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メイド人形はじめました  作者: 静紅
魔法学校
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第九十六話 イミテーションシスター⑦

 転がりながらも体勢を直して顔を上げると、男も同様に起き上がろうとしていた。まさか自爆覚悟で引き剥がされるなんて思いもしなかった。

 だがまだ大丈夫だ。飛ばされこそしたがダメージは無い。


「シルバーバレット、大丈夫!?」


 木箱から飛び降りたルリに男達は魔法を撃つ構えを見せた。

 あっちは任せるしかない。俺は目の前の相手に集中しよう。


「サンダースパーク!」


 男の放った雷光が俺の身体を射抜くが、たかが初級魔法に耐えれないようなやわな構造はしていない。

 何事も無かったかのように立ち上がると、男は少し驚き、しかし即座に次の魔法を放つ。


「エアエッジ!」


 迫り来る無数の空気の刃にブラックホークの炸裂弾を撃ち込み、巻き起こった爆風で全て掻き消す。

 ほんの少しの搦め手を用意しつつ、巻き起こった煙で視界が不明瞭な中を駆け、男の眼前に飛び出した。しかしそれを見越してか、男は既に迎撃の構えを整えていた。


「サンダーストーム!」


 渦巻く雷が俺の全身を包み、突進が中断される。中級魔法であるサンダーストームは下級魔法のサンダースパークと段違いの威力だ。耐性の無い常人なら即死、耐性を持った人間でも直撃すればただでは済まない。

 だけど俺は人間じゃない魔導人形だ。それに何より―


「ご主人様やお嬢様に比べたら大した事ないな」


 バーヘン樹海で初めて実践訓練をした時、マティアスと決闘した時に見た我が主達のサンダーストームに比べたら、今食らってるのなんてカスみたいなものだ。


 だが俺もこいつを殺さない程度に制圧する手段に欠ける。

 違法行為の疑いがあるとは言え相手は商会の関係者という社会的立場もあり、賊まがいの破落戸(ごろつき)を樹海内で殺すのとは訳が違う。魔銃や魔力刃で負傷させ下手に痕跡を残すのも(まず)いが、当身なんかで上手く気絶させる技術も持ち合わせていない。

 そう思っていた。

 けれどこいつが魔術師なら、魔法に対して多少は耐性があるだろう。

 早く情報を吐かせよう急ぐあまり、魔術師を喋れる状態にしていたのがこの有様なのだから、もう下手な事はするべきじゃない。


 突っ込む前に切り離しておいた手を操作して男の背後から身体に触れる。


「迸り跳ねろ、サンダースパーク」


 詠唱を完成させ、魔法を発動する。碌に飛ばない俺の魔法でも、掴んだ腕から直接流し込めば嫌でも当たる。


「あがががががが」


 感電した男の体が震え、膝を突いて倒れる。死んでないようだが、念の為拘束して猿轡も噛ませておくか。


「ぁ、く…ぅ」


 倒れた男が何か呻いて気を失う。直前に口にしたそれが男にプラムの魔導核への命令だと気付いた時にはもう遅い。視界の端に白いものが映り、咄嗟に飛び退くと俺の居た場所を大きな腕が薙いだ。再びプラムを白い肉が覆い、しかも拘束する為に巻き付けた筈の鋼糸は緩まり、その役目を果たしていない。


「私の神経糸と同じ素材では、私を拘束するには適さないと判断します」


 迂闊だった。男にプラムの魔導核への命令を出す隙を与えた事もそうだが、俺が自分の神経糸と同じ鋼糸を操れるのだから、プラムにもそれが出来て当然だ。四肢の切り離しが出来ないから鋼糸の直接操作も出来ないと思い込んでいた。

 しかもそれだけじゃない。


「骨子代替素材を一定量獲得。再生機能を第二段階が発動します」


 呟いたプラムの周囲を鋼糸が蠢き、まるで粘土細工の芯に使われる骨組みの様に形成される。いや、骨組みの様にではなく、それはまさに骨組みだった。

 胸の魔導核から更に白い肉が溢れ、鋼糸の骨組みをプラムごと包み、巨体を“再生”した。


「ぬ゛っ゛」


 どこか間の抜けた呻き声を上げたそれは巨大で、寸胴な身体は粘液で覆われているのでやはり両生類、扁平な頭はオオサンショウウオに似ている。


「なんだこれ…」


 プラムはサンショウウオの背中に下半身が埋まるように()()()いた。


「再生完了。障害排除開始」


 サンショウウオが前足を振り上げる。踏み潰されればただでは済まないであろうそれ。


「水紋花!」


「アースブレード!」


 サンショウウオの左側頭部に水の花が咲き乱れ、右側頭部に土の剣が突き刺さり、巨体を傾かせた。目を向けると短刀を突き出した姿勢のルリもといブルームーンとクリスティナが居た。


「お二人とも大丈夫だったみたいですね」


「なんかちょっと目を離した隙にとんでもないのが出て来てるわね」


 構えを解いて隣に立つルリ。男達は全員が気を失って倒れているが目立った外傷は無く、なのにルリは息を切らしてすらいない。


「ホワイトサラマンダーに似ていますけど…あの、その仮面は…」


「訊かないでください」


 クリスティナもこんな治安の悪そうな場所で一人にしたから心配していたが、杞憂だったようだ。


「プラムがあれに取り込まれました」


「そんな…」


「何としても取り戻します」


「ナタリアさん、最悪の場合は―」


「絶対に取り戻します」


 クリスティナの台詞を遮って、俺は宣言する。最悪の場合なんて、俺には必要無い。

 もう喪うのは嫌だ。


「ぬ゛っ゛」


 サンショウウオはルリとクリスティナに付けられた傷を意にも介した様子も無く体勢を戻し、全身をぶるぶると震わせた。


「ぬ゛う゛ぅ゛っ゛」


 迫力に欠ける咆哮と同時に粘液が撒き散らされ、咄嗟に展開した結界の外で無数の爆発が咲く。やはりプラムの腕から撃ち出された粘液と同じ性質のようだ。爆発そのものは大きくないが、その威力は一発だけで中級魔法に匹敵する。

 けれどまだもう少し耐えられるか。そう思った矢先、真っ白な前足が結界を叩いた。


「あ、ヤバ」


 呟いた時にはもう遅い。軋んだ結界はガラスの様に砕け、更に二歩目を踏み出そうと足が振り上げられた。


「二人とも、避けて!」


 振り返りながら言うとルリもクリスティナも既に飛び退いていた。

 あら、ルリはともかくクリスティナも(したた)かなんだから。うちのお嬢様やエイミーの影響だろうか。


 俺も二人に続いて間一髪回避する。

 太い足が床を叩く轟音が響く。

 俺もルリもクリスティナも無傷だ。


「まずは動きを止めなければ」


 と言いつつも、おそらく鋼糸による拘束はこの状態でも効かないだろう。なので足を直接潰す為、ブラックホークでサンショウウオの足を撃つ。


「矢の如く潜りて捕らえよ、鵜河千(うがち)!」


 ルリが周囲に放った幾つもの水流は螺旋の軌跡を描きなが、その魔法名の通りにサンショウウオの足を穿った。

 バランスを崩した巨体が傾き、しかしすぐに持ち直す。


「は?」


 俺達の付けた傷はまるで肉を継ぎ足すかのように埋められ、消えてしまったのだ。ゲームやアニメなんかで傷が即座に回復するなんてのはよくある事だが、実際に目の当たりにするとつい呆けてしまう。それもこんな巨体となると、より一層わけが解らない。

 思わず見上げれば、さっきルリとクリスティナが頭に付けた傷はもう跡形も無い。


「ぬ゛う゛う゛ぅ゛ぅ゛っ゛」


 サンショウウオが唸りながら、身体を旋回させる。巨体というのはそれだけで力であり、それに勢いが付けば立派な武器だ。

 空気を震わせながら鎚の如く振り抜かれる尻尾を何とか躱し、コンテナの後ろに退避する。だがサンショウウオはそれを皮切りに暴れだし、爆発性の粘液も相まって非常に厄介だ。


「ナタリアさん、あれはやっぱりホワイトサラマンダーです。火山地帯の湖に棲む、サラマンダーの中でも特に高い再生能力を持つ魔物です。おそらくその心臓か骨髄を魔導核に使って、再生能力を発現しているんだと思います。」


 顔を出して様子を窺っていると、同様に退避したクリスティナが教えてくれた。


「サラマンダーですか」


 サラマンダーと言えば前世の世界ではサンショウウオの他にトカゲに似た火の精霊の意味があったが、成る程、それならばあの再生力と爆発性の粘液にも納得がいく。

 魔導核で肉体を再生して、鋼糸を内部で骨子と神経の代わりにしていると言ったところか。


「でも、ホワイトサラマンダーは生息地が限られた希少種で、狩猟は禁じられてる筈なんです」


 つまりプラティボロス商会は密猟の疑いもあるわけだけれど、それは横に置いておこう。今考えるべきなのはプラムを取り戻す方法だ。


「ではそのホワイトサラマンダーを倒すにはどうすれば良いですか?」


「それは…再生不能なまでに高威力の攻撃で全身を破壊するか、魔力の根源である心臓を破壊するしか……」


 高威力で全身を攻撃か。銃が主体の俺とは相性が悪いな。


「クリスティナさん、範囲攻撃は出来ますか?」


 尋ねると、クリスティナは申し訳無さそうに首を横に振った。

 そうだろうな。クリスティナは火力より精密操作に向いているし、彼女が得意としている土魔法は炎や雷に比べて範囲攻撃が難しい。

 ならばもう一人は―


「あ、私? 無理無理。刀も無いし魔法も下級程度しか使えないから」


 転がり込んできたルリに視線を向けると即座に役立たず宣言した。

 となるともう一つの手しかないか。


「心臓の破壊。ですがあのホワイトサラマンダーに心臓など……まさか」


 ホワイトサラマンダーの身体は魔導核から溢れ出た肉で構成されている。そこには心臓や他の臓器も無く、魔力の根源は別にある。それは体に魔力を供給している魔導核だ。


「はい。プラムを…破壊します」


 聞きたくなかった。

 だがクリスティナは確かな決意を持って宣言した。

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