表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『オレの生徒はお嬢様!?』  作者: 宇都宮かずし
第二部 オレの生徒は男性恐怖症!?
88/137

第二十一局 真相 二本場『痛み……』

「し、しかし、お笑いだな、おい……」

「あ?」


 怒りを隠さないオレの視線を受け、足を竦ませる男達。

 それでも虚勢を張る様に、ナンパ男Cは引きつった笑みを浮かべなら口を開いた。


自分(テメェ)を男嫌いにしたヤツのアネキと、仲良くお出かけとはよ」

「ああっ? アンタ、何言ってんだ?」


 ナンパ男Cの言葉に、眉をしかめるオレ。


 確かにオレも姉さんも無関係とは言わない。

 それでも北原さんの男性恐怖症の原因は、お前らだろ?


 男の責任転嫁とも取れる言葉に、オレは更に苛立ちを覚えた。


 が、しかし……


「なんだ、知らねえのか? ソイツの男嫌いの原因はテメーの弟、友也が原因なんだよ」

「そうだ。その女はなぁ、あのあと気絶から目ぇ覚まして、自分(テメェ)の顔に浴びた友也の血ぃ見て発狂してな――」

「その(あと)しばらくは、赤いモノ見ただけで発狂するからってよ、一年近くも入院してたんだぜ」


 男達が口々にする言葉で、オレの頭の中は真っ白になった。


 オレ……? オレのせいなのか……?

 オレが北原さんの……男性恐怖症の原因……?


 あまりに驚愕の真相に呆然と立ちすくむオレ。

 しかし、そんなオレを強引に現実へと引き戻す、掠れた呟きが背後から耳に届く。


「え? 弟って……なに? わ、わたしを助けてくれたのは先生じゃ……」


 今までオレの背中に張り付いていた(ぬく)もりが、スーッと引いて行く。


「だ、だって、先生……右手のキズ……それが弟って……あれ、な、なんで……?」


 途切れ途切れの言葉……困惑(こんわく)の呟き……


 耳をすまさなければ聞こえない様な震えた声を背後聞きながら、オレは振り返る事も出来ずにいた。


「まっ、赤い色見て発狂すんのは治ったみてぇだけど、そのまま男嫌いになったんだよな? えっ、お嬢さんよ?」

「テメーや友也が余計な事しねぇで、大人しくオレら輪姦(まわ)されてりゃ良かったんだよ」


 そんなオレ達を嘲笑(あざわら)うように、男達は下卑(げび)た声で下衆い言葉をオレ達にぶつけて来る。


「………黙れよ」


 爪が食い込むほどに強く拳を握り締め、言葉を絞り出す。


 が……


「そうそう、テメーの弟の汚え血じゃなくて、オレの()した白いの顔面に浴びてりゃ今頃は、男嫌いどころか、男好きの淫乱女になったのにな」

「いやいや、そりゃねぇって。だってお前、下手くそだし」

「うるせーっ! 早漏のテメーに言われたくねぇってのっ!」

「ギャハハハハーーッ!!」


 オレの言葉は男達には届かなかった。


 無神経で下品な会話を続ける男達……

 オレは大きく息を吸い込んで、左足を力一杯踏み込んだ。


「黙れってんだよっ!!」

「ぐぶッ!?」


 正面にいた男の顔面にメリ込む拳。


 空手の基礎もクソもない、まるでチンピラのケンカみたいなパンチ。

 防御どころか、後先も何も考えていない攻撃……


「テメッ! いきなり何しやがるっ!」

「くっ!?」


 スキだらけだったオレの頬に、隣にいた男の拳が飛ぶ。


 口の中に広がる鉄の味……

 それでもオレは一歩も引く事無く、その男のドテッ腹に蹴りを叩き込んだ。


「ぐぼぉ……」


 腹を抑え、膝から崩れ落ちる男。

 オレは、口の中に溜まっていた赤い唾を吐き捨てると、残りの男達を睨み付けた。


「テ、テメェ……友也への前歯の借り、テメーに返したって、いいんだぞコラッ!」

「上等だよ……今度はキッチリ、総入れ歯にしてやるよ」


 額に汗を浮かべながらも虚勢を張る男達と、ソイツらを怒りを(あらわ)にして見据えるオレ。


「おまわりさーん! 急いでっ、早く早くっ!!」

「コッチですわっ! 早くケンカを止めて下さいまし!」


 そんなオレ達の(あいだ)に、遠くから若い女性の声が届く。


「チッ……命拾いしたな、南」

「お前らがな……」


 女性の声に、倒れている仲間を起こして立ち去る男達。


「この借りは、キッチリ返してやるからな。おぼえてろよっ!」


 キッチリとお約束のセリフを残す、予定調和っぷりを見せる男達の背中を見送ってから、オレは意を決して後ろへと振り返った。


 視点の定まっていない様な虚ろな瞳で呆然と立つ、藍色の着物を着た少女――


 こんな時、何と言葉を掛ければいいのだろうか?

 ――いや、そもそもオレに、言葉を掛ける資格があるのだろうか……?


 二人の間に、夕暮れ時の冷たい風が吹き抜ける。


「北原さん……」


 掛ける言葉が見つからないオレは、時が止まった様に立ちすくむ少女の小さな肩へと、ゆっくり手を伸ばし――


「い、いやっ!」

「!?」


「…………」

「…………」


 ゆっくりと伸ばしていたオレの手は、少女の肩に届く事はなかった。


 自分へと迫る手を払いのけ、まるで怯える様に身を縮める北原さん……

 そして、一瞬だけオレの顔へ目を向けると、逃げる様に踵を返して走り出す。


 徐々に小さくなっていく北原さんの背中を呆然と見つめるオレ。

 その北原さんの姿が、オレの中で試合の後に突然走り出した時の姿と重なった。


 ただ、あの時と決定的な違いは、今のオレには彼女を追いかける資格がないとか言う事だ。


 小柄な背中が完全にオレの視界から消えると、オレはベンチへと崩れ落ちる様に腰を下ろした。


「いてぇ……」


 天を(あお)ぎながら、北原さんに払われた手を押さえる。


 そう、ソコに残った痛みは、頬の痛みよりも――いや、過去に全国大会で戦った空手の強豪によるどの打撃よりも、ずっと強い痛みを(ともな)っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
一日一ポチお願いしますm(_ _)m
小説家になろう 勝手にランキング
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ