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『オレの生徒はお嬢様!?』  作者: 宇都宮かずし
第二部 オレの生徒は男性恐怖症!?
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第二十二局 機密漏洩 五本場『絶対に許しません』

「そこの少年。アナタ南先生ですねっ!? でございますっ!!」

「なっ!?」


 撥麗さんの口から出たセリフを耳にした瞬間、オレの心臓は驚愕で痛いくらい跳ね上がり、そして言葉を失った。

 いや、多分オレだけじゃなく、後ろにいる響華さんと真琴ちゃんも言葉を失っているはずだ。


 夜の帳が落ち帰宅するサラリーマン達の喧騒の中、まるでオレたちの周囲だけが、隔離されたかのように静寂に包まれる。

 絶え間なく通り過ぎる車のヘッドライトに照らされながら、懸命にこの場を(しの)ぐ言葉を探すオレ。


 しかし――


「お~っほっほっほっほ~っ!」


 うまく言葉を紡ぐ事が出来ずに、口をパクパクさせるだけのオレに代わって、白鳥家ご令嬢さまの高笑いが、その静寂を引き裂いてくれた。


「何を馬鹿な事を言っておりますの、撥麗? 南先生が殿方のはずないではありませんか?」


 おっ!? いいぞ、頑張れ委員長っ!


 白鳥さんの言葉を応援する様に、大きく何度も頷くオレたち。


「まあ確かに、目元や眉の形は似ておりますし、鼻筋もそっくりで、口元など瓜二つですが――――――って、ホントに似ておりますわね?」


 高笑いの笑顔から一転。(いぶか)しげな表情でズイっと顔を覗き込む白鳥さんと、その蒼い瞳からそっと視線を外すオレ……


「わたくしは資料の写真でしか南先生を見た事がありませんので、なんとも言えませんが――撥麗さん、確かなのですか?」

「はい、クールな毒舌スナイパーなど言われていた、懐かしの消えた一発屋芸人風に言うと――『間違いないっ!』、でございます」


 つばめさんの問いを、長井風に断言する撥麗さん。

 てか、なぜ今さら長井○和……?


 そんなツッコミを入れる間もなく、撥麗さんは言葉を繋げて行く。


「撥麗も格闘家の端くれ、一度闘った相手のクセは忘れない、でございます。初撃の上段回し蹴りをかわした体捌き、更に崩れた体勢からでも、二撃目にガードを間に合わせる反射神経。何より脚を上げている時、ずっとスカートの中をガン見している視線の送り方――まさしく『間違いないっ!』、でございますっ!」

「友也さん……」

「お兄ちゃん……」


 い、痛い……背中に響華さんと真琴ちゃんのジト目の視線が突き刺さり、とても痛い……

 しかしっ! 見てしまった事は否定しないけど、ガン見はしてないぞ………………多分。


「ふむ……左様ですか」


 つばめさんは一度顔を伏せると、ゆっくりとした足取りでオレの横を通り過ぎて行く。

 ふわりと香る清楚なバラの香りに引かれ、そのメイド服を追って振り返ると、つばめさんはあるじの前で立ち止まり(おごそ)かに頭を下げた。


「響華さま――響華さまは、この事をご存知だったのですか?」

「えっ……いや、それはその……」

「どうなのですか?」

「……………………はい」


 まるで母親に叱られる幼い子供の様に、身を縮める響華さん。そして十分な間の後に、肯定の返事を口にした。


「ちょっ、ちょちょ、ちょっと待て下さいましっ! という事は、本当にこの方が南先生なのですかっ!? それに響華さまがご存知という事は、生徒会もこの不正に関わっているという事ですのっ!?」


 響華さんの肯定の言葉に白鳥さんが、戸惑いながら驚嘆の声を上げる。

 その言葉を聞いて更に身を縮める響華さん。その姿は、とても西園寺家次期当主とは思えないほどだ。

 オレのせいで糾弾(きゅうだん)される響華さんの姿に胸が痛む。


「まあまあ、白鳥さん。落ち着いて――」

「落ち着いている場合ではありませんわっ、東さんっ!! ラファール学院は男子禁制っ! そこに女装をして男性が潜り込むなど、あってはならない事ですっ! しかも、その不正に生徒会が関わっているなど見過ごせませんわっ!!」

「い、いえ……この件は響華さまの独断で、生徒会は関係な――」

「生徒会長が関わっているなら、同じ事ですわっ!」


 真琴ちゃんの仲裁も虚しく、ドンドンとヒートアップしていく白鳥さん。


 これだけの美女が集まり、そして騒いでいれば、当然周囲からの注目を集めるわけで……

 遠巻きながら少しずつ大きくなっていく、オレたちを取り囲む人垣。中にはこの修羅場を撮影しようと、スマホを取り出している人もいる。


 西園寺家と白鳥家――どちらも日本を代表する大財閥だ。こんな所で騒いでいるのが広まったら、色々とマズイんじゃないか?


 庶民生活者とはいえ、あんな特殊な学院に約半月も通えばその辺の事もある程度は理解できてくる。


「あ、あの~、ここじゃ何だから、ゆっくり話の出来る所に移動しませ――」

「んっ!!」


 一つ深呼吸をしてから意を決して言葉を発してみるが、白鳥さんのひと睨みで封じられてしまった。


 もう、教師の威厳なんてカケラもないな、オレ……


「そもそもっ! 女性だけの神聖な学院に、なぜ男性が紛れ込んでいるのですかっ!? しかも女性の格好までしてっ!」

「それも含めて、静かな所でゆっくりと――」

「何を悠長な事を仰っているのですかっ!? それに、どんな理由があろうと、この様な事が許されるはずありませんわっ!! この件はキッチリと糾弾させて頂きますわよっ!!」


 もはや聞く耳持たずといった感じの白鳥さん。

 まあ、真琴ちゃんや響華さんが特殊なケースで、これが普通の反応だよな……


「しかし葵さま。どのように糾弾されるにしても、まずは話を聞くのが先決だ、でございます」

「そうですわね。それに、いつまでもここに居るのは後々、面倒な事になるやもしれません。彼の言う通り、まずは移動を致しましょう」


 周りの野次馬たちに目を配りながら、冷静な判断でお嬢様に進言をするメイドさん達。

 正直、そんな事より北原さんの事について聞きたい所だが、この状況では仕方ない。


 何より、さすがにこの状況では学院の方は絶望的だろう。さて、姉さんに何て言い訳したものか……


「じゃ、じゃあ……お兄ちゃんの部屋にでも移動しましょう? すぐ近くだから」

「分かりましたわ。じっくりお話を聞かせて頂きましょう。まあ、どんな理由があったとしても、わたくしは許すつもりなどありませんけど」


 真琴ちゃんに(うなが)されながら、キッとオレを睨み付けてそう断言する白鳥さん。


 まあ一方的に、コチラに非があるのだ。許されようなんて思っていない。オレに出来る事ならどんな償いもしよう。

 しかし、それもこれも、まずは北原さんを救い出してからだ。


「わたくしは、絶対に許しませんですわよ~っ!!

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