の机に向かい、教科書を捲る。

 今夜は月が明るい。それでなくとも以前より格段に夜目が利くようになっているので、闇の中でも支障無く読み進める事が出来た。


 今の校内でオリビアが気兼ねなく頼れるのはエイミーくらいだろうが、彼女はBクラスなのでAクラスの授業内容について教えを請うわけにはいかない。


 ならばどうするか。

 俺がやるしか無いじゃないか。


 最近、と言うか今更になって気付いたのだが、魔導人形に睡眠は必要無い。なので俺はいくらでも徹夜出来る。勿論それだと精神的に参ってくるので、適度な休息は必要だが、逆に言えば気分だけの問題なのだ。

 前世で発売直後のゲームを攻略するのについ徹夜して翌日朦朧としていたが、今の俺には睡魔など敵でもない。

 と言うわけで、今夜は頑張って魔法の勉強をする事にした。







「お嬢様、今日学校から帰ったら私が授業の補習を行いますね」


 登校の支度をしながらそう告げると、オリビアは目を(しばたた)かせた。


「ナタリアって魔法使えないんじゃなかったっけ?」


「確かに攻撃魔法は使えませんが理屈は理解出来ますので、座学をお教えするには問題ありません」


 オリビアの言う通り、俺の攻撃魔法の適性は皆無と言っていい。初級魔法すら低威力低射程だ。

 だがその理屈や理論の話ならまた別だ。実技は無理でも、教科書の内容くらいは理解出来るし、前世の経験から要点を絞るのもある程度出来る。


「ご主人様のようには行かないかもしれませんが、私なりに精一杯お教えしますね」


「ナタリア、ありがとう」


 そう言って微笑むオリビアを見送り、俺は早速補習授業の準備に取り掛かるのだった。







 授業が終わる予定時刻から既に一時間が経過している。

 もう帰ってきてもいい頃だと思うが何かあったのだろうか?

 いや、もしかしたら昨日の決闘が切欠で新しい友達が出来たのかもしれない。

 勉強は大事だが、それだけの生活になるのは良くない。

 もう少し待とう。




 更に一時間経った。

 遅いな。

 いい加減心配になってきたんだが。

 うーん、でもオリビアも年頃だし友人付き合いもあるだろうしなぁ。


「あー、どうするかなぁ」


 取り敢えず部屋にいても気が滅入りそうなので、気分転換に軽く散歩する事にした。

 寮を出て校舎の方に歩く。

 暫く進むと、何かあったのか、校庭には小さな人集りが出来ていた。


「昨日決闘した辺りだな」


 気になったので人並みに紛れて中心を覗いてみる。


「フレイムタワー!」


「遅いっ! 雷煌電撃(らいおうでんげき)!」


 オリビアの雷を纏った拳が炎の柱ごと男子生徒を殴り飛ばしていた。

 いや、何やってるの?


「決着、勝者オリビア」


 昨日に同様にダームエルが勝利を宣言しているが、その声は何処か投げ槍だ。


「オリビアの勝ちだから配当金は2.3倍だよ! 予想が外れた人は次で取り戻そうねー!」


 エイミーは集まっている生徒達と賭け事に興じていた。と言うか元締めをしていた。

 いや、何やってるの?


「さぁ、次は誰が相手? 幾らでも相手になるわよ!」


「ほう、では私のお相手をして頂きましょうか」


 得意気にシャドーボクシングをしているオリビアに背後から声を掛ける。


「げえっ、ナタリア!?」


「げえっ、じゃないですよ。何やってるんですか」


 飛び退いたオリビアは頬を引き攣らせて目を泳がせていた。


「いやぁ、朝からいろんな人から決闘を申し込まれて、それに応えてたらつい楽しくなっちゃって…」


「すまないな。昨日の件が学園中に広まってしまい、血の気の多い生徒がオリビアに挑もうと集まってしまったのだ。昨日も言ったが、決闘となると止めるわけにもいかん。本来はこんなに軽々しく行うものではないのだが」


 そう言ってダームエルは額を押さえながら項垂れた。彼の立場なら怪我人が出ないように気を遣うのが精々だろう。むしろこんな事に着き合わせてしまって申し訳無いくらいだ。

 エイミーはいつの間にかいなくなっていた。逃げ足の速いやつだ。


「そうでしたか。因みに今の戦績はどうなんです?」


「九勝目! 次で十人抜きよ!」


 胸を張って答えるオリビア。確かにその結果は凄いが、だが今は褒めるわけには行かない。そんな気にならない。


「お嬢様、帰りますよ」


「え、せっかくじゅ―」


「帰りますよ」


「……はい」


 流石にこちらの言いたい事を理解したのか、オリビアも肩を落として小さくなった。


「おい待て! 次は俺と戦ってもらうぞ!」


「いいえ、私よ! 貴女の魔闘術を私の魔法で打ち破ってやるわ!」


 これでやっとオリビアの成績不振解消に乗り出せると思ったのに、こいつらはまだ続けるつもりか。


「皆様、お嬢様はお忙しいので、今日のところはお引取りください」


「逃げるつもりか!」


「人形ごときが決闘の邪魔するんじゃな――」


 ヒュン


「――い」


 首筋に魔力刃を、眉間にブラックホークの銃口を添えて、五月蝿い二人を黙らせる。


「もう一度言いますよ。お引取りください」


 努めて冷静に言いながらも睨み付けると、それまで騒いでいた彼等はだらだらと汗を垂らしながら頷き、逃げるように退散していった。


 まったく、俺程度の動作など、ミールやダニーなら軽く躱して反撃に移っているし、昨日の決闘の動きを見る限りオリビアも同様の事が出来るだろう。彼等のレベルでは話にならないのだ。

 諸々の始末をダームエルに任せ、俺はオリビアを寮へと連行した。







 寮の部屋に帰り、補習授業の用意を始める。


「ナタリア、その…」


 背後のオリビアが何か言いたそうにしているので、手を止めて振り向く。


「怒ってる?」


 何を言うかと思えば。

 俺は呆れ混じりに小さく息を吐く。


「お嬢様、私がどう思っているかより、まず自分で自分の行動を省みてください」


「自分の行動を?」


「そうです。今朝から私が決闘の現場に行くまでの間の行動を。そうした自分自身を」


 オリビアは俯き、小さく肩を震わせた。


「ナタリアが私の為に勉強の事を考えてくれてたのに、約束破って…凄く悪い事した…」


「それが判るのでしたら、どうするべきかは明白な筈です。そこに私がどう思っているかは関係ありません」


 相手が怒っているから謝る。じゃあ怒ってないなら謝らないでいいのか?

 違うだろ。


「……ナタリアは私の為にしてくれてたのに…ごめんなさい」


「はい、許します。ですからもう気に病まないでください」


 言葉に少しの笑みを交えながら、俯いた頭を撫でる。

 初めて会ったときよりも大きくなったが、それでもまだ子供なんだ。

 楽な方に流れる事もあるし、それで他人に迷惑を掛ける事もあるだろう。誰からも好かれるようになる必要なんて無いが、それでも自分に恥じない自分であってほしい。


 って、ああぁ、こんな説教臭いの柄じゃないんだけどなぁ。


 やっぱりオリビア相手だと手の掛かる妹の面倒見るような気分になってしまう。


「さぁ、気持ちを切り替えて、未来の為にお勉強しましょう。いつか私と一緒に冒険するのでしょう?」


 自分自身がこの話題を終わらせたい。


「うん、私、頑張るわ」


 顔を上げたオリビアの笑顔は、以前にも増して可愛らしかった。

 俺はロ……最近のオリビア、そっちにカテゴリされなくなってるんだよなぁ。

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