第四十一話 魔法学校入学試験
新章開始です。
作中環境が変わって説明が多くなりますが、どうかご了承ください。
オフィーリアが死んでから二週間、俺の周囲は慌しく変化した。
まず冒険者ギルドでオリビアが冒険者に登録し、俺の従魔登録を変更した。オフィーリアは死ぬ前に主人権限をオリビアに譲渡していたので、これで名実共にオリビアが俺の新しい主人になった。
そしてそのオリビアがバメルから離れた都市にある魔法学校へ進学するので、俺もそれに着いて行く事にした。魔法学校は貴族なんかも通っているので、使用人が校内に同行するのも認められているらしい。
住み慣れた家や町を離れるのは名残惜しいが、それでも俺はオリビアに仕えたい。それが俺を創造ってくれたオフィーリアへの恩返しになると思うから。
町を離れる前にミールに挨拶に行ったら、凄く悲しまれ、それ以上に怒られた。『そんな状況になっててどうして今まで話してくれなかったんですか!』と。あんなに怒ったミールは初めて見たが、まさか完成していた特注の篭手を投げ付けられるとは思わなかった。
オフィーリアが倒れてからは町に来る余裕など無かったと説明したが、機嫌は直らず、学校が長期休みに入って帰省するときはまた会いに来ると約束してどうにか許してもらえた。
ジェーンはオフィーリアの呪いを知っていたらしく、からっと笑っていたが、それが強がりなのは俺でも判った。けど俺は踏み込んで言える立場でもないので、ただ深く一礼して別れた。
そして遺産の整理も充分とは言えないが、必要なものを可能な限り収納空間に詰めて家を出た。
ちなみにアリアはオリビアの従魔に登録せず、野良に戻った。アリアなりに思うところがあるのだろう。ただ、出発前に寄ったら餞別に大量の鋼糸と鉄糸をくれた。
「あ、ナタリア、見えてきたわよ」
オリビアの声に、俺は読んでいた本から顔を上げる。
馬車の窓から覗けば、前方にバメルの倍以上に巨大な都市が見えた。
バメルから街道を馬車で数日、再びバーヘン樹海沿いへと舞い戻る。
この国で最も大きな魔法学校がある都市、イングラウロだ。
無事に門を通過した俺達はこの都市にあるイングラウロ魔法学校を目指した。
魔法学校の入学試験は学科と実技で、受付したその日に行われ、合否判定もその日の内に下される。そして合格者はそのまま寮に入れるらしい。
オフィーリアのお陰で金銭的な余裕はあるが、締めるところは締めていこう。
バメルよりずっと大きな通りを、地図を頼りに、時折道行く人に尋ねながら、どうにか魔法学校に到着した。
早速学校の事務所に行き、受付で説明を受ける。
「はい。書類に問題はありません。試験会場にご案内しますね。不正防止の為、付き添いの方はそちらの待合室でお待ちください」
「じゃあ行ってくるわね、ナタリア」
「いってらっしゃいませ、お嬢様」
事務員に案内されていくオリビアを見送り、待合室に入ろうとしたそのとき、俺はふと思い出した。
今のうちに確認しておこう。
「あの、すみません」
「なんでしょう?」
「こちらの学校では使用人なども寮に入れると案内には書いてありますが」
入学案内のしおりによれば、この学校には寮が男女で二棟ずつあるらしい。流石は魔法国家一の学校だ。
「はい。学費に上乗せで同室になりますが入寮出来ます」
「それは魔物でも可能でしょうか?」
「え、魔物ですか?」
「はい。私は魔導人形ですので」
目を白黒させる事務員に腕を見せる。人間には無い関節の継ぎ目を見れば、俺が魔導人形だと理解出来るだろう。
「これは……少々お待ちください」
そう言って事務員は奥に引っ込んでいった。
暫く待っていると、中年の女性が現れた。
「お話を窺いますので、どうぞこちらへ」
女性に案内されたのは、待合室から少し離れた校長室だった。
「失礼します」
俺は背筋が痒くなるのを堪えながら、軽く一礼して入室する。
中で待っていたのは、柔らかい物腰にも威厳を感じる白髪混じりの男性だった。
「初めまして。校長のモーガンです」
場所からして当たり前だが、この人が校長だった。
「さて、魔物も使用人枠で入寮出来るか、でしたね」
「はい」
「魔導人形と伺いましたが、改めて確認させていただけますか?」
俺はさっき事務員に見せたのと同じように腕を見せる。
「むぅ、この関節は確かに…」
モーガンは俺の腕を見て唸っている。魔法学校の校長から見ても凄い出来とは、流石はオフィーリアだ。
「ちなみに外せます」
「なんと!?」
関節を切り離して見せれば、モーガンは驚きの声を上げた。
「外見は精巧、中の鋼糸まで上質。こんな魔導人形を作れる技術者が存在したとは」
「私をお創造りになったのはオフィーリア・エトー・ガーデランド様です」
「オフィーリア!? ガーデランド!?」
オフィーリアの名前を出した途端、モーガンの顔付きが変わった。
「そうですか。彼女が作ったなら納得です」
「校長先生はご主人様をご存知で?」
「ええ、彼女はここの卒業生で、私が担任だったので」
なんと、これは意外な偶然。
いや、違うな。
たぶん俺が知らなかっただけで、オフィーリアがこの学校を選んだのだろう。
「ふっ、彼女は在学中から並外れた能力の持ち主でしたからなぁ」
「お察しいたします」
虚空を見上げるモーガン。それは懐かしむと言うより、当時の苦労を思い出したような遠い眼をしていた。
「それで私の入寮は許可いただけますでしょうか」
「ああ、そうでしたね。会話からも貴女に確かな自我があると判りました。許可しましょう」
「ありがとうございます」
俺は頭を下げ、校長室を出ようとしたとき。
ドーーン
少し遠くから聞こえた爆発音に足を止めた。
「実技試験の会場の方角ですね。今年の受験生には優秀な子がいるようです」
そう言ってモーガンは頬を緩める。
何をしているのかは解らないが、かなり大規模な魔法を使ったようだ。
もしかして将来オフィーリアみたいになるようなチートの卵でもいるのだろうか?
「やったわ、ナタリア! 合格よ!」
「おめでとうございます、お嬢様」
待合室で待っていると、喜色満面のオリビアが飛び込んできた。
勢いそのままに抱き着いてくるオリビアを受け止めて頭を撫でてやる。
オフィーリアが死んでから、オリビアは何かにつけて抱き着いてくるようになった。本当ならまだ親に甘えたい年頃だし、俺が親代わりになってやらないとな。
「合格おめでとうございます。すぐに入寮されますか?」
「あ、はい、お願いします」
事務員に案内された先には、四階建てでかなり大きな寮が二棟並んでいた。ここが女子寮らしい。
俺達に宛がわれたのは第二女子寮二階の一室だった。
「あー、疲れたわ」
どさりとベッドに座り込むオリビア。
「お茶をお淹れしますね」
収納空間から茶葉とポットを出し、魔法で湯を沸かす。
「ナタリアの収納空間、凄く広いわよね。私は鞄一つ分も無いのに」
またまた、オリビアまでそんな事を言う。
オフィーリアみたいなチート魔導師じゃあるまいし、クローゼット二つ分くらい普通でしょ。
頑なに自分は普通だと主張するナタリア。
そもそも自分の存在自体が普通じゃない事を忘れています。




