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メイド人形はじめました  作者: 静紅
漆黒の魔女
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第三十一話 我、夜戦に突入す!

今回ちょっとグロ表現あります

 絶句とは正にこの事だろう。

 ファンタジーな世界で魔法や魔物を何度も見てきたが、目の前の女性はそれ以上のインパクトがあった。


「今日はよろしく頼む」


「あ、はい。こちらこそ、よろしくお願いします」


「お願いします」


 案の定オフィーリアは予定の時刻になっても町の門に現れず、待っていた俺とミールの前に現れたのが、この一見して性別がわかりにくいほど筋骨隆々な女戦士だった。

 我がご主人様の紹介なので実力は疑わないが、色々とアレだった。

 オフィーリアを姐さんと呼んでいるが、その呼び方はこのジェーンと名乗った女性の方が相応しい。


「やっぱり姐さんは来れないようだね。アタシ達だけで行こうか」


「それは構いませんが」


 俺はジェーンの背後に立っている男に目を向ける。

 そいつは俺もミールも知っているやつだった。


「何故ダニーがいるのですか?」


 ジェーンの後ろで大きなリュックを背負っているのは、俺が初めて冒険者ギルドに行ったときに絡んできたダニーだ。


「ああ、その件はうちの新人が迷惑掛けたね。そのお詫びってわけじゃないが、今日は荷物持ちに連れて来た。好きなだけ扱き使ってやってくれ」


 そういえばダニーはどこかのクランに属していると言っていた気がする。


「ではジェーン様はダニーと同じクランの方なのですか?」


「ああ、アタシはクラン『羽ばたく飛竜』のサブマスターさ。それとアタシに様付けなんてよしてくれよ、柄じゃない」


 クランというのはギルドに申請して作るチームみたいなものだ。パーティーよりも組織的なものと言えば良いだろうか。

 今は然程重要ではないので置いておくとして、まさかダニーの属しているクランのマスターがオフィーリアの知り合いだったとは。


「ダニーはそちらのジェーンさんがご主人様と知り合いだったと知っていたのですか?」


「いや、全然知らなかった。だからあのあとジェーンさんやクランマスターにこっぴどく叱られた」


「姐さんに迷惑掛けたんだから当然だ。クランマスターだってお世話になってる人だぞ」


 目を逸らしげんなりするダニーに、ジェーンは腕を組んで溜息を吐いた。


「それじゃあそろそろ向かおうか」


 バメルの町を出て森に着く頃には、既に太陽は沈んでしまった。満月なのでそれなりに見えているが、やはり暗いよりは明るいほうが良いので、フロートライトを起動する。


「お、助かるよ」


「いえ、この程度でしたら」


「そういえば二人は夜の森で戦った事はあるのか?」


 森の中を進みながら、先導するジェーンが尋ねてくる。


「いえ、ありません」


「私もです」


 俺もミールも夜の狩りは未経験だ。先日洞窟の暗闇は経験したが、屋外はまた勝手が違うだろう。


「そうだね、夜の狩りは昼間とは違う。単純に暗くて視界が悪いってのもそうだけど、出てくる魔物も昼とは違う夜行性のやつらが多い」


「夜行性の魔物って昼の魔物とは違うんですか?」


「ああ、違うね。全く別物だ」


 ミールの問いにジェーンは目を鋭くしながら応える。


「普段が真っ暗な闇の中で生きてる連中だ。目も耳も鼻も、昼の魔物よりずっと鋭い。考えてみな、暗闇の中で生きるって事は不意を突くか、突かれるかだ。つまり夜行性の魔物ってのは不意討ちのプロなのさ」


 突然ジェーンが背負っていた長柄戦斧を薙いだ。巻き起こった風で俺とミールの髪が翻る。

 一瞬遅れて、近くの茂みから狼の魔物がよろめきながら姿を見せ、首から血を噴き出して倒れた。


「二人はこいつがいたのに気付いてたかい?」


「…いえ」


 俺は全く気付いていなかった。


「私もです」


 それはミールも同様だった。

 この狼の魔物が潜んでいた茂みには光が届いていなかったが、ジェーンはそれを察知し、先手を取って倒した。しかも戦斧を直接当てたのではなく、振り抜いたときに発生した風で切り裂いたのだ。


「夜行性の魔物は常に獲物の隙を窺ってる。油断してたら一瞬で()られるぞ」

 俺とミールは顔を見合わせると頷き合い、互いに気を引き締めた。


「だから視界の確保が大事なわけだが、ナタリア、もっと明かるく出来るかい?」


「出来ますが」


「じゃあやってくれ。ちょっとだけな」


 フロートライトに込める魔力を増やすと明かりは強くなり、夜の闇を掻き消した。


「「!?」」


「あとは魔物の種族の性質を理解しとくってのも大事だな」


 明かりに照らされ、何匹もの狼が俺達を取り囲んでいるのが見えた。見えてしまった。


「狼は群で狩りをするんだ。一匹いたら、それはもう群から狙われてるって事さ」


 ミールはガビアルソードを抜き、俺もブラックホークを構える。


「ナイトウルフだ。一匹だと大した事無いが、群の連携には気を付けろよ」


 ナイトウルフは俺達に見付かった事で警戒心を露わにする。全員が牙を剥き、唸り声を上げ始めた。


「前衛は任せな。フォローは頼むよ!」


 ジェーンの戦斧が唸り、ナイトウルフが吹き飛ぶ。

 豪腕の一撃を低ランクの魔物が耐えられる筈もない。


「やあっ!」


 ミールのガビアルソードも、ナイトウルフの身体を苦も無く切り裂いた。しかし斬撃を受けたナイトウルフは身を翻し、後ろに下がるだけで致命傷ではないようだった。


「ミール、踏み込みが甘い。早く夜目に慣れないと間合いを掴めないよ」


「はい!」


 ミールの仕留め損ないを、俺がブラックホークで追撃する。


「ギャィン」


 ナイトウルフが悲鳴を上げて倒れる。

 しかしそれだけでは群は退いてくれない。

 どころか仲間の死に触発されたのか、次々と飛び掛ってきた。


「ふんっ!」


 ジェーンは大手クランのクランマスターだけあって、冷静且つ強力な一撃で狼の群を薙ぎ払っている。

 ミールはその隙間から漏れた敵を、長剣の間合いを計りながら迎撃する。

 もう少し明るい方が良いか?

 フロートライトに送る魔力を増やしての光を強める。


「あ、ナタリア、明るさは戻してくれ。ある程度夜目に慣れておかないと後で大変だ」


「わかりました」


 強めたばかりのフロートライト魔力を搾りつつ、こちらを窺うナイトウルフに牽制の銃弾を撃ち込む。


「キャゥッ」


「ガァッ!」


 銃弾を受けたナイトウルフが倒れるより先に、背後から別のナイトウルフが襲い掛かってくる。

 咄嗟に斬り伏せようと、左手に魔力刃を形成しながら振り向く。

 しかし俺が魔力刃を振るより早く、ダニーの剣がナイトウルフを斬り裂いた。


「へへっ、これくらい楽勝だぜ」


「助かりました。ですが調子に乗ってるとまた痛い目を見る事になりますよ」


「手厳しいなぁ」


 こいつが俺に負けた理由は油断だと思う。

 実力はあるくせに、俺が魔導人形だと気付かず、相手の腕が飛んだくらいで動揺して冷静さを欠いた。

 オフィーリアは最善を尽くせば勝てると言っていたが、逆に言えば不意打ちも含めてそこまでしなければ勝てなかった。


「貴方の腕は信頼しています。ですから足元を掬われないようにしてください」


「嬉しい事言ってくれるね、っと!」


 俺は別の敵を迎撃しながら、ダニーの動きを目で追った。

 こいつの事は嫌いだが、剣や戦闘センスに関しては見習うべき点が多い。

 盗めるところは盗ませてもらうとしよう。







 光が弾けるように砕け、最後の防御術式が消え去った。

 これで魔導核を守るものは無い。


「終わったわ。分解はお願いするわね」


「はい。心得ました」


 警備隊の技術者が待ってましたとばかりに工具を使い、魔導核の部品を外していく。

 オフィーリアはその様子を離れて見守りつつ、額に浮かんだ汗をハンカチで拭く。


「あんたでも汗かくんだな」


「私を何だと思ってるのよ」


 分隊長はオフィーリアの実力を知るが故に、これほど梃子摺(てこず)るなど予想していなかったのだ。

 始めたときは真上にあった太陽は地平線に沈みかけてしまっている。


「そうね。制御用も含めて中級術式が十六も組まれていたわ」


「聞き間違いか? 中級が十六と聞こえたが」


「そう言ったのよ」


 中級と言えば、防御魔法ならこの町を守る外壁以上の強度だ。それを十六もとなると、この魔導核の製作者は冒険者で言うAランクに届くかもしれない。


「Bランク程度の実力でも時間を掛ければ出来ないわけじゃないわよ」


「いや、そうかもしれんが、それでもかなりのものじゃないか」


 それをするだけの労力と根気が桁違いだと、分隊長は言いかけて、目の前の黒衣の魔導師は規格外だったと思い出した。


「分隊長、分解完了しました」


 技術者の声に、分隊長は意識を向ける。


「ご苦労。どうした?」


 先程オフィーリアの術式解析を見てやる気に満ちていた技術者が、今は顔を青くしている。


「いえ、その、自分も魔法と町の治安に関わっている者ですから、こういったものには多少見慣れていると思っていましたが…」


 そう言って場を空けた技術者。その後ろ、机の上に置かれた魔導核。分解されたそれを見て、分隊長は息を呑んだ。


「おい、それは…」


 魔法は人を傷付け、命を奪う技術である。その研究、技術は常に血塗られている。

 警備隊は治安維持組織である。暴力沙汰、時には殺人沙汰に携わる事もある。

 それらに関わる技術者、分隊長をして、それはあまり見慣れない、見たくないものだった。


「なるほどね。厳重に守るわけだわ」


 オフィーリアは冷ややかに、魔導核の中に収められていた心臓を眺める。

 そう、心臓だ。比喩でもなく文字通りの意味で、魔導核の中には心臓が入っていたのだ。


「これは魔物の心臓、だよな?」


「いえ、解析魔法で確認しました。エルフ族のものです」


 そうであってくれと願う分隊長に、技術者は目を伏せて首を横に振る。


「俺は門外漢だからよく解らんが、心臓ってのは魔導核の材料としてはどうなんだ?」


「中級以上の魔法を使える魔物ならいい素材だとは思うわよ」


「……人類は?」


「エルフは最適でしょうね」


 オフィーリアの言葉に、分隊長は拳を壁に叩き付けた。


「こいつの出所は必ず突き止める。グロッグはなんとしても逮捕だ」


 分隊長が呻くように口にした瞬間、部屋の扉が勢いよく開かれ、一人の隊員が飛び込んできた。


「分隊長、大変です!」


「許可無く入るな!」


 分隊長は魔導核の解析が終わるまでこの部屋に入らないよう、部下に厳命していた。気が立っていた事もあり、命令を破った部下に分隊長が声を荒げるのも仕方ないと言えば仕方ない。


「緊急事態です! 第三分隊、第四分隊から救援要請です!」


 それでも臆さずに告げた部下に、分隊長の顔色が変わる。


「何があった?」


「ゴーレムです! 街中で巨大なゴーレム二体が暴れています!」


 その場にいた人間全員の脳裏に一つの可能性が浮かぶ。


「まさかグロッグのやつが」


「あり得るわね」


 逃亡か、それともミールの父への妨害か。どちらにせよ、このタイミングで町中に出現したゴーレムがグロッグを連想させるのは当然の事だった。


「うちの隊員を集めろ!」


「既に招集を掛けました!」


 打てば響くような部下の返答だが、分隊長の気を紛らわせるには至らない。


「もしそのゴーレムの魔導核もこれと同じものなら、体の素材にもよるけどC+か、それ以上ね。門の封鎖に戦力を割いてる警備隊には厳しいんじゃないかしら?」


「それでも行かねばならんだろう。冒険者ギルドも緊急依頼が行っているとは思うが」


「まどろっこしいわねぇ。もしそのゴーレムがグロッグの仕業なら、私が持ち掛けた話が原因なのだけれど」


 部屋を出ようとしていた分隊長は足を止めて振り返る。


「頼めるか?」


「頼まれなくてもやるわ」


 何故オフィーリアがこの一件にそこまで拘るのか、分隊長には判らなかった。だがその理由より、警備隊としての矜持より、今は住人の安全を優先すべきだと、彼は自分の正義に基づいて判断した。


「頼む。この町を守ってくれ」


「ええ」


 短く応えたオフィーリアは部屋の窓を開ける。


「そうそう、このゴーレムがグロッグの仕業ならこれはきっと陽動よ」


「混乱に乗じて町の外へ逃げるつもりか?」


「私ならそうするけど、どうかしらね」


 それだけ言うと、オフィーリアは愛用の杖に腰掛け、開け放った窓から空へと飛び立つ。

 陽の沈んだ空に、黒衣の彼女の姿は溶けるように見えなくなった。

 分隊長はその後を追うように部屋を飛び出し、己の職務を全うすべく行動を開始した。

現在のパーティー構成


ナタリア

魔導人形

魔銃と魔力刃による物理攻撃で距離を選ばない戦闘が可能。

攻撃魔法は苦手。


ミール

ドワーフ

種族の特徴である怪力と長剣によるリーチと威力に優れた物理攻撃が持ち味。

魔法は使えない。


ジェーン

人間

鍛えられた肉体と大きな長柄戦斧から繰り出す物理攻撃は強力。

初歩的な回復魔法なら使えるが保有魔力量はあまり多くない。


ダニー

人間

今回は荷物持ちだが剣は持ってきているので、天性の才能と日々の努力で培われた剣による物理攻撃は期待出来る。

魔法は使えない。

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