第二百三十二話 エルフの反乱②
「君達は本気で行くつもりなのか?」
さっきエルフに突き飛ばされていた冒険者が声を掛けてきた。
「ええ。私達が追ってる相手に繋がるかもしれないから」
「そうか……止めはしないが、彼らが言った族長議会の決定も真実とは限らない。決め付けて取り返しの着かない事にならないようにな」
その言葉には何か重みがある様に感じた。きっと経験に基づいて言っているんだろう。
「忠告ありがとうございます。気を付けます」
「ああ、そうしてくれるとありがたい」
そう言って彼は私達から離れると、職員や他の冒険者達と話して、倒れたエルフ達を拘束し始めた。
「それじゃあ、族長達が居る議事堂まで案内するよ。反乱派のエルフに見付からないように遠回りするからしっかり付いてきてね」
「あ、それなら見付からないようにする魔法知ってますよ」
シャーリーさんが先導しようとしたけど、私は遠回りしないで済む方法を知っている。
「オリビア、見付からない速さで走るとか会った敵を全員倒すとか言わんよな?」
「私と范焱だけならそれも有りだけど、シャーリーさんも居るんだからそんなのしないわよ」
「なら良し」
そして私達は冒険者ギルドを発った。
五分後―
私達は反乱派エルフに囲まれていた。
「なんで!?」
「当然じゃろ!」
私がエルフを殴り飛ばしている後ろで、范焱が別のエルフを殴り倒している。
「オリビアちゃん、だだの幻影魔法で隠密行動は無理があるよ。透明になっても揺らめいてるし魔力は隠せないから、気付く人は普通に気付くよ」
シャーリーさんはそう言いながらいつの間にか抱えていたリュートに指を走らせる。すると大きな風の塊がエルフ達を吹き飛ばして、木々や建物に叩き付けた。
「詠奏とはまた珍しいものを使っておるな」
「何それ?」
「詠唱の代わりに楽器の演奏で魔法を発動する事でね、喋りながら魔法を使えるから便利だよ。詠唱破棄出来た方が良いんだろうけど」
「へえ~、そういうのもあるんだ。おっと」
飛んできた矢を躱して、射手に雷煌電撃を叩き込む。
「あ、議事堂はそこの道を左に行って真っ直ぐね」
私達はエルフ達を蹴散らしながら議事堂に向かった。
エルフの里の中で一際大きな世界樹の根元に建つ議事堂は、反サペリオンを掲げるエルフの一派により制圧されていた。
議員達の一人、ルミナスは拘束されながらも果敢に訴えた。
「この場を押さえたところで、いずれサペリオンから討伐隊が差し向けられて終わりです。我々エルフが何故四百年前に敗れたのか、忘れたのですか?」
彼女の言は正にその通りで、議事堂を押さえようとも、里からエルフ以外を排そうとも、所詮は一地域の小さな反乱に過ぎない。現在サペリオン王国はベルロモット共和国へ派兵している最中ではあるが、これを鎮圧する程度の余力はある。
だがー
「確かにかつてはサペリオンに遅れを取った。だがいつまでもそうはいかない」
そう返すアリューゼ。彼こそエルフの里を取り纏める族長であり、今回の反乱の首謀者でもある。
そして彼の傍らに立つ他のエルフも首肯する。
いずれも議会で高い地位にある者達ばかりだった。
「そんなの……」
ルミナスはその先を言おうとして、口を噤んだ。口に出したところで彼等が考え直したりなどはしないだろう。他の縛られた者達もそう考えたのだろう。目を伏せる者、首を横に振る者。いずれも説得は不可能だと諦めている。
しかしアリューゼは明確に勝算があるらしく、余裕の表情を崩さない。
「サペリオンという“国”に我等の“里”だけで戦う必要は無い。世界には他にも国があ―」
アリューゼの言葉を遮る様に、猛烈な音と共に会議室の扉が打ち破られた。
室内に居た誰もが目を見開き、最早原形を失くした扉だった物を見遣る。
砕けた木片がパラパラと飛び散り、その中を一人の少女が進み入った。
「お邪魔します。この反乱の犯人をぶん殴りに来ました」
黒い髪を靡かせる少女はグローブをはめた拳を握り締め、屈託の無い笑顔で宣言した。




