第二十四局 挫折 一本場『現実逃避』
どうして――?
どうして、こんな事になったのだろうか?
………………
そんなの考えるまでもない。コレは天罰だ。
そう……あの人を傷付けてしまった、わたしへの罰……
後ろ手に手首を縛られいるわたしは、薄暗い室内を見渡した。
長年放置されている廃工場か廃倉庫であろう。床には空き瓶やタバコの吸い殻などのゴミが散乱し、回りには汚れた木製のコンテナが幾重にも積み重なっている。
物が多いから乱雑に感じるけど、多分大きさは学校の体育館くらいはあろう。
この密閉された空間に、数十人の――いや、もしかしたら百に届く人数の息づかいが響いている。
「しっかし……随分と集まったな、おい」
「へっ……そんだけ、あの南姉弟が嫌われてるって事だろ?」
「アイツらに潰されたゾクやチームは、結構あるって話しだしな」
そんな中、わたしのすぐ近くに立つ五人の男達――見覚えのある顔。さっき公園でわたしに絡んで来た男達。
そして――あの日、わたしを襲った男達……
「しかしよぉ……さっき揉めたばっかの友子ならともかく、友也の方がわざわざ来ると思うか?」
来るわけがない。
わたしは、あの人を――先生を傷付けてしまったのだから……
あの日、わたしを助けてくれたのは先生だった。
剣道の試合のあと、その事に気が付いたわたしは、とても嬉しくなり、とても浮かれていた。
しかし、その先生が、実は男の人だった……
先生がなぜ女性の格好を――お姉さんの格好で学院に通っていたのかは分からない。
確かに、先生の正体を知った時にはショックだったし、今でも男の人は怖い。
でも……
あの時、わたしを助けてくれたのは、紛れもなく南先生なのだ。
いえ、それだけじゃない。
再会した始業式の日、校門前で絡まれている所を助けてくれたのも先生だし、剣道部で浮いた存在だったわたしを気遣って、試合までしてくれたのも先生だ。
なのにわたしは……
わたしは……公園で、先生が差し伸べてくれた手を払い除けてしまった。
最低だ……
本当に、わたしは最低だ。
「来ねぇなら来ねぇで、構やしねぇ。そん時は、この女に楽しませて貰うだけだ」
「へへへっ。身体もあん時より、少しは成長したみてぇだしな」
好きにすればいい――コレは罰なのだから。
わたしには、先生に助けて貰うだけの資格もなければ、価値もない。
そう、生きている価値すらないのだから……
今のわたしには、絶望感すらない。あるのは虚無感――全ての事に意味を感じられずにいる。
生きている事にすら、意味を感じないのだから……
そんな、自暴自棄に陥ったわたしの目には、映る物が全て遠い世界……別世界のように見えていた。
自分の事を話す男達の会話すらも、別世界のよう……
ふと、男達の話し声に紛れて、物音が聞こえてくる。
錆びついた扉を開く音――正面にある鉄製の閉ざされた大きな門の隣。通用口の扉が開く音だ。
「あっ!? お疲れ様~ッス!」
扉の向こうから現れた人物へ、一斉に頭を下げる男達。
暗くてよく見えないけど、シルエットからするに大柄な男性のようだ。
ゆっくりとした足取りで、コチラへと近づいて来る。
まあ、いまさら一人二人増えたところで――って、えっ!?
近づいて来るにしたがって、男性の顔が認識出来るようになって来る。
そしてわたしは、その見覚えのある顔に思わず目を見張った。現実から逃避していたわたしの心は、強引に現実へと引き戻されたのだ。
「ど……どうして、お兄ちゃんが……ここに?」




