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『オレの生徒はお嬢様!?』  作者: 宇都宮かずし
第二部 オレの生徒は男性恐怖症!?
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第二十三局 交渉 三本場『思春期男子専用書籍』

「お兄ちゃん……」


 携帯に映る通話終了の文字を忌々(いまいま)しげに睨み付けるオレに、不安そうな声を漏らす真琴ちゃん。

 オレは目を伏せながら『パタン』と携帯を折りたたみ、ズボンのポケットへと仕舞った。そしてゆっくり息を吸い込むと、いま作れる最高の作り笑顔で顔を上げる。


「じゃあ、そうゆうワケだから、ちょっと行って来る。留守番よろしくね、真琴ちゃん」


 オレは上手く笑えているだろうか……?

 いや、笑えてないだろうな……


 オレの言葉を受け、益々と不安の色を濃くする真琴ちゃん。


「み、南先生――」

「まさか、お一人で行かれる気ですか……?」


 いや、真琴ちゃんだけじゃない。響華さんに白鳥さんも、驚きと不安の入り混じった表情を浮かべていた。

 オレは、そんな二人になるべく明るい声色――明るい口調で言葉を返す。


「まさかもミサカも電磁砲もないでしょ? みんなで行ってもしょうがないじゃん。それに、ご指名はオレだ」


 何より知人の――それも女の子の前で、フクロにされて(よろこ)ぶようなM属性は持ってないし…………おそらく。


「ふうぅ~、南先生……そんな、とある科学なネタは多分、お嬢様達には通じねぇよ、ございます」


 撥麗さんは一つため息をつくと、どこからともなく十円玉を取り出し、それをコイントスでもするかのように親指で弾いた。

 クルクルと回転しながら上昇していた十円玉は、天井にぶつかる寸前でUターンをし、引力に引かれて落下を始める。


「それに一人で行くなどという戯言(たわごと)も――」


 続いて口を開いたつばめさん。コチラに視線を向けたまま、落ちて来た十円玉を空中でキャッチすると、その手を差し出すようにオレの方へと向けた。


 そして――


「お嬢様達には通じませんよ、友也さま」

「あだっ!?」


 ニッコリ微笑むつばめさんの手から放たれた十円玉が、一直線にオレの(ひたい)へ直撃する。


 若干涙目でオデコを押さえるオレの前から、持ち主である撥麗さんの元へコロコロと転がって行く十円玉――


 って、そこまで狙って弾いたのか?

 さすが西園寺家のメイドさん。もの凄いコントロールだ……


 そんな感心するオレの眼前に、そのメイドさんの主様(あるじさま)がテーブルを叩きながら身を乗り出して来る。


「つばめの言う通りです、南先生っ! そのような場所へ、先生一人を行かせるワケには行きません。わたしも着いて行きますっ!」


 い、いや、着いて来られても……


 一点の曇りもない黒曜石のような漆黒の瞳で見据えられ、思わずたじろぐオレ。


「まあ、北原さんとはそれほど交流があるワケではありませんが、同じ学院に通う学友です。見て見ぬふりなどは出来ません。義を見てせざるは勇なきなり、ですわ」

「まっ、わたしは最初から着いて行くつもりだったし」


 そして響華さんに続き、白鳥さんと真琴ちゃんまでも同行の意思を表明する始末。

 とはいえ……『はいそうですか』と、簡単に了承出来る事ではない。


「い、いや、ちょっと、待って……何があるか分かんないし危ないから、みんなはココで待っててよ」

「危ない事はない、でございますよ。お嬢様達には、撥麗とつばめさんが指一本触れさせねぇ、でございます」

「はい、安心してください」

「い、いや、しかし……」

「しかしもお菓子も腐女子(ふじょし)もありません。これ以上グダグダと駄々をこねるようなら、友也さまの男の娘画像を腐女子のコミユニティに片っ端からバラ撒きますよ。メアド付きで」

「なっ……」


 ニッコリ笑いながら、とんでもない事を口にするメイドさん。


「ちょいと、撥麗……『ふじょし』とは何ですの?」

「高貴な淑女(しゅくじょ)は知らなくてもよい言葉だ、でございます」

「なるほど。ではわたくしは、知らなくても良いですわね。お~、ほっほっほっ~っ!」


 相変わらずチョロいな、このお嬢様……

 まあ、知らなくても困るような言葉ではないのは確かだけど。


 我がクラスの誇るお笑いコンビのやり取りの前で頬を引きつらせるオレに、つばめさんがダメ押しとばかりに口を開く。


「それにこのお部屋。狭い上に掃除もそれなりに行き届いているようですし、ココで留守番などメイドとして手持ち無沙汰で仕方ありません。まあ、家探しをしてエロほ――もとい、思春期男子専用書籍を漁っても良いなら、話は別ですが」


 そ、それは、マジ勘弁して下さい……


「ちょいと、撥麗……『ししゅんきだんしせんようしょせき』とはどういった本ですの?」

「高貴な淑女は知らなくてもよい本だ、でございます」

「なるほど。ではわたくしは、知らなくても良いですわね。お~、ほっほっほっ~っ!」


 いや、もうそのネタはいいから。

 とはいえ、ここでグダグダやっている場合じゃないのは確か……


「分かりました……その代わり、オレに何があっても、危ない真似はしない事。そして――響華さん達に危ない真似はさせない事。コレは約束して下さい」


 オレは真剣な面持ちで、つばめさんの瞳を正面から見据える。

 見方によっては、まるで相手を睨み付け威嚇するよう様な視線……


 しかし、当のメイドさんは、その視線を受けても笑顔を崩す事なく優雅に立ち上がった。


「そこは(わきま)えておりますので、ご安心を。殿方のなさる事に横槍を入れる様な野暮はいたしません」


 スカートを摘んで、仰々しく頭を下げる西園寺家のメイドさん。

 まあ、まだ不安はあるけど仕方ない。一刻も早く北原さんを助けに行かないと……


「よしっ!!」


 オレは気持ちを切り替えるべく、両の頬を『パチンっ!』と叩き、気合いを入れて立ち上がった。


 そしてオレに続く様に、この場にいる全員が席を立つ――

 真剣な面持ち……皆が皆(みながみな)、引き締まった表情で、オレに視線を向けて来る。


 オレはゆっくり息を吸い込みながら大きく頷くと、玄関に向けて踵を返した。


 オレはどうなったっていい。いや、むしろこれは、北原さんを傷付けたオレへの罰だ……

 だけど北原さんだけは絶対に無傷で――


「友也さま――出発の前に、一つだけ重要な確認事項があるのですが、よろしいでしょうか?」

「え? ああ……な、何ですか?」


 真剣な眼差しを浮かべて尋ねるつばめさん。

 その射抜く様な鋭い眼光に、オレは背筋を伸ばして返事を返す――


「友也さまの、思春期男子専用書籍コレクションの中に、メイドモノはございますでしょうか?」

「あ・り・ま・せ・んっ!!」


 …………………………ホントはあるケド。

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