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メイド人形はじめました  作者: 静紅
漆黒の魔女
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第三十九話 魔女の回想

 私の命は後数年くらいかしら。呪いを受けてから今まで治す方法が無いか調べたけど、どうにも無理みたい。

 死ぬのが怖くないと言えば嘘になるけど、それ以上に娘を残して逝くのが心配で仕方ない。

 娘が一人にならないように、傍で支えてくれる存在が必要だ。

 私が遺せるもの。思い出や魔法だけじゃなく、もっと直接的に。


 そうだわ、魔導人形を作りましょう。

 あの子の身の回りの世話をする、メイドの魔導人形を。


 身体は私が今まで溜めた素材と持てる技術の全てをつぎ込んで、世界最高の性能を与えましょう。

 制御系は融通の利かない半自律型より、柔軟に考えられる自律型の方が望ましい。でも自立型を一から作るのは私でも不可能だわ。

 普通の自立型は誰かの魂や思念が宿るか、半自律型が経験を積んで昇華しないと出来ないんだから。

 前者はつまり人を殺すわけだから却下。となると後者ね。

 学習能力の高い半自律型を創造って、そこから教育すればどうにかなりそう。

 そうと決まれば早速取り掛からなきゃ。

 名前は私の実家がイニシャルを統一しているから、逆に名前の終わりを私と同じにしようかしら。

 そうね、ナタリアにしましょう。





 まだ制御系術式を組み込んでいなかったのに動き出すなんて、こんな事あり得るのかしら?

 しかもまるで人間のように私の話に反応するなんて。

 私の指示には従ってくれているし、このままでもいいかしら。


 でも変な娘よね。

 いきなり料理の手伝いをするように言われても、慌てる事無く私のサポートをして見せたし、この家にある家具型魔道具の扱いもすぐに順応するなんて。

 あの人の形見でもあるブラックホークを勝手に出したのには怒ったけど、私もあの人も使いこなせなかった一点物の魔銃を初めてなのにしっかり当てたのには驚いたわ。

 いずれ何か武器を与えるつもりではあったし、使ってもらえた方があの人もブラックホークも喜ぶかしらね。





 学校が長期休みに入ってオリビアが帰ってきたわ。

 半年会わないうちにまた大きくなったわね。鼻や口元は私に似ているけど、目元なんかはあの人そっくり。


 オリビアもナタリアを気に入ってくれたみたい。

 カーテシーなんて何処で覚えたのかしら?


 やっぱりオリビアは学校の成績がいまいちね。もう恒例だけど、みっちり補習しなくちゃ。私がいなくなっても大丈夫なように、一般知識は身に着けさせておかないと。

 今回も難航すると思っていたけど、途中からオリビアがやる気を出してくれた。聞けばナタリアにコツを教わり、更に勉強の大事さを理解したらしい。


 本当に何なのかしら、あの娘。

 知識といい技術といい、これじゃまるで……





 ティータイム中にオリビアがナタリアの耳を触りだした。

 先日の授業中に耳を触るのは一部の犬系獣人にはプロポーズの意味があるって話したけど、それをするっていう事はつまりそういう事よね?

 ナタリアが明確に自我を持っているのは判っているし、恋愛は自由にすればいいと思うけど、まさかプロポーズするほどとはねぇ。


 あらら、肝心のナタリアは意味が解ってないみたいね。

 道は厳しいみたいよ。





 最悪のタイミングで森に入ったオリビアを探しに行って、私が見付けたときには殆ど事は終わっていた。

 とりあえずまだ抵抗する余地がある男達を魔法で縛っておく。ちょっと詰めの甘いところがあるのは実戦経験の少なさが原因ね。

 それを除けば概ね良い結果と言えるわ。

 オリビアを助けてくれた事だし、指示を聞かなかったのは許してあげましょう。

 それにこれで怒ったらオリビアが悲しむし。


「私にも好きな花が出来ました」


 この娘、こんなに嬉しそうに笑えたのね。

 まだ私の知らない面がありそうだわ。

 でも母親として、こんなに娘に好かれているのは少し妬けるわね。





 残念な事にナタリアは攻撃魔法が苦手だったわ。

 基礎現象を起こすくらいは出来るけど、それが攻撃魔法となると初級ですら上手く発現しない。家の裏で練習しているのをたまに部屋の窓から眺めていたけど、全く上達する気配が無かったわ。

 魔導核は正常に動いているから魔力は足りている筈だし、これは本当に適性が無いようね。

 とは言え遠距離からの攻撃手段ならブラックホークがあるから、あまり困らないみたい。

 実際、駆け出し冒険者が苦労する下位魔物の進化種やクランプボアにも難なく対応していたし。

 シャーマンエイプに気付かなかったのは意外ね。設計通りの性能なら、あの距離でも感知出来たと思うのだけれど。





 ナタリアには色々課題を出してみたけど、なかなかやってくれるわね。

 わざと格上の冒険者や魔物と戦わせてみたけど、その悉くに上手く対応している。

 友人と呼べる相手を見付けられたのも嬉しい誤算だわ。


 攻撃魔法は駄目だけど、その代わりに収納空間の拡張と魔力の実体化を習得するなんて、予想外もいいところ。

 私の予想を遥かに超える優秀さで、いつも冷静に行動するナタリアが感情を露にしたり私に頼ったりしてくれるのが嬉しくて、つい意地悪したくなるのだけど、許して頂戴ね。


 でも良い事ばかりじゃなかったわ。

 私が怪我をしても直すと言ったせいか、ミールを庇って腕を損傷してしまったわ。

 仲間を助けるのは良い事だけど、ナタリアの場合は何かおかしい気がするのよね。


「ああ、でも私は痛みを感じない人形ですし」


 魔導人形に痛覚は無いのに、まるで『痛み』というものを知っているような口振りね。

 でもそれならもう少し自分の身を省みてもいいと思うのだけど。

 もしかして今まで戦いが順調すぎて、危機管理能力が薄れているのかしら?

 アリアにお願いして、ナタリアの慢心を戒めてもらいましょう。

 アリアは元々あの人の従魔で、私にとっては恋敵でもあったわ。以前は一緒に住んでいたけど、あの人が死んでからは『離れたくはないけど、傍にいるのもつらい』と言って家の近くの洞窟に住むようになったのよ。


 話を戻すと、ナタリアはこのときも自分よりミールを優先しようとする節があったわね。

 ミール個人に執着しているのかもと思ったけど、二人の様子を見る限り普通の友人といった様子なのに。

 これはやっぱりナタリアの性格や価値観といったところに問題があるようだわ。

 あの予想が正しいなら、あの娘はどれだけ歪な人生を歩んできたのかしら。





 色々悩んだけど、ナタリアに錬金術を教える事にした。

 錬金術が使えれば身体の修復を自分で出来るようになるから、私がいなくなった後も大丈夫でしょう。

 でも不安もあるわ。

 やっぱりナタリアは自分自身を軽く見ている。

 そんな彼女が自分で自分を直せるようになったら、これまで以上に無茶をするようになるかもしれない。

 とは言え、今でも常に私が一緒に行動しているわけじゃないし、自己修復出来るようになるのはまだ先だから、それまでに矯正してあげればいいかしらね。





 町のゴーレムを全て破壊して駆け付けてみれば、まさかナタリアが自力で倒していたなんて。

 でもいつものナタリアじゃない。

 あれじゃあまるで魔導人形……魔導人形なのよね。

 町に出現していたゴーレムはBランク相当。こっちのゴーレムも同等と仮定するなら、今のナタリアが倒すのは不可能。

 いえ、本来のスペックなら倒せる相手だわ。

 つまりこれはナタリアが自分の性能を引き出した結果。

 それが今の無感情な魔導人形なのね。


 あの予想の確証がこんな形で得られるなんて、思いもしなかったわ。

 でもそんな貴女は誰も望んでいない。私も、オリビアも。

 主人権限の命令で眠りに就かせる。

 今は少し休みなさい。

 目が覚めたら、きっといつもの貴女に戻っているから。





 ミールの実家の一軒が片付いてから、ナタリアは何か思うところがあるのか、暇を見付けてはアリアの洞窟に通って特訓している。

 アリアがこっそり教えてくれたけど、暗闇の中を明かり無しで戦っているみたい。

 ゴーレム戦はあまり覚えてないようだけど、一度感じたものは身体が覚えているようね。きっと徐々に慣らしていけば、今の人格が呑まれる事は無いわ。

 ミールとの交友関係も続いているようだし、鍛冶屋とコネが出来たのは僥倖だったわね。

 さて、ナタリアの人格矯正はゆっくりやるとして、前に言っていたブラックホークの使用感を参考に新型の魔銃を作ろうかしら。その方があの娘の戦術の幅も広がるでしょうしね。


 そう思っていたのだけど、毎日が楽しくて忘れていたわ。

 彼女を育てているのは、私が心置きなく死ぬ為だったのよね。

 まさか呪いが急に活性化するなんて。

 この呪いをかけた彼は確かに死んだ筈なのに、どうして?


 理由は判らないけど、まだ駄目よ。

 もう少しだけ、あの娘達に伝えたい事があるんだから。

 お願い、ほんの少しでいいから、私に時間を頂戴……

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