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『オレの生徒はお嬢様!?』  作者: 宇都宮かずし
第二部 オレの生徒は男性恐怖症!?
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第二十二局 機密漏洩 二本場『日本のメイドは……』

挿絵(By みてみん)


 身を硬直させながら、恐る恐る後ろへと振り返るワタシ――


「あ……ああ、(あおい)さま……」


 そう、ワタシの背後を取っていたのは、ブロントの縦ロールが()える青いパーティードレスに身を包んだ我が(あるじ)にして、AAカップの胸を極厚二段重ねのパットで底上げした白鳥家のご令嬢、白鳥葵お嬢様。


「撥麗、アナタ今……とても不遜な事を考えましたわね……?」

「め、滅相もねぇ、でございますっ!」


 まるでヤンデレキャラみたいに、ハイライトの消えた虚ろな瞳でユラリと詰め寄られ、ワタシは仰け反る様に後退(あとずさ)った。


 日本人というのは、時折(ときおり)とんでもない感の良さを発揮する。さすがはニュータイプという概念(がいねん)が生まれた国だ。


 い、いや、そんな事より今は話を逸らさなくては……

 このままでは、帰ってから葵さまの『朝までお説教コース』が始まってしまう。


「そ、それより葵さま……本日はパーティーで帰りが遅くなるのではなかったのか? でございます……」

「ええ、パーティーの方は、お父様が一発芸で『恋するフュージョンクッキー』を振り付きで披露していましたら、ぎっくり腰を起こしてしまったので早めにお開きになってしまいましたわ」


 え……?

 き、今日は政界や財界の偉い方々が集まる社交会と聞いていたのに、なぜそんな宴会芸を……


「まったく……いくらデスクワークが多いとはいえ、お父様はお身体が(なま)り過ぎですわ。相方の安部(やすべ)首相は、フルコーラスを最後まで踊り切りましたのに」


 しかも首相がご一緒にっ!?

 仮にも一国の首相が――しかも、世界第三位の経済大国である日本の総理大臣がパーティーの席で『恋するフュージョンクッキー』を振り付きで……


 祖国にいる母上様、お元気ですか? 夕べ杉の(こずえ)に明るく光る星ひとつ見つけました。

 だからどうという事ではありませんが、撥麗は時々この国がとても恐ろしく感じます。

 そして、将来がとても心配です……


「そんな事より、撥麗っ! こんな所で、何をしておりましたのっ!?」


 し、しまった……

 オッサン達による、振り付き『恋するフュージョンクッキー』という、あまりの出来事に話を逸し損ねてしまったっ!


「い、いえ、これはその……でございますね」

「アナタ、またパチンコなどという低俗な遊びに(きょう)じておりましたわねっ!?」

「ち、違うのであります、でございます! こ、これは……そ、そうっ! つばめさんに誘われ、撥麗は付き合っていただけで――」


 ここは、硬い絆で結ばれたメイド仲間であるつばめさんの助け舟に期待して――


「って、居やがらねぇ、でございますっ!?」

「またこの子は、すぐにバレるウソをついて……つばめさんなんて何処にも居ないではありませんか?」


 くっ、さっきまでココで嬉しそうに諭吉を数えてたはずなのに、こんな一瞬で消えるとは……

 日本のメイドは隠れ蓑の術でも使えるのですか?


「とにかくっ! 今日という今日は、白鳥家のメイドとしての心構えと言う物をしっかりと説いてあげますわっ!!」

「そ、それは勘弁して下さい、でございますぅぅぅ~」


 首根っこを掴まれ、路肩に停めてある白塗りのリムジンへと引き()られて行くワタシは、徹夜でお説教という未来に涙を浮かべ――


「っ!?」


 ふとっ、薄幸(はっこう)な乙女の涙で滲んだ視界の端にとんでもない光景が掠め、ワタシは身を強張(こわば)らせた。


「ちょっと、待ったっ、でございますっ! 緊急事態だっ、でございますっ!!」


 あわてて大勢を立て直し、走り出そうとするワタシ。

 しかし、後ろ襟を掴む葵さまの握力が思いのほか強い。いや、それどころか、さっきまで片手で掴んでいた後ろ襟を、両手で掴み直す葵さま。


「そのようなお芝居には騙されませんわよ。早くコッチにいらっしゃいっ!」

「いや、お芝居じゃねぇ、でございますよっ! お説教なら後でちゃんと聞くでございますから、今は手を離して下さい、でございますっ!!」

「そんな事を言って、また逃げるつもりでしょうっ!」

「『また』とは心外なっ、でございますっ! 逃げた事など十回に九回くらいしかねぇですよ、でございますっ!」

「それだけ逃げていれば、十分ですわっ!」


 路肩に停まるリムジンの横で、すったもんだと揉めているワタシ達。

 そんなワタシ達の隣を一迅の黒い影が駆け抜けた。


「っ! 間に合うかっ!?」


 そう、ワタシ達の隣を駆け抜けたのは、真っ赤な自販機の着ぐるみを脱ぎ捨てて走る、黒いメイド服を纏ったつばめさん。


 って、ホントに隠れ蓑の術だったのですかっ!?

 いや、今はそんな事どうでもいいっ!


「つばめさんっ、頼んだ、でございますっ!!」


 ワタシの声を背に受けたつばめさんは、ガードレールの上から停車しているリムジンの屋根へと飛び乗ると、そこから走行する車の上を飛び越えて中央分離帯へと着地した。

 そして、そのまま分離帯の縁石の上を走るつばめさん。


「な、何なんですのアレは……?」


 つばめさんの、まるでくノ一みたいな人間離れした動きに、目を丸くしている葵さま。


「撥麗達も行くでございますよ、葵さまっ!」

「い、行くって……」


 戸惑う葵さまを尻目に、ワタシはつばめさんの進行方向へと目を向けた。


 反対車線の路肩。歩道橋の下に停まっている白いワゴン車――


「女の子が――おそらく北原家の忍さまが、拉致されそうになってる、でございます」


 そう、そこに見えるのは、数人の男達に無理矢理ワゴン車へ押し込まれそうになっている着物姿の少女。

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