第一話 クオリティ高い
どこからか声が聞こえる。
俺は死んだと思ったんだが、どうやらまだ意識があるらしい。
運よく生きていたのか。いや、もしかしたらこれがあの世と言うやつか。
目を開けると見知らぬ場所だった。壁一面をよく解らない本と器具に囲まれた、古めかしく薄暗い部屋だ。少なくとも病院とは思えないな。
「ええと、あとはこれを入れて」
「あのー」
「今大事なところだから邪魔しないで」
「あ、はい」
目の前にいる女性に尋ねようとしたら拒否されてしまった。何やら取り込み中らしい。
ふと横を見ると、大きな姿見があった。
そこに映った姿に、俺は思わず息を呑んだ。
明らかに人間ではなかった。体のあらゆる場所に継ぎ目があり、それは動かすための球体関節というやつだった。
人形だ。人と同じくらいの大きさの人形が、そこにいた。
だが、俺を黙らせたのはその人形の容姿だった。
肩で揃えられた癖の無い銀髪に、長い睫毛、サファイアのような澄んだ瞳に瑞々しい唇。豊満だが上品な胸、腰周りに無駄は無く、ヒップは魅惑の曲線を描いている。非現実的なまでに美少女だった。
ふつくしい。
こんな娘が普通に服を着て街中に立っていたら、俺はきっと通りすがりを装いながら眺めていただろう。
「ん?」
ふと違和感を覚え、右手を上げる。
鏡の中の美少女が俺を真似する。
今度は左手を振ってみる。
またも美少女は俺に倣う。
万歳。グリコ。シェー。
うん、完璧だ。
寸分の狂いなく一瞬で俺の真似をするとは、この娘は相当な物真似好きのようだ。
はっはっはっ、お茶目さんめ。
いや、違うだろ。
この鏡に映ってる美少女、俺だわ。
「はあああああああ!?」
大声を上げたのも仕方ないと思う。
「もう、静かにして、動いてるうぅぅ!?」
「うわああぁぁぁ!?」
「えええええええ!?」
俺も女も絶叫した。
「さてと、落ち着いたところで、状況を整理しましょう」
「はい」
俺は促されるままに向かい合って椅子に座った。
女性は見たところ年齢は二十代後半か。高く結った黒い髪と、小さい眼鏡の奥の双眸が知的な、如何にも『出来る女』と言った感じだ。
今の俺とは違った方向に美人だった。
「まず、私はオフィーリア・エトー・ガーデランド。貴女を創造した魔導師よ」
む、いきなり困る事を言われた。
俺を創造した?
となるとやっぱり俺は人形の体になってしまったのか。
しかも魔導師と言ったよな。
つまりこれはあれか。
異世界転生ってやつか。この○ばや△ゼロみたいにそういったラノベやアニメが溢れた昨今だが、まさか自分の身に起こるとは。
「貴女は私が創造った魔導人形、名前はナタリア」
「ナタリア…」
しかし人形に人外転生するとは。スライムや蜘蛛じゃなかったか。
あ、しかも女形だからTS転生でもある……のか?
話を戻そう。
この創造主は人形の中身が異世界から転生した人間だと気付いていない。
それもそうか。
けれどここでそれを伝えないと、今後ただの道具として扱われかねない。俺の基本的人権のため、ここはしっかり伝えねば。
「あの」
「貴女の役目は家事全般と、ゆくゆくは冒険者稼業の手伝いなんかもしてもらうわ。嫌なら言ってね。苦しまないように綺麗に意識を消滅させてあげるから」
「……はい」
「何か言おうとした?」
「いえ、何なりとご命令ください、ご主人様」
言えるわけねーじゃん!