第1話
まばゆい光のせいで閉じていた目を開けると、やはり見覚えのないところにたっていた。それも、そのはずである。悟が一度目の転移で来たときは、第一世界アルカディアであり、王城であったからだ。しかし、今いるところは、見渡せないほど高い木に囲まれた森であった。
「はぁ〜。なんで、今回はこんな場所に転移させるんだよ。もっと他にもいい場所があっただろうに。あの駄神、今度会ったらタダじゃおかねえ。」
それを直接聞いていないのに、ミカの背筋に悪寒が走り、ちょっと涙目になったのはまた、別の話。
「とりあえず、街を目指して移動するか。しかし、ホントに何もないな。ここ。どっちの方角に進めばいいんだ?」
どこに行けばいいかわからず苛立つ悟であったが、ふといい方法を思いつく。
「そうだ!取ってきおきの方法があるじゃないか。」
そう言って、近くの木から枝を一本折った。さて、ここまできたら何をしたのかおわかりだろうか?
そう、枝倒しである。枝の倒れた先に進むというアレである。
「んで、倒れた先は、東か......。それじゃ、行きますか。」
枝倒しによって得られた結果、彼の進むべき方向は東となった。完全に運任せである。
それから数分、いや、それ以上が過ぎたかもしれない。枝倒しによって得られた東に行くということだったが、いくら進んでも高い木に囲まれたままだった。木しかない、緑一色の中にいることは景色好きな悟にとっては嬉しいことだったが、流石に飽きてきているようだった。
「あ〜、鬱陶しい!どこまでいっても緑しかないじゃないか!どんだけ進めば街のひとつでもでてくるんだ?」
それもそうである。後に知ることになるのだか、悟がいるのはオルティアだけでなく、他の五界の中でも有数の森のひとつであった。その森の、特に奥の方に転移させられたわけである。内心で再び駄神に、文句を言いつつ更に東に進んで行く。そして、更に数十分たった頃に、複数の声が聞こえてきた。
「ん?なんの声だ?冒険者か...傭兵か...どっちだろうな。ま、一応確認だけしておくか。」
悟はそう言うと、自身の魔力を放出するとそれを辺り一面に薄く広げた。これは、魔力を使った探知方法の一種である。これを使い、少し先にある声の主を探ろうとした。
「んー?これは......!?」
探知によって、得られた結果を知ると一目散に飛び出していった。反応によると、一人の女性が複数の男性に囲まれているのである。しかし、これだけなら放置しておくのが悟である。なぜなら、男性四人女性が一人や男性一人女性四人といった風に、男女比が偏っている冒険者パーティーがあるからである。しかし、今回の場合は大幅に違う。女性の方が明らかに襲われているのである。具体的には、男達が女の周りを囲い込み、一人の男が女の服を剥いでいるので、女の服は所々ボロボロになっている。女はまだ、手は出されていないようだが、間も無く男達の餌食になるところだった。悟としても目の前でそのようなことを放っておくと祟りに合いそうなので、助けることにしたのである。
「いや......!離して!お願いですから......やめてください......。」
女の顔が悲痛な面持ちに変わる。彼女は、ここで薬草の採取を行っていただけだった。この場所は比較的、街に近いところであり、薬草などと言った物が生えており魔物もおらず、あまり人が入ってこないところであった。
「いいね〜その顔!女を無理やり犯す時の顔はいつ見ても快感だぁ。特にあんたみたいな顔も体もいい女の場合は特にいい。その綺麗な体が汚れて行くところを見るのは最高だぁ。」
男はこの集団のリーダーだった。これまでにも、多くの女性が彼の手にかかり命を落とすなどしている。一言で言うならクズである。
「お頭ぁ、俺たちの分も残しておいてくださいよ?お頭はすぐに女をダメにするんですから。この前だって、上質な女をダメにしちまったんですから、今回こそは俺たちにも回してくださいよ?」
お頭もお頭なら、部下も部下である。お頭と同じようにくずである。もう一度言おう、ただのクズである。
「わかっているさ。安心しな女よ。壊れる寸前まで可愛がってやるさ。おっと、初めに言っておくが、ここが人のこないことはわかってるし、俺たちは、戦争にも参加し、生き残って来た傭兵集団だ。しかも、第四世界エクストリア出身だ。この意味わかるよな?」
気色の悪い笑みを浮かべ、女性に話しかける。女性の方も男の言いたいことはわかっていた。この異世界において、世界序列は絶対であった。それに加え、オルティアは他の世界に比べレベルが低かった。もちろん、いくらレベルが低いと言っても、オルティアにも上の世界でやっていける強者はいる。しかし、彼はみな、現在この世界にはいない。つまりは、助けを呼んでも勝ち目がないということである。
「それじゃー、そろそろいただきますかな。」
男が女性を犯そうと手を出した瞬間、男の手は腕から離れていた。突然すぎる事に全員の頭が、意識がついていかなかった。それから、数秒後自分の手が切られた事に気付いた男が痛みから声を上げる。
「ギャァァァァァァァァぁ。なんで、なんで俺の手がぁぁ。俺の手がぁぁぁぁぁ。くそがぁぁぁぁぁ!どこのどいつだ!出てこい!殺してやるぅぅ!」
木の陰から、男の手を切った者が出て来た。その者はもちろん悟である。さっきいた場所から近くの木の陰で話を聞いていた。なぜ、助けに行くのを待っていたかというと、万が一、億が一にもこの女性がこの状況を望んでいるかもしれなかったからである。このようなプレイを楽しむ人なんていないと思うが念のために話を聞いていた。どうやら、本当に襲われていたために男の手を切り落としたのである。
「一応聞くんだけど、この男たち殺しても問題ないよな?このプレイを望んでいるのなら別だけど。」
女性に質問する。
「そんなわけないじゃないですか!これのどこを見て望んでやってると思うんですか!まぁ、この人たちは犯罪者ですから、殺しても問題はありませんが......彼らはエクストリアの者ですよ?平気なのですか......?」
「そうか。万が一互いの了解があったら、めんどうだからな。わかった。この程度なら問題はない。さっさと殺すことに(二人ではなすんじゃねぇ!)」
悟の言葉は男によって遮られた。遮られたことによって悟の怒り度は上がった。実は、女性を襲うだけでも悟としては低評価である。探知によって見つけた時からかなり怒っていたのである。しかし、男としても手を失った分を取り戻したいのである。自分の手を切った相手が今まで見たことのない者で、更には自分の事を殺すと言っているのである。クズながら、彼にもプライドといったものは存在する。
「俺の手の落とし前をつけさしてやる。もちろん、てめぇの手を切り落とした後に殺してやるがな。俺を怒らしたことを後悔させてやる。
「弱い犬ほどよく吠えるってことわざを知っているか?そのことわざがお似合いだぜ?ま、軽く相手してやるよ。」
男を挑発するとともに不敵な笑みを浮かべた。数々の犯罪を起こし、戦争にも参加したこともある男たち傭兵集団の背筋が凍るほどの不敵な笑み。悟は真正面から男たちを見た。殲滅の開始である。