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『オレの生徒はお嬢様!?』  作者: 宇都宮かずし
第一部 オレの生徒は生徒会長!?
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第四局 学長派と理事長派

 今日は新学期初日。

 普通ならば、始業式で体育館に集まり学院長の有り難くて長い話しを睡魔と戦いながら聞き流した後は、HR(ホームルーム)をやって午前中で終わる――


 まあそんな所だろう。


 そしてそれは、このラファール学院でも変わらないらしい。


 もっとも、有り難い話しは学院長だけではなく神父様もするそうなので、睡魔との戦闘時間は単純に倍になるそうだ。


 そして今――

 確かにオレは学院長の有り難いお話しを聞いている。


 しかし、ここは体育館ではなく学院長室。そして何故かマンツーマンだ。

 ちなみに、こことは別に体育館では、ちゃんと始業式は行われている。


 感謝しろよ生徒諸君。オレが学院長を独占しているおかげで、本日キミ達の戦闘時間は半分だ。


 では、なんでこんな事になっているのか……?

 どうやら、今朝の件がいけなかったらしい。


 生徒の個性を(とうと)び、自主性を重んじる学院側としては、生徒の揉め事に教師は首を突っ込んではいけないそうなのだ。


 ヤドカリみたいな巻き貝盛り(ヘアー)に逆三角眼鏡を掛けた学院長さまの、有り難いお説教は半分以上聞き流していた……


 てゆうか、全部は聞き取れないって、そんなヒステリックにキャンキャン言われも。


 とりあえず理解出来たのは、学院全体の治安や風紀は生徒会長の管轄。各クラスの風紀はクラス委員長の管轄。

 そして、教師の役目は生徒の手本たる行いを見せ、生徒を導く事。しかし風紀や揉め事に直接介入してはいけない。


 ……だそうだ。


 そういう学院側の姿勢が、生徒一人一人の個性や自主性を伸ばしていく――なんて綺麗事を並べているけど、ホントにそうなのか?


 上流階級とは程遠い、どちらかと言えばヒエラルキーの底辺に近い生活をしていたオレには理解しがたい考え方だ。


 そして、小一時間は続いたお説教が終わった時には、すでに始業式も終わっていた。


 すっかり憔悴しきって職員室に戻って来た時のは、HRの十五分前。この十五分、『ぐでぇ~』っと机に突っ伏して休みたい所だけど――

 しかし、職員室にまで流れている、このお上品な雰囲気がそれすらも許してくれない。


 ホント、気が休まる時がない学院だな……


「学長の相手、お疲れ様でした」


 ふと、ふわっと香るラベンダーの甘い香りと共に、後ろからお茶が差し出された。


「み、緑先生!?」


 ラベンダーの香りの主は、一色緑(いっしきみどり)先生。オレ隣の席に座る2年F組の担任だ。ちなみにオレは、同じ2年F組の副担任。


 研修の時に聞いた話しでは、容姿端麗、頭脳明晰、優しくて生徒にも人気があり、よく気が利くと評判の先生だ。


「そんな、お茶汲みなんて、わたしがやりますから」

「いいからいいか。、学長の相手をしてきてお疲れでしょ」


 そう言って、ニッコリ微笑む緑先生。


 うぅ~っ、癒やされます。同じラベンダーの香りでも、どっかのママさんとは大違い。

 まさに月とスッポン、フレグランスとトイレの芳香剤といった感じだ。

 

 せっかくお茶を煎れて貰ったので、とりあえず一口……


 うん、安物の茶葉でも緑先生が煎れると、それだけで美味しさが二割増しです。


「まぁ、この学院は普通の学校とは違うから、最初は戸惑うでしょうけど――」

「え、ええ、まぁ……」


 答えを濁してみたけど、それはもう――朝の出来事だけで実感しました。


 ふわっと、更にラベンダーの香りが強くなったと思ったら、綺麗な顔が急接近。そして内緒話しをするように、小声で話し出す緑先生。


「それに、学長も保身なんかで色々と大変なものだから、どうしても口うるさくなってしまうのよ」

「ほ、保身ですか……?」


 ち、近いです、緑先生……

 緑先生の色気に内心ドキドキしながらも、なんとか平静を装うオレ。


「えぇ……表向きは、生徒の自主性とか言っているけどね。ここに通っている子達はみんなVIPでしょう――もし学院側が関与して、万が一の事が起きた場合の責任の重さも尋常ではないのよ」


 なるほど、そうゆう事か――


「特に今朝の場合なんかは、生徒会長の西園寺さんが絡んでいたでしょ。西園寺家と言えば、日本で――いえ、世界で見ても五本の指に入る大財閥。もし、あの時に彼女が怪我でもしていたら、学長と教頭のクビがまとめて飛んでも足りないくらいだったわ」


 う~ん……理屈はわかる。わかるけど……


「理屈はわかるけど、納得は出来ない……そんな顔してるわよ」

「ええ、まぁ……」

「それはそうよね。私も自分で言っていて、納得してないもの」


 そう、確かに納得は出来ていない。


「私も遠くから見ていたけど、実際あの時に南先生が飛び出さなければ、西園寺さんは大怪我をしていた――でも、学院関係者が誰も関与して居なければ、学院側は責任を取る必要がないし、クビが飛ぶのはせいぜい警備員くらい――学長が言いたいのは、そうゆう事よ。そのために、学院側は生徒会に学院内での自治権を認めて、学生の揉め事には干渉しないと、公言している――」

「その言い訳が、個性を尊び自主性を重んじるって綺麗事ですか?」

「その通り。よく出来ました」


 ちっ! 胸くそ悪い話しだ。


「特に学長派は、不干渉を徹底するため色々と手を打っているわ。例えば付き人の登校を許可したりとか」


 あぁ、研修で聞いたけど、そんなシステムもありましたね。

 当然、女子校だから女性限定だけど、身の回りの世話をする付き人を教室まで連れて来られるそうだ。


 ただこの場合は、一緒に授業を受けるので、ただでさえ馬鹿高い授業料を二人分払わなければならない。にもかかわらず、正式な学生として籍を置いている訳ではないので、学歴が付くという事はない。


「あれも結局は、『学院側はトラブルには干渉しませんから、不安があるなら相談役なりボディガードと一緒に登校して下さい』って事」


 なるほど……

 てっきり、ガメツく二人分の授業料を儲けようとしているのかと思っていたけど、そうゆう意図があったのか。もっとも、そのシステムを利用している娘はあまりいないらしい。確かウチのクラスでも一人だけだし。


 そう言えば、さっき気になる事を言っていたな。


「ところで、緑先生――さっき、学長派って言ってましたけど、他にも派閥なんてあるんですか?」

「あるわよぉ~。もう一つは理事長派。こちらは、今の事なかれ制度に不満のある人達ね――でっ、私は理事長派」

「もしかして、こんな話しをしたのは理事長派へのお誘いですか?」

「いえいえ~。そんな事しなくても、南先生なら絶対こっちに来てくれると信じていますから」


 ニッコリ笑って、そう言い切る緑先生。


 ちくしょう~! 可愛いぞ、緑先生。今現在、オレの中で、嫁にしたいランキング、ブッチ切りぼ第一位だ。


 ――とまぁ、オレの好みの話しは置いといて、姉さんならどうするだろ……?

 考えるまでもないか。間違いなく理事長派だ。


 と、ちょうど良いタイミングで予鈴が鳴った。


「さて、ここからは気持ちを切り替え行きましょう。クラスの子達はみんないい子ばかりだから」

「はい、よろしくお願いします」


 先に立ち上がった緑先生に続き、オレはすっかりぬるくなてっしまたお茶を、一気に飲み干して立ち上がった。


 さて、授業ではないけど、こうゆうのは最初が肝心だ。ビシッと気合いいれて行きましょうかっ!

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