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魔王と呼ばれた男と少女

「死ねぇええええええ」


 憤怒や憎悪が入り混じった表情と罵声。

 勇者は俺に対して、その煌びやかな剣を振りかざす。

 だが、どうしても俺はその憎悪に答えてやることは出来ない。

 

 何故なら——。


 俺は死なない、不死者なのだから。


「うお、躓いた」


 俺の頭上を掠める剣。

 俺は幸いな事に、石に躓いて事なきを得る。


「クソッ! 何故、どうしてこうも剣が当たらないんだ」


 そう、その通り。

 俺には剣は何の意味もない。

 もう一度今度は外さないようにと、振るわれた剣も。

 俺の身体を不自然な程にすり抜ける。


「なら、これはどうだ!」


 突きは今度こそ俺を捉えた。

 腹部に突き刺さる聖剣。


「あっ、こんな所に金貨落ちてたんだけど要る? ちょ、あああああ、刺さってる。聖剣が刺さってるから!」


 史上最強の能力。

 確かギャグ補正、だっけ。

 よく分からないが、これによって俺は無敵となった。

 もうずっと昔の話だ。


 剣を腹部から引き抜いて勇者に返して、己の血を確認する。

 うん。

 大丈夫、もう治った。


「これで突き刺すこと二百八十回。意味の分からない幸運で躱されれて、三百回。魔物殺しの聖剣も意味がない。化け物め!」


「いやぁ、良い突きだね。今度こそ死んだと思ったもん。あれ? 何か鎧に虫が止まってますよ」


 近寄って虫を取ってあげる為に勇者に触れる。

 無論善意で、善意でだ。


「く、来るな。この、うわああああ!」

 

 そんな怯えなくていいじゃんか。

 言っとくけど、俺まだ攻撃してないんだけど。

 虫を取ってやろうと思ってるのに、その反応は少し傷付くなぁ。


「はい。取れたけど」


 途端勇者は城外へ。

 どごーんと凄まじい音を立て壁に穴をあけながら、綺麗に吹き飛んだ。

 あー、またこれか。

 もう嫌だ。

 なんでいっつもこうなるんだろう。


「また一人どっかに行ってしまった」


 俺は一人佇みながら、ぼうと城の天井を見上げる。

 これで何度目か、もう思い出せない。

 この能力のせいで、俺はずっと一人だ。

 魔王と罵られ、連日のように押しかける勇者。

 果ては腕自慢の魔物まで訪ねてくる。

 

 仲間や頼れる部下もいない。

 あ、壁もう直ってる。


「俺はいつまでここに隔離されているんだろう」


 この世界。

 アールガスにある古びた城。

 それが今の世界での俺の居場所。

 飯も一人で作るし、掃除も洗濯も一人で行う。

 この広々とした城は、俺には大きすぎる。

 愚痴っても仕方ないので、とりあえず風呂でも入ろうか。


「見てくれは普通なんだけどなぁ」


 風呂上がり。

 鏡を見ながら化粧水を手に取る。

 乾燥しやすいこの地帯は、ほっとけば顔がパサパサになってしまうからな。

 一応人の姿、してるんだけど。




「すいません。魔王様っていますか?」


 大きな声で俺を呼ぶ声が聞こえた。

 ら、来客だ。

 俺は慌てて魔王用のローブを身に纏い、城門まで向かう。


「城へ、ようこそ」


 決まって言うこの台詞。

 もちろん一度たりとも、受け入れられたことはない。


「あのー。ここの魔王様ってもしかしてあなたですか?」


 そう俺に尋ねたのは、焦げた服に大きいリュックを背負った少女だった。


「いや、魔王っていうか。……はい」


 もしかして、すぐに戦闘になるのだろうか。

 嫌だなぁ。

 俺は淡い期待をまだ捨てられずにいる。


「あの、私を弟子にして下さい」


 まだ十六ぐらいだろうか。

 朱色の髪に、揺れ動く大きな瞳。

 あまりにも迫真。

 そして必死に頼むその様子から、冷やかしではないと判断する。

 今にも泣きそうな少女に俺は声をかけた。


「え?」


 慌てるな。

 まだ慌てるような時間じゃない。

 俺は冷静さを取り戻すように、自分に暗示をかける。


「あ、あ。私の国が、魔王に乗っ取られました」


 号泣する彼女に、混乱する俺。

 何百年振りかの涙を見て俺は慌てふためく。

 魔王って、俺が?

 いや、ずっとここにいるんだけど。

 寝ている間に?

 どうしよ、どうしよう。


「と、とりあえず城へどうぞ。詳しくは中で聞きます」


 ぽりぽりと頬を掻きながら記憶をたどる。

 やはり、そんな記憶はどこにもない。

 こう見えても俺は寝相が大変良い。

 彼女を椅子に座らせて、俺も対面に座る。


「突然、まお、魔王が、来て来てえええ……」


 号泣する彼女の涙は滝のようで。


「ちょ、ちょっと待ってて」


 弱った。

 こういう時の対応が全く分からない。

 俺は急いで部屋かに戻り、古びた魔導書を引っ張り出す。

 パラパラと捲って、泣き止ます方法の欄を読む。

 えーと、ジャスミンティーを飲ます、と。


「これどうかな」


 俺は自分で淹れたお茶を彼女に飲んでもらって話を聞くことにした。

 何か力になれるかもしれない。


「あ、ありがとうございます」


 ズズーっと二人のカップから音がした。

 沈黙とほんの少しの安堵。

 それは彼女にとって充分だったようだ。


「こっちの魔王様って優しいんですね」


 もうずっと聞いていなかった台詞に思わず涙ぐみそうになる。

 泣くな。

 彼女は俺に助けを求めているのだから。


「では、改めて詳しく聞かせてくれる?」


 それから聞いた彼女の話は、あまりにも信じがたいものだった。

 突如現れた俺とは別の魔王。

 そいつが数多の魔物を引き連れて、彼女の国を襲ったらしい。

 勇者も歯が立たず、燃え、殺さていく。

 そんな中で命からがら逃げてきた彼女は、最後の手段として俺に弟子にしてもらおうと考えた。

 なんて惨いのか。

 同じ魔王だが、一度たりとも命を奪ったり、国を亡ぼしたりしたことはない。

 強者が弱者を虐げるなんて、到底許せそうもない。

 ふと、昔憧れた物語の勇者を思い出した。

 彼女なら、その勇者になれるかもしれない。



 



「そうか。そんな大変な事態になっているんだね。それで、君の名前は?」


「マギア・ベルです」


「じゃあベル。本当に俺の弟子になるの?」


 強く頷く彼女に、俺はどう答えればいいのだろう。

 心配するのも同情するの違う気がする。

 俺がしてあげれるのは、この子を強くしてあげることだろうか。


「お願いします。私強くなっていつか魔王から国を取り返したいのです」


 その決意。

 俺がしかと受け取った。


「俺の名はジャルナ・カオス。君の願いを聞き届けたよ」


 こうして彼女と俺は師弟関係となる。

 本物の魔王との戦いの幕が上がった。

初投稿です。

お見苦しい点もあるかと思いますがどうぞよろしくお願いいたします。

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