第二十八話 ×メイド人形 ○着せ替え人形
初っ端からアクセルべた踏み
「プライベート、つまり仕事では着れない服を着る事が許される時間!」
今俺が着ているのは、フリルとリボンがふんだんに配われた白いドレスだった。頭上には同じ色の帽子も載せている。
確かにメイドが仕事中に、こんな令嬢が着るようなドレスを着る事など無い。そしてこれを普段から着る身分からすれば、これは私服なのだろう。
「おおっ、ナタリアさん綺麗です! 可愛いですぅ!」
「あの、いくらプライベートでもこの服は気が引けてしまうのですが」
流石にこれは勘弁してほしい。
「出来ればもう少し動き易そうな服をお願いしたいのですが」
「なるほどなるほどぉ! 少々お待ちを!」
店員は目を輝かせて行ってしまった。
一体何が彼女をあそこまで駆り立てるというのか。
俺は言い知れぬ不安に背筋が寒くなった。
「あの、ミールさんも選んできてくれませんか? あの店員さんはなんだか不安で」
「私が選んだ服を着てくれるんですか!?」
え?
「解りました! 不肖ながら、ナタリアさんに似合う可愛い服を探してきます!」
「あの、ちょ」
止める間も無く、ミールは店員の後を追って行ってしまった。
ひょっとして俺、早まった?
「お待たせしました!」
嵐のような勢いで帰って来た店員に服ごと試着室の奥に押し込まれる。
「あの、この服は」
「大変よくお似合いです! しかしお客様、ブラを外して前のファスナーを途中で止めるとは、よく解っていらっしゃる!」
胸は苦しくないし、身体にぴったりフィットしているから動き易い。色は全体が黒で、肩と太腿の赤いラインがアクセントになっている。
「確かに要望には叶っていますが、ライダースーツはちょっと。乗るものもありませんし」
「む、そうでしたか。では別のを探して参ります」
「ナタリアさん、選んできましたよ!」
「は、はい」
店員と入れ替わるようにミールが戻ってきた。
試着室のカーテンを閉め、押し付けるように渡された服に着替える。
「着れましたか?」
「ええ、なんとか」
俺が返事すると、カーテンを開かれた。
「おお、よくお似合いです!」
確かに動き易い。
黒いレザービキニとニーソックス、その上から深い藍色のストールとパレオを巻いた、荒々しくも妖艶な冒険者スタイルだ。
ちょっと惹かれるけど、今回の目的には合わない。
「ミールさん、もう少し普段着らしい服をお願いしたいのですが」
「そうですか? ではいってきます」
「お待たせしました」
この二人、実は示し合わせてるんじゃないかってくらい綺麗なタイミングで戻ってくるんだけど。
「こ、これはいくらなんでも」
次に俺が着せられたのは、胸が漸く隠れるくらいに裾の短いタンクトップと太腿丸出しのショートパンツだった。材質が毛皮なので保温性は良いのだろうが、露出度が高すぎて意味を成していない。しかし問題はそこではない。
「お客様、語尾にニャンを付けなきゃダメですよ」
「それは流石に恥ずかしいのですが」
「お客様」
「恥ずかしいです、ニャン…」
頭には猫の耳が付いたカチューシャと、尻には尻尾が付けられていた。
「その服はネコミミと言いまして、猫の愛くるしさを再現したものなのです。セクシーさとキュートさを両立した、まさに至高の一品です」
「ネコミミは服なのですか? ニャン」
「!?」
ネコミミは服じゃなくてアクセサリーになるんじゃないかと思って言ったら、店員は目を見開いてよろけた。
「た、確かに、作られたネコミミなど、模造品に過ぎません」
え?
「ありがとうございます、お客様! 私、目が覚めました! ネコミミとは頭に生えてこそのネコミミ! 作り物を讃えるなど、真のネコミミに対して失礼でした!」
店員は俺の手を取って涙を流し始めた。
「違う、そういう意味じゃない! やめろ、私の業はそこまで深くない!」
「選んできましたよ。何があったんですか?」
「いえっ、なんでもありません! それより次の服をください!」
店員の手を振りほどき、ミールから服をひったくってカーテンを閉める。
「では私は次の服を選んできますね」
「はい、お願いします」
店員がいなくなったのを見計らってカーテンを開いた。
「ミールさん、これはこの国の服なのですか?」
確かにノースリーブで、裾にもスリットが入っていて動き易い。胸元に穴があるお陰で窮屈感は無い。
「ええ、この国の一部の地域に伝わる民族衣装です」
「へ、へぇ」
あるんだ……チャイナドレス。
「すみませんがこれはちょっと」
「そうですか? では次の服を探してきますね」
「お客様、こちらをお持ちしました」
もう突っ込むまい。
戻ってきた店員の持ってきた服を着る。
「あの、これは」
エナメルに似た光沢のある黒い生地が、俺の白い肌に映える。
露出度は高いが、大事な部分は見えそうで見えない。それが欲情を掻き立てながらも、手にした鞭が迂闊な衝動を抑止する。
「いかがでしょう?」
いかがと言うかいかがわしい。
「普段は従順なメイドのお客様も、プライベートでは女王様に大変身! 実はドMな主人を悦ばせるも良し! 外に家畜を飼うも良し!」
何一つとして良くない。
「私にそんな趣味は無いのですが」
「ご心配無く。逆にその格好でご奉仕するのもまた一きょ」
パシン
「あひん! ありがとうございます、女王さ、お客様!」
思わず鞭を振ったら悦ばれた。
もうやだこの店員。
漸く着せ替え人形状態から開放された俺は、ミールの案内でオープンカフェへと来ていた。
俺は沈むように椅子に座り、注文したお茶が来ても机に突っ伏していた。
メイドらしくない?
知るか。
今は自由時間だしメイド服だって着てない。
「さっきも言いましたけど、そのワンピースとても似合ってますね」
向かいの席に座ったミールが言う通り、俺は店で買ったワンピースを着ている。他にも幾つか買ったが、それらは例によって収納空間に入れてある。
「それはどうも。しかしあんなに時間がかかるとは思いませんでした」
「そうですか? むしろ短かった方だと思いますが」
ミールの言葉は俺を絶望させるのに充分だった。女の買い物は時間がかかると知ってはいたが、まさかあれで短いとは。
「ところでミールさん、シャーマンエイプを狩りに行く準備はどうですか?」
もうこの話題を続けたくないので、我ながら強引だと思いつつも次の狩りに関して尋ねる。
予定は明日、満月の夜。普段は群れないシャーマンエイプが集まって儀式をするので、そこを狙うのだとオフィーリアが言っていた。
「はい、剣も鎧もしっかり整備しています。ナタリアさんはどうですか?」
「ご主人様に錬金術を習いましたので、回復薬を幾つか作っておきました」
「ナタリアさんの万能性が留まるところを知りませんね」
俺は万能などでは断じてないのだが、言ったところでまた否定されるだけだろうから言わないでおく。
それよりシャーマンエイプの対策だ。
シャーマンエイプの死霊魔法は対処法を知らないと、延々と蘇り続ける魔物と戦う羽目になる。
あとでオフィーリアが教えてくれたが、死体をある程度損壊させれば死霊魔法は効かなくなるらしい。首を刎ねるのが一番確実なんだとか。
ミールの剣、俺の炸裂弾と魔力刃。対抗手段は確保出来ていると言っていいだろう。
とはいえ油断は出来ない。
クランプボアのような大型の魔物を蘇生されたりしたら大変だ。あれの首を落とすのは流石にキツイだろう。
オフィーリアは俺達の戦闘にあまり介入してこないので最初から当てにならないので、俺とミールで何とかするつもりで行かなければいけない。
かといって先日注意されたように、引き際を見誤るのも拙い。
冒険は命あってこそだ。
俺は顔を上げ、お茶に口を付ける。淹れてから時間が経っているお茶は温かった。
「私はこの後冒険者ギルドでご主人様と合流しますが、ミールさんはどうします?」
「あ、だったら私もご挨拶に行きます」
ミールもギルドに同行する事が決まったので、俺達は残りのお茶を飲み干し、カフェを後にした。
オリビア「エイミー、明日服買いに行きたいんだけど、一緒に行かない?」
エイミー「ああ、最近また背が伸びだしたもんね。いいよ」
二人は普通に服を買いに行った。




