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メイド人形はじめました  作者: 静紅
魔法学校
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第九十七話 イミテーションシスター⑧

「ホワイトサラマンダーは無理ですが、プラムだけを破壊するなら私達でも出来る筈です」


「プラムちゃんを破壊なんて、そこまでしなくてもっ」


 クリスティナに異を唱えたのはルリだった。


「ルリさん、プラムには王国の研究機関にも無い技術が使われています。それが違法行為の疑いがある商会に流出してしまったらどうなるか、ご想像いただけますか?」


「それは、そうですけど…」


「きっと何かの事件に繋がってしまいます。サペリオン王国伯爵家として、何よりプラムのマスターとして、決して見過ごせません」


 プラムは俺の廉価版とも言える存在だが、それでも使われている技術は一般的な魔導人形より高い水準にある。下手に流出させてしまえば悪用される事は想像に難くない。

 それを防ぐ責任があると言われれば、俺達には口を挟む権利は無い。

 たとえプラムが俺にとって妹でも、魔導人形である以上は主人を第一にするべきだ。


「あ」


『私の神経糸と同じ素材では、私を拘束するには適さないと判断します』


『骨子代替素材を一定量獲得。再生機能を第二段階が発動します』


 プラムは神経糸と同じ素材だから鋼糸を操れると言った。それにあのホワイトサラマンダーの身体は鋼糸を骨格の代わりにして再生していた。その鋼糸はプラムと同じ、そして俺と同じ神経糸だ。

 ならば取れる手はある。


「クリスティナさん、一度だけチャンスをください」


「ナタリアさん?」


 これは賭けだ。

 上手くいくか解らない。下手をすれば俺も危ない。

 だけれど諦めるなんて出来ない。


「プラムをあのホワイトサラマンダーから引き剥がします」


「大丈夫なんですか?」


「ええ」


 俺なら出来る。

 いや、プラムと同じ神経糸の俺にしか出来ない。


「ルリ、少しの間でいいのでホワイトサラマンダーの注意を引いてもらえますか」


「まぁ、それくらいなら何とかするわ」


「頼みます」


 いざという時の為、収納空間から出した回復薬と魔力薬を渡しておく。


「ナタリアさん、プラムを…お願いします」


「はい。(プラム)は必ず助け出します」


 クリスティナだって、プラムの破壊を望んでいるわけではない。立場上そうしなければならないというだけだ。助けられるものなら助けたい。

 俺もそうだ。だから助ける。


「じゃあ、行きましょうか」


「ああ」


 ルリは仮面を外し不敵に笑い、俺も仮面を外し身構える。


「水紋花乱れ咲き!」


 ルリの二本の足が力強く床を蹴り、瞬時にホワイトサラマンダーの懐に飛び込んだ。短刀が弧を描き、水の花が幾重にも咲き乱れる。


「ぬ゛う゛ぅ゛ん゛っ゛」


 ホワイトサラマンダーは鼻先をズタズタに切り裂かれながらも前足を振り上げ、ルリを叩き潰そうとする。だがウサギ半獣人の俊敏な身のこなしは緩慢なサラマンダーが捉えうるものではない。

 ホワイトサラマンダーの意識がルリに向けられている隙に、俺は腕を射出して天井に魔力刃を突き刺して、伸びた神経糸を巻き取る。勢いに乗せて跳躍すれば身体は宙を踊り、白い肉の床、プラムの元に着地した。


「助けに来ましたよ、プラム」


 プラムの身体はホワイトサラマンダーが再生した直後よりも更に肉と透明な粘液に覆われ、顔にまで絡み付いてるせいでむしろプラムがホワイトサラマンダーの背中から突き出た様に見える。


「私の救助は非常に困難と判断します。お姉様、私に構わず早急に退避してください」


 全く、この妹はまだそんな事を言ってるのか。


「貴女に拒否権はありません。大人しく助けられてなさい」


 プラムの前に膝を突いて両腕から露出している神経糸を掴むと、魔力の流れが感じ取れた。

 集中して、その流れを探る。魔導核で精製された魔力が血液と電気信号の様にホワイトサラマンダーの身体を巡って動かしている。

 ここまでは予想通り。

 よし、行くぞ。

 俺は少し深呼吸して、自分の魔力をプラムの神経糸に流し込んだ。


「ぬ゛う゛ぅ゛っ!」


 一瞬ホワイトサラマンダーが静止し、しかしすぐに戒めを振り切る様に動き出した。

 俺と同じ神経糸なのだから俺の魔力を流し込めばコントロールを奪えるんじゃないかと思ったが、どうにも上手く注入出来ない。


「ぬ゛う゛う゛ぅ゛ぅ゛!」


 魔力の干渉が癪に障ったのか、ホワイトサラマンダーが全身を振り乱して暴れ回る。

 強烈な衝撃に揺さぶられ振り落とされそうになるが、咄嗟にプラムから手を離し、手から出した魔力刃をアンカー代わりに突き立てて耐える。


「危険です。私よりお姉様ご自身の安全を優先するべきです」


「馬鹿な事を言うな」


 他人に操られて、魔物に呑まれそうになってもまだそんな事を言っている。それが献身からではなく、魔導人形である自分の価値を低く見ているからなのが腹立たしい。

 お前の価値は素材の材料や製作に掛かった時間だけじゃない。そんな簡単に決るようなものじゃないんだ。

 俺みたいにただ偶然で出来たんじゃない、望まれて創造さ(うま)れたんだ。だからもっと自分の価値を信じろ。

 それに―


「大事な妹を見捨てられるわけ無いだろうがっ!」


 ホワイトサラマンダーの動きが弱った隙に突き立てていた魔力刃を消し、自身の左手首を掴む。そして全力で手首を捻り上げて引き千切った。

 オリハルコンと世界樹で出来た強固な身体だが、流石に関節となれば他よりは脆い。


「理解不能です。お姉様、一体何を―」


「黙ってろ!」


 神経糸を指先のまでの接続から切り、外れた手から引き出す。

 当たり前だが魔導人形の腕は生物のそれとは全く違う。語弊を覚悟で言えば中の神経糸こそが腕そのものであり、外装はそれの包みでしかない。細い腕に分厚い篭手をはめていると言えばイメージしやすいだろうか。なので外装を外したとしても、神経糸だけで動かす事も可能だ。そもそも普段鋼糸を操作しているのがこれと同じ事なのだから。

 その神経糸を操ってプラムの腕から露出した神経糸に触れ、魔力を流し込む。腕の外装を挟まず同じ素材で触れているので、さっきよりずっとスムーズに魔力が流れていく。


「ぐぅっ!」


 だが逆もまた然り。プラムの魔力が俺に逆流してきた。


 ―障害排除―

 ―再生機能発動―


 魔力に乗って流れ込んでくる命令が強烈な痛みになって俺の精神に襲い掛かってくる。

 ああ、くそっ。やっぱりこうなったか。

 けど負けるかよ。


 ―行動停止―

 ―再生機能停止―


 こっちも魔力に命令を乗せて流してやる。

 だがプラムの魔力は強く、ホワイトサラマンダーの身体に張り巡らされた神経糸に完全に行き渡っていた。この魔力を追い出し、支配権を奪う必要がある。

 その為には端から地道に魔力を流し込んでいるだけじゃ足りない。


 神経糸を操作し、プラムの神経糸に沿ってホワイトサラマンダーの体内に侵入させる。


 全身の神経糸に直接俺の魔力を流し込んでやる!


 だがそれは諸刃の剣で、俺がプラムの神経糸に干渉しやすくなると同時に、命令の逆流が起こりやすくなる。


 ―障害排除―

 ―再生機能発動―


「ぐっ!」


 送り込まれてきた命令を全力で拒絶し、こちらの命令を送り出す。


 ―障害排除―

 ―行動停止―

 ―再生機能発動―

 ―再生機能停止―


 背反する二つの命令がぶつかり合う。

 神経糸を届く限りホワイトサラマンダーの中に侵入させ、魔力量に物を言わせて無理矢理押え付ける。


「ぬ゛う゛ぅ゛っ!」


 ホワイトサラマンダーが抵抗する様に悶え、プラムの魔導核から白い肉が更に溢れる。白い肉はプラムの身体を伝い、俺の腕に這い上がってきた。

 やっぱり神経糸で繋がっているからか、俺も一部と見做してきやがった。

 しかも足元の肉まで這い上がり、このままだと俺も呑み込まれかねない。


「ナタリアさん! プラムの魔導核を! 魔導核だけを破壊してください!」


 突然響いたクリスティナの声。


「でもそれだとっ」


 魔導核を壊したらプラムがどうなるか。


「動力源が無くなって停止はしますが、他を傷付けずに魔導核だけを壊せばプラムの記憶部分には影響が無い筈です! その距離ならきっと出来ます!」


 ああ、そうか。

 暴れるホワイトサラマンダーの上に居るプラムの魔導核を地上から狙ってピンポイントで破壊するのは不可能だけど、ここからならばそれも可能か。

 俺が魔導核を完全制圧するのが理想だったが、ここらが潮時だな。


「だそうだ。苦しいかもしれないが、我慢出来るか?」


 ずっと黙っていたプラムはやはり無感情な目をしている。

 けれどしっかりと答えた。


「耐えます。ですからお姉様、私を助けてください」


 それはきっと使命や役割ではなく、プラムが初めて口にした“意思”だった。


「よく言った!」

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