第二十六話 両手を合わせたりとかはしない
久しぶりの勉強回。
もっと曖昧な設定でいい気もするけど、主人公が習得する技術はある程度固まってないと何処かでミスしそうなので。
久しぶりに入ったオフィーリアの私室で、これまた久しぶりに席に着く。今日はオフィーリアから錬金術を教わるのだ。
ティラノガビアルとの戦闘で壊れた右腕を直してもらったときに初めて見たが、便利そうなので是非習得したい。
「錬金術は物質に魔力を流してその形状や成分を組み替える技術よ」
「では魔力が無ければ錬金術は出来ないという事ですか?」
「そうね。でも必要な魔力量は極僅かで済むから、その辺の心配は要らないわ。重要なのはその操作と道具よ」
机の上には錬金術に使う道具や素材が用意されている。
「まず基本的な錬金鍋。鉄製だったり銀製だったり素材は色々あるけど、表面に魔力が流れ易くなる加工をしてあるわ」
言いながらオフィーリアは数種類の薬草と魔法で出した水を小鍋に入れ、ガラス製の蓋をする。そして鍋の表面に両手を添えた。
「そして鍋から魔力を流し込むの。大事なのは量じゃなくて全体に行き渡らせる事よ。その魔力で材料を分解、再構成するの」
「ご主人様、先日私の腕やミールさんの剣を直したときに道具は使っていませんでしたよね?」
俺の記憶が確かなら、あの時は何かの液体を掛けただけで、鍋等道具は使っていなかった。
「ああ、私は魔力の調整も浸透も自力で出来るから基本的に道具は使わないのよ。それに鍋だと作れる物の大きさが限られるから」
なるほど。技術があればそれだけ規模の大きな練成が出来るというわけか。
言われてみれば俺の身体もブラックホークも、家にある魔道具もオフィーリアの錬金術で作られたものなのだから、それらが全て鍋の中で作られたとは思えない。と言うか、そんな絵面はシュールすぎる。
「これが一般的な回復薬。所謂入門編ね」
鍋の中ではいつの間にか薬草がその形を失い、水を緑色に染めていた。しかし薬草がそのまま溶けたとは思えない、透き通った緑色だった。
オフィーリアは回復薬を試験管に入れると、空いた鍋を寄越す。
「さ、やってみなさい」
オフィーリアって地味にスパルタだなと思う。魔法も基礎理論と呪文を教えたら即実践だったし。習うより慣れろという事か。
さっきオフィーリアがやっていた通り、鍋に薬草と自分の魔法で出した水を入れ、手から魔力を込める。
しかし鍋の中は一向に変化せず、水の中に薬草が漂っているだけだった。
「魔力は錬金鍋に込めるんじゃないのよ。鍋を通して素材に込めるの」
そうか。錬金鍋は終点じゃなくて、あくまで注ぎ口なのか。
となると魔力を体外に放出するイメージ、魔力刃を作る感覚か?
俺の魔力に反応してか、鍋の中が淡く光り始める。
「魔力が多すぎるわ。もっと少なく」
魔力刃を作るときの三割以下なんだが、これで多すぎなのか。
「そう、量はそれでいいわ。そのあとの魔力は垂れ流しじゃなくて、鍋に広げながら素材を構成する成分の隙間に入り込ませて分解するのよ」
隙間に入る。根が地面に広がるようにすれば良いだろうか。
細かく分けて、それをどんどん広げていく。
自分の指が何十にも分岐して、薬草と水の成分の隙間に入っていく。
分解された成分は境界が無くなり、混ざり合う。
「はい、おしまい」
オフィーリアの声で我に返る。どうやら集中しすぎていたらしい。
目の前の鍋には緑色の液体が出来上がっていた。
だがオフィーリアが作ったものとは違う、薬草の破片が漂う濁った粘液だ。
「魔力の浸透が不十分だと、こんな風に混ざりきらないのよ」
まだ細かくしないといけないのか。
これは魔力刃よりずっと難しそうだ。
「まぁ、これでも切り傷程度なら数分で治るくらいの効果はあるでしょうけど」
一応薬としての体は保てる代物になって入るらしい。
「ちなみに液体を作る場合は素材を分解して溶かすだけで済むけど、金属みたいに固形物を錬成する場合は完成形の構造をしっかりと理解した上で再構築する必要があるから、難易度は跳ね上がるわよ」
理解、分解、再構築ですね、わかります。
「ではご主人様、今後狩りに出るときのために回復薬は作っておいた方がよいのでしょうか?」
「あるに越した事は無いけど、貴女に使っても意味無いわよ?」
……なんで?
「貴女は魔物だけど生物じゃないから、回復薬じゃ直らないのよ」
そ、そうだった。
人形に薬が効くわけが無かった。
「では腕を直してもらったときの液体は何だったのですか?」
「ああ、あれは貴女の体に使っている素材を溶かしたものよ。それを錬金術で傷口を埋めると共に、元からある自己修復機能を活性化させたの」
「私に自己修復機能なんてあったのですか?」
初耳なんだが。
「気付いてなかったの? 今まで怪我らしい怪我も無かったから仕方ないかもしれないけど」
言われてみれば、オリビアを助けに出て人攫いの剣を肩に受けた傷も、いつの間にか消えていた。あのときは傷も浅かったし、命令無視した直後だったから言い出せなかったが、そういう事か。
「貴女の機能というよりも素材にしたオリハルコンや世界樹の幹の効果ね」
「……」
今さらっととんでもない事言いましたよ、このご主人様。
「あの、ご主人様、私の素材って」
「あら、知ってる? オリハルコンと世界樹。どっちも手に入れるの大変だったのよ」
大変ってレベルなんだろうか。一般的なファンタジーなら最高級の素材なんだが。
「それで話を戻すけど、貴女が自分で自分を直せるようになるには、再構築まできちんと習得しないといけないわ」
道のりは長いな。
でも出来るようにならないと、普通の薬が効かない以上、重要度は高いと言える。
オフィーリアがいないときに怪我して動けなくなったら困る。
「じゃあこの錬金鍋、それと庭の薬草で作れる薬のレシピをあげるから、しっかり練習しておくように」
「はい」
これは本当にしっかり練習しないといけないな。
銃や攻撃魔法の練習を削ってでも習得する必要がある。
むしろ攻撃魔法はあれから全く伸びないし、中遠距離の攻撃は銃さえあればいいのだから、これを機に見切りを着けた方がいいかもしれない。
攻撃魔法が窓際に移動しました。
錬金術は武器、防具、薬など色々作れますが、繊細な魔力制御の難易度が高いので使える人はあまり多くなく、技術としての難易度が高いだけで製作物の質が高いというわけではありません。
なので鍛冶師や薬師との住み分けは出来ています。




