第二十七話 一人前のレディとして扱われているわ
突然だが、俺の見た目はかなり人間に近い。
肘や手首、指などのパーツの継ぎ目を見れば解るが、顔に継ぎ目は無いし、脚はスカートで隠れている。だから一見すると人間だと思われることが多い。実際にダニーなんかは俺が切り離した腕を操作するまで人間だと思っていたしな。
つまり普通に町を歩いていると、人間として接してくれる場合が多いのだ。
「そこのお嬢ちゃん、野菜買って行かないかい? いいのが入荷ってるよ!」
「新鮮な肉もあるぜ! 美人にはおまけ付きだ!」
「ズルいぞてめぇ! うちの魚だって負けちゃいねぇぞ!」
市場のおじさんお兄さん方に呼ばれ、目ぼしいもの、新鮮なものを買い漁っていく。
「この魚は初めて見ますね」
「こいつはホワイトバスって言ってな、見た目は普通の魚だが歴とした魔物なんだよ。力は強くて釣るのは大変なんだが、身は締まってて食感は抜群だ」
「ほう、お勧めの調理法はありますか?」
「そうだなぁ。ワタ近くの脂身に独特の臭みがあるから、しっかり取り除いて油で揚げるのがいいぜ。もちろんシンプルに焼くのもいいがな」
「では四匹頂きましょう」
「毎度あり! もう一匹おまけだ!」
「てめぇ!」
おまけすると言った肉屋をズルいと言った魚屋のおじさんがおまけしてくれた。
俺はホワイトバスを買い物袋に入れる。実はこれは格好だけで、袋の中で収納空間に入れている。オフィーリアに俺の収納空間をあまり他人に見せないように厳命されたからだ。
肉屋と魚屋が口論を始めた。激化する前にさっさと退散しよう。
俺は今一人でバメルの町を歩いている。
町にも慣れてきたので、オフィーリアの用事が済む夕方まで、買出しついでに自由時間を貰ったからだ。
しかも今まで魔物を討伐した報酬として、結構な額のお小遣いまでくれた。
さて、メイドとしての買い物は終わり、ここから先は俺のプライベートタイムだ。
転生して初めての真に自由な時間とあって、自然と足取りは軽くなる。
何処に行ってみようか?
食べ歩きもいいが、字も充分に読めるようになったので書店なんかも行ってみたい。でも雑貨店なんかも面白そうだ。
「そこのメイドのお姉さん、暇だったら俺と一緒に遊ばないかい?」
声を掛けられて振り向くと、鼻や耳に幾つもピアスを付けた、いかにもチャラ男なエルフがいた。エルフのイメージ壊れるな、オイ。
こういった感じにナンパされるのも、もう何回目だろう。
「申し訳ありませんが、私は人類ではなく魔導人形ですので貴方の期待には応えられません」
そう言って解り易いよう腕を差し出し、手首の関節を見せる。
「へ、魔導人形? こんな…いや、それは悪かった」
流石に人形はそういった対象にはならないらしく、チャラ男エルフは丁寧に頭を下げて立ち去った。
もっと悪質に絡んでくるか魔物と蔑まれるかと思ったが、見た目で人を判断しちゃ駄目だな。
そもそも俺が魔物で魔導人形でも、しっかりとした自我を持っていると判れば人類と同等に扱ってくれる場合が多い。
それはこの国、サペリオン王国が多種族統一国家であるからだと、オフィーリアに教わった。
人間はもちろんだが、エルフもドワーフも獣人も、人種による扱いは変わらない。王族貴族や奴隷制度もあるので身分的に平等とは言えないが、少なくとも人種差別は法で禁じられている。
ちなみにこの国の王族は蛇の獣人で、初代国王が種族ごとに分かれていた諸国の大部分を統一したらしい。各種族の優れた点を認めて受け入れるのが、初代国王の時代から続くこのサペリオン王国の統治方針なんだとか。
少し話が逸れたが、その延長で、魔物であっても知性があれば友好的に接してくれる。今尚他国では差別が残る獣人は特にそれが顕著だ。
これは個人の善意と裁量によるものなので、国の法で保障されているわけではない。だから嫌悪感を露にするやつもたまにいるが、そいつらは全体から見てごく小数だ。
何にせよ、魔導人形の俺が町中を一人でぶらついても、特に問題無いわけだ。
更に言えば俺は冒険者ギルドに従魔として登録されているので、俺に危害を加える事は主であるオフィーリアとその権利を承認しているギルドに喧嘩を売る行為となる。Aランク冒険者とギルドを敵に回す馬鹿はまずいない。
「あれ、ナタリアさん?」
聞き覚えのある声に振り返ると、そこにはミールがいた。いつもの冒険者姿ではなく、一般的な町娘の服装だ。
「やっぱりナタリアさんです。お一人ですか?」
「ええ。買い物ついでに自由時間を頂きましたので、町を散策していました」
「そうなんですか。あ、良かったらご一緒しても良いですか? 私も今日は店が休みなので暇なんです」
「いいですよ。私は市場とギルド周辺以外は土地勘が無いので、お勧めのお店など案内して頂けると助かります」
図らずもミールと一緒に街を回る事になった。当ても無く彷徨くのもいいが、これはこれで有りだろう。
「ナタリアさんは何か買いたいものなどはありますか?」
「色々考えていましたが、まずは服を買いたいです」
「服ですか?」
「ええ。私の服はご主人様が用意して下さっているのですが、全てメイド服なので私服と言えるものが無いのです」
「ならいいお店を知っています!」
そうしてミールに案内されて来たのは、一軒の洋服屋だった。看板には『ドカミ洋服店』と書いてある。三階建てのかなり大きな店だ。
「ここは品揃えも質も幅広いので、きっとナタリアさんの気に入る服が見付かりますよ」
はしゃぐミールに先導されながら扉を潜ると、店内は様々な服で一杯だった。現代の服屋にも劣らない量だ。確かにこれなら良い服に巡り合えそうだ。
「ナタリアさんはどんな服が好みですか?」
「そうですね、特に拘りはありませんが、色はなるべく落ち着いたものが好みです」
「そうですか。あ、店員さん」
頷いたミールが、近くにいた女性店員を呼び止める。
「この人に似合う服を探しているのですが」
「でしたらちょうど良いのがあります。そちらの試着室でお待ち下さい」
ミールから説明を聞いた店員が、店の奥へと服を取りに行く。
言われた通り試着室で待っていると、程なくして店員が服を持って戻ってきた。
「こちらを試着してみて下さい!」
「あ、はい」
何故か息巻く店員の勢いに押し切られて、渡された服に着替える。
「着てみました」
カーテンを開け、試着した姿を見せる。
「うわぁ、とても良く似合ってます」
「はい、お客様にはこういった服がお似合いかと」
ミールは感嘆し、店員も満足そうに頷く。
この格好でブラックホークを構えると殺し屋っぽくて良いかも。ってそうじゃない。
「あの、この服は」
「ビジネススーツと言う働く方の正装でして、清潔感のあるデザインが大変人気の服です」
はい、知ってます。前世で着てました。
「いや、でも」
「ナタリアさん! 是非! この服を是非!」
「あの、ミールさん、私はプライベートで着る服を買いに来たのですが」
「あ」
どうやらミールは最初の前提条件を忘れていたらしい。
「それとその、出来ればもう少しサイズにゆとりのある方が…」
何処とは言わないが、少し窮屈だった。
「そうでしょうか? 肩幅もウエストも正確に見立てたつもりでしたが。あ、少し失礼しますね」
そう言って店員は俺が反応するより早く、窮屈な場所、胸に触れた。
「なるほど。これは私のミスでした。申し訳ありません」
もみっもみっ
「い、いえ、それは構いませんが、んっ、ぁっ」
もみっもみっ
「次は必ず、お客様のご要望に応える服を見つけ出してきます!」
店員は胸から手を離すと、また店の奥へ行ってしまった。
お、大きさ確認するにしても揉む必要は無いだろッ!
「お、終わりましたか? 私は何も見ていませんよ?」
ミールは両手で顔を覆いながら言うが、その指が大きく開かれ、隙間から覗いているのは一目瞭然だった。
俺が恥ずかしい目に遭うときって、妙にガン見されている気がするのは気のせいだろうか?
男子「やったぜ、スカートめくり大成功!」
女子「こらー!」
エイミー「男子ってば幼稚ねぇ」
オリビア(ナタリアのスカートならめくりたいかも)
王族が蛇なのは完全に趣味です。
あらゆる生物の中で蛇が一番好きです。
あとレディススーツはスカートよりスラックス派です。




