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『オレの生徒はお嬢様!?』  作者: 宇都宮かずし
第二部 オレの生徒は男性恐怖症!?
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第二十一局 真相 三本場『着信アリ』

 どこをどうやって帰って来たのだろう……?

 覚束ない足取り……そして頭の中が真っ白のまま、それでも帰宅したオレ。


 居間にジャケットとウイッグを脱ぎ捨て、部屋着に着替えると、そのまま自室のベッドへうつ伏せに倒れ込んだ。


 オレが……オレが北原さんを男性恐怖症にした原因。

 オレがあの時にもっと上手く立ち回っていれば……


 帰り道、ずっと頭の中をグルグルと回っていた言葉。その言葉が頭から離れずに、他に何も考える事が出来ない。


 枕に顔を埋め、拳を握り締めると同時に、姉さんの言葉が耳に甦ってきた――


『たくっ……友也は、いつもいつも詰めが甘いんだよ』


 まったくだ。オレはいつも詰が甘い……

 その詰めの甘さで、オレだけがキズ付くならそれはいい。それは自業自得だ。


 でもオレは、その詰めの甘さで人をキズ付けてしまった。

 当時はまだ小学生という小さな女の子の心に、男性恐怖症という精神疾患が残る程の深いキズを……


 強く握り締めた拳。手のひらに爪が食い込み、微かに血が滲む。

 しかし、そんな痛みすら感じる事のない程に、オレのちっぽけな脳ミソは後悔の文字で埋め尽くされていた。


 コンコン――


 どれくらい、そうしていたのだろうか?

 時間の感覚すら曖昧になっていたオレの耳に、遠慮がちなノックの音が届く。


「あ、あの……お兄ちゃん……?」


 続いて聞こえて来たのは、聞き馴染んだ幼なじみの声――

 少しだけ開いたドアから、遠慮がちに中を除き込む真琴ちゃん。


 その心配そうな表情を前に、オレはゆっくりとベッドに座り直して半開きのドアへと顔を向けた。


 たくっ……妹みたいな幼馴染みに、こんな顔をさせるなんて、兄貴分失格だ。


「あれっ? もう、死神少年のコスプレはやめたんだ?」

「えっ!? あれ?」


 オレは上手く笑えているだろうか……?

 それでもオレは私服姿の真琴ちゃんに、今出来る精いっぱいの作り笑いを浮かべた。


「だから言ったじゃありませんか、あんな目立つ格好では尾行など無理だと」

「あっれ~、おかしいなぁ。絶対バレてないと思ったのに……」


 ドアの影でコソコソと話す二人。どうやら響華さんもいるようだ。


 まあ、姉さんから合い鍵を預かっているみたいだし、別に不思議ではないけど。

 それに、この二人に限って、合い鍵を悪用する事なんてないだろう。


 ただ、今朝は洗濯物――トランクスが一枚足りないような気がしたけど…………気のせいだな、きっと。


「ち、ちなみにお兄ちゃん……いつからバレてた?」

「いつからって言えば――腕時計型麻酔銃を向けて、小学生を追い回していた時からかな」

「思いっ切りし、最初からじゃんっ!!」


 真琴ちゃんの元気なツッコミに、少しだけ頬がほころんだ。


 まあ、あれだけ騒いでいればね。


「それと公園じゃ、ありがとね。警察が来ているフリしてくれて」

「そ、それもバレてるんだ……」

「まあね。聞き慣れた真琴ちゃんの声を間違えるワケないし」

「えへへへっ」

「むぅ~~~」


 なにやら嬉しそうに笑う真琴ちゃん。そして、ドアの影からは響華さんの唸り声――


「響華さんにも感謝してるよ」

「い、いえ、そんな……感謝される程の事ではありませんわ」


 ドアの影越しに聞こえる、響華さんの浮かれ気味な声。オレはその声に、平静を装いながら言葉を(つづ)った。


「でも、見てたなら分かるだろ? もう少しだけ、一人にしてくれないかな……?」


 なるべく感情を押し殺して発した、平坦な声……

 正直、もう作り笑いを浮かべているのが辛い。このままだと、二人に八つ当たりしてしまいそうで怖い――


 (さと)い真琴ちゃんの事だ。多分オレの言葉の意味にも気が付いていると思う。悲しそうに眉をしかめる真琴ちゃん。


 ホント最低だな、オレ……


「ごめんね、お兄ちゃん……でも、お兄ちゃんの携帯が、さっきからずっと鳴ってるから……」


 申し訳なさそうに、真琴ちゃんは後ろ手に持っていた携帯を差し出した。


 携帯……?

 ああ、携帯はマナーモードにしたまま、ジャケットに入れっぱなしだったっけ。


 オレは真琴ちゃんから使い古された二つ折りのガラケーを受け取ると、それを開いて小さな画面を確認した。


 ――――着信42件。


 この短時間で42件の着信って、誰だいったい?


 オレが着信履歴画面を開くと、そこには漢字二文字で書かれた名前がズラリと並んでいた。


 は、撥麗さん……?


 そう、そこに並んでいた名前は、中華メイドの撥麗さん。


 って、撥麗さんがオレなんかに何の用だ? しかも、この着信量――よほどの急用なのか?

 オレが首を(かし)げていると、手にしていた携帯が震え、43件目の着信を告げた。


「もしも――」

『遅いっ! 何してやがったっ! でございますっ!!』


 携帯を耳にした瞬間、撥麗さんの怒声が耳を(つんざ)いた。


 その甲高い声に『キーーン』と耳鳴りを起こしたオレの耳……

 オレは眉をしかめながら携帯を持ち替え、反対の耳に充てた。


「す、すみません……ちょっとヤボ用で――」

『ヤボもイボも宜保◯子ねぇーっ! でございますっ!!』


 ずいぶん懐かし名前が出てきたな。てか、最近まったく名前を聞かないけど生きてるのか、あの人――


 そんな、どうでもいい事を考えながら、苦笑いを浮かべていたオレ。


 しかし、撥麗さんが次に発した言葉を聞いた瞬間、オレは勢い良く立ち上がり走り出していた。


「ちょっ! お兄ちゃん、ドコに――」

「先生っ! その格好は――」


 二人間をすり抜けたオレの背に掛かる言葉――だが今は、そんな事に構っているヒマはない。


 全速力で、そして無心で走るオレ。撥麗さんに告げられた場所へ向かって――


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