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メイド人形はじめました  作者: 静紅
魔法学校
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第四十二話 学校生活開始

 食事は朝と夜の二回、入浴はいつでも可能と、寮はなかなかに快適だった。流石に実家の超便利魔道具に囲まれた生活と比べると多少の不便はあるが。

 厨房は後片付けをきちんとするなら貸してもらえるので、昼食を自分達で作る事も出来る。

 メイドとして面目躍如だ。

 厨房で包丁を振るっていたら匂いに誘われたのか、他の寮生達も集まってきて全員分作るはめになったのには笑うしかないが。

 だがそのお陰で早く寮に馴染めたのは僥倖だ。

 寮生は殆どが平民で、たまに下級貴族が使用人無しでいる程度らしい。

 国内最高の魔法学校とあって上級貴族も通っているが、彼らは自宅から通うか近くの別邸や高級宿を利用している。下級貴族は金銭面、または上級貴族への配慮などの理由で寮に入っているのだと、俺の料理を食べた寮生が教えてくれた。

 とはいえ学内で身分を笠に振舞うのは厳禁とされているので、上級貴族から理不尽な命令をされる事はあまり無いらしい。

 よかった。

 上級貴族なんかと絡んで面倒になるのはごめんだからな。

 それとオリビアがエイミーという猫獣人の友人と再会出来たのもまた幸運だった。エイミーの母親はオフィーリアと友人だったらしく、二人も幼馴染なんだとか。

 ちなみに様付けで呼んだら、貴族もいる場所で主人の縁者でもないのに様付けはしない方がいいと言われた。俺からしたら仕える主の友人、しかも二代に渡ってなので、それ相応の対応をすべきではないかと思ったのだが、結局さん付けで落ち着いた。

 そんなこんなで数日が過ぎ、今日はいよいよ魔法学校登校初日だ。

 と言っても入学式があるわけじゃない。

 クラスは事前に通達されているので、そこで説明と小テストを受けて今日は解散。明日から本格的な授業だ。

「どう、ナタリア、似合う?」

 制服に身を包んだオリビアがくるりと一回転して見せてくれる。

「ええ、とても良くお似合いです」

「ありがとう。お母様にも見せたかったなぁ」

「お嬢様…」

 最近は塞ぎ込む事こそ無くなったが、こういうふとした瞬間に思い出してしまう事が増えた。

 いやいや、駄目だ。

 俺まで暗くなってどうする。

「さぁ、お嬢様、お(ぐし)を整えますから、座ってください」

 オリビアを強引に椅子に座らせ、髪を櫛ですく。元々質の良い黒髪は引っ掛かる事も無く、櫛の動きに従って整列する。

「はい、出来ました」

「うん、ありがとう」

 立ち上がって振り返るオリビア。

「さぁ、行きましょう!」

 そこにいたのは、いつもの活発で元気な我が主だった。







 クラスは入試の結果によってA、B、Cの三つに分けられている。オリビアはAクラスだ。

 当然だが授業に立ち会う事は出来ない。道中でメイドや執事とすれ違ったが、彼らも自分の主を送ってきたのだろう。

 俺達が教室に着くと、既に何人かの生徒が来ていた。

 自分の割り当てられた席に向かうオリビアと別れ、俺は寮に戻る事にした。

 帰り道でも教師や生徒、その使用人とすれ違う。

 流石は多種族統一国家なだけあって、人間以外も多い。

 エルフやダークエルフ、獣人の姿がちらほら見える。流石に魔法適性の無いドワーフはいないが。

 オフィーリアが以前言っていたように、種族が違えば文化や思想も違うだろう。オリビアも前の学校でそれは感じたと思うが、ここで更に理解を深めてほしいものだ。

 まぁ、俺自身があまり理解してないんだけどな。

 寮に戻って、俺は自室ではなく厨房に来た。

 オリビアは校舎に食堂があるけど、俺の作った弁当が食べたいと言っていた。作るのはいいのだが、それが登校中だったのは困ったものだ。なので今から作って昼休みに持って行く事にしたのだ。

 さて、肝心の食材だが、多少自由に使っていいとは言え、量に限りがあるし、何よりほしい食材が無い。近いうちに町に行って自前で用意する必要がある。

 不自由に思いながらも弁当を仕上げる。

 少しシンプルだが、今作れるのはこんなものだろう。

 俺はバスケットを手に寮を出た。昼休みは少し早いが、待合室で待てばいい。

 校門の前を横切ろうとすると、生徒の集団が見えた。

 魔法の実技授業のようだ。

 教師と思われる大人の男性が石盤に手を翳して土の的を出現させる。どうやら家にあるのと同じものらしい。

 その的に生徒が一人ずつ魔法を放っている。

 待機している生徒の中にオリビアが見えた。

 という事はAクラスか。残念ながらエイミーの姿は無いので、彼女は違うクラスのようだ。

 にしても的までかなりの距離があるし、その的もかなり小さい。

 Aクラスだけあって、生徒達の魔法の発生は早く、飛翔速度もかなりのものだ。だが肝心の命中率はと言うと、一発当たるのが精々だった。

 撃ち終わった生徒は皆一様に肩を落としている。

 うん、まぁ、あまり気にするな。

 俺だったらそもそも届かないもん。

 慰めにもならない事を考えていたら、男子生徒が氷魔法を三発命中させた。

 金髪の間から黒い縞の入った黄色い耳が飛び出している。あれは獣人と人間のハーフの半獣人(ハーフビースト)か。

 これまでで最高の成績に、周囲から羨望の視線が向けられる。

 顔にはまだ幼さが残っているが目鼻立ちが整っていて、いずれかなりのイケメンに育つと確信出来る。

 て言うか既にイケメンだ。

 今度はリスの獣人の女の子が二発当てた。

 この娘も凄いなぁ。

 俺だったらそもそもt(ry

 そしていよいよオリビアの順番が回ってきた。そう言えばオリビアが魔法を使うところは見た事無いなぁ。

 まぁ、あのオフィーリアの娘だし、昔魔法を教わったと言っていたからたぶん大丈夫だろ。

 周囲に五つの炎が同時に、渦巻くように現れた。

 今まで見た炎より明らかに大きい。

 これには周囲の生徒達もどよめいた。

 オリビアが的に手を向けた瞬間、五つの炎が爆発した。

 その場で。

 俺だったら……俺でも一メートルくらいは飛ぶよ。

 おかしいなぁ。

 炎魔法を使った筈なのに、皆目を丸くして凍り付いてるぞ。

「……!?」

 すっかり肩を落としたお嬢様が下がろうと振り返った瞬間、偶々目が合ってしまった。

「え、えーと」

 気まずく思いながらも笑顔を作って小さく手を振る。

「―――――!」

 オリビアは何か叫んで頭を抱え込んでしまった

 もしかして俺、止め刺したのか?







「どうしたの、これ?」

 エイミーの開口一番がそれだった。

 授業初日の今日は午前中の小テストだけだったのだが、終わり際に結果が教室に貼り出された。

 我がお嬢様の成績はと言うと、何とぶっちぎりの最下位だった。

 うん、知ってた。

 自業自得と言えばそれまでだが、ショックを受けたお嬢様は目から光が消えていた。どうにか食堂まで引っ張ってきたが、席に着くと机に突っ伏してしまったのだ。

「ふーん、Aクラスは大変だねぇ」

「エイミーさんの方はどうでした?」

「私はBクラスで可も無く不可も無くって感じ。そもそも私が入学したのは魔法の勉強より商人の娘として見聞を広めたりコネを作ったりするのが目的だから。ナタリアさんも何か儲けになるような話があったら言ってね」

 エイミーの進学理由はかなり毛色の違うものだが、これだけ大勢の人が集まるなら理に適ってるかもしれない。中間のBクラスというのも丁度良いだろう。

 しかしちゃっかりしてるな。

「それよりオリビアはごはん食べないの? わざわざナタリアさんに作ってもらったんでしょ?」

「うー、そうだけど食欲無い」

 顔を上げず呻くように応えるオリビアに肩を竦めるエイミー。

「お嬢様、食べないと力が出ませんよ」

「じゃあナタリアが食べさせてー」

 オリビアが顔をこちらに向けて口を大きく開けた。流石にこれは甘えすぎな気もするけどなぁ。

「仕方ありませんね。今回だけですよ。ほら、姿勢を直してください」

「わーい、ナタリア大好きー」

 鳴いたカラスがもう笑ってる。

「はい」

「あーん。うん、やっぱりナタリアの料理は美味しい」

 やれやれ、親代わりになろうとは思ったが、まさか親鳥気分を味わう事になるとは。

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