第十六話 強いお調子者って性質悪い
オフィーリアとダニーに案内されたのは、支部の裏にある訓練場だった。柵に囲まれた中で、他の冒険者が訓練や試合をしている。
今回はちょうどよく場所が開いていたので、そこを使う事にした。
「怪我は即死でなければ私が直してあげるから、存分にやると良いわ。降参、もしくは戦闘不能で決着。異論は無いかしら?」
「ありません」
「おう、いいぜ。さっさと始めようや」
柵の外から確認するオフィーリアに、俺もダニーも首肯する。
俺達は十分離れた距離で対峙している。ダニーの持っている武器は標準的な長さの剣が一本だ。この距離なら俺には届かず、俺は一方的に攻撃出来る。
「では、始め!」
オフィーリアの宣言と同時にブラックホークを抜き、即座に引き金を引いた。
悪いが長引かせるつもりは無い。早々に両足を撃ち抜いて終了だ。
そんな俺の思惑はあっさりと外れた。
「驚いたな。何だ、その武器?」
馬鹿な。
初見で銃の弾道を見切って躱したって言うのか。
俺はもう一度引き金を引く。
飛び退くダニー。だがその回避は予想済みだ。
地を蹴った直後の宙に浮いた状態では避けられまい。
キンキン
しかし今度は銃弾を剣で弾きやがった。
「つ~、なんて威力だよ。手が痺れるぜ」
ああ、そうかよ。ならまだまだ喰らわせてやるさ。
俺はひたすらに撃ち、ダニーの防御を崩す事に専念する。だが銃弾は悉くダニーに当たらない。やはり軌道を読まれているのか避けられ、それでなくとも剣で防がれる。
弾幕を張って近付けさせないのが精一杯だ。
ブラックホークに魔力充填機能があって、またブラックホークに自分の魔力を込める方法をオフィーリアから教わっておいて良かった。でなかったらリロードの隙に距離を詰められ、接近戦に持ち込まれていただろう。そうなれば俺に勝ち目は無い。
「誰が戦ってるんだ?」
「ダニーと魔女のとこのメイドだとよ」
「ダニーって田舎から出てきてすぐにここの大手クランにスカウトされたヤツだろ?あいつ生意気な癖にかなりやるからなぁ」
「あのメイドも変わった武器使ってるぞ」
「お前なら最初ので負けてるんじゃないか?」
「うるせぇ」
いつの間にかギャラリーも集まってきた。
戦いは膠着状態だ。
ダニーは俺に近付けず、俺は決め手に欠ける。
こうなるとどちらか先に焦れた方が動くのだが、ダニーがオーソドックスな剣士なら、取れる手なんて限られているだろう。
「ちぃ、厄介な武器だな。それ」
ダニーが一瞬腰を落とした。
来る。
そう思った瞬間には、ダニーは強く地面を蹴って突っ込んで来た。
魔力充填はマガジン交換に比べて隙が少ないとはいえ、皆無ではない。そこに綺麗に合わせて来やがった。
だけどそれも予想済みだ。
俺はこの短い時間の間に込めた魔力を炸裂弾にして撃ち出す。
魔力の爆炎が巻き起こり、ダニーの体を包み込む。
「おりゃああぁぁ!」
しかしダニーは炎と煙を薙ぎ払って越えてきた。
込める魔力が少なすぎて、炸裂弾の威力が出なかったようだ。
俺は飛び退きながら、ブラックホークに再び魔力を込める。
それを遮るように、下から跳ねた剣がブラックホークを打った。金属同士がぶつかり合う甲高い音を立てて、愛銃は俺の手から飛び立つ。
行き場を無くした魔力が俺の掌で淡く光る。
クソ、銃の無い俺に何が出来る?
あんな素人芸の魔法で勝てるか?
今は距離を取らないと。
弾かれた腕を咄嗟に振り下ろし殴り付けた。
俺の拳をダニーは腕を立てて受ける。僅かに体勢を崩したダニーの篭手が凹んでいるが、それだけだ。
間髪入れず剣の連撃が迫る。一太刀、二太刀と何とか躱すが、それ以上は出来ない。
さっきまでとは逆に、今度は俺が防戦一方になってしまった。
「こりゃメイドの嬢ちゃん勝ち目無いな」
「まぁ、頑張った方じゃねぇか?」
「そうだな。ダニーも腕は立つ方だし」
ギャラリーはもう俺が負けたと判断したらしい。だがここであっさり降参してオフィーリアに申し訳が無い。
「射抜き燃やせ、ファイヤーアロー」
射程が短くても、この距離なら関係無い。
だが黒鉄の剣はあっさりと炎の矢を砕く。
「へぇ、魔法も使えたのか。すげぇじゃねぇか」
初級魔法を使えた程度を褒められるには値しない。そもそもこいつに言われても全く嬉しくない。
雷の魔法を放つが、それもあっさり避けられる。
どうする。
考えろ。
オフィーリアは今の俺に出来る事で最善を尽くせば勝てると言った。
今日まで学んだ事、練習した事を思い出せ。
そういえばさっき銃に込めようとした魔力が残った手で殴り付けたら、鎧を損傷させるだけの効果はあった。
もしかしたら明確に魔法にしてない魔力でも攻撃として使えるかもしれない。
だけどそれだけじゃ決定打にはならない。
ここは思い切って行かなきゃ無理だ。
俺は手に魔力を込めながら詠唱する。
「迸り跳ねろ」
「なぁ、そろそろ降参してくれねぇ?」
「サンダースパーク」
俺は応えながら跳び込み、そのまま拒否の意を込めて魔法を撃った。
魔法に重なって拳を振る。雷を纏った拳がダニーに迫る、
「うわっ!」
それはダニーにとって予想外だったのだろう。今までに比べて乱雑な剣筋は、しかしそれ故に無遠慮に薙ぐ。
俺の肘から先が宙を舞った。
「ああっ!」
俺はよろめいて膝を突き、無くなった腕を押さえる。
あァァァんまりだァァアァ、おおおおおおれェェェェェのォォォォォうでェェェェェがァァァァァ~~~~!!
「お、俺は悪くねぇぞ! お前が無理矢理突っ込んでくるから思わず!」
ダニーは狼狽え、観衆もざわついている。ミールは今にも泣きそうだ。
うん、ごめん。
オフィーリアだけは涼しげに笑ってこっちを見ている。
「あれ? あの女、血が」
おっと、気付かれてる前にやるか。




