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『オレの生徒はお嬢様!?』  作者: 宇都宮かずし
第一部 オレの生徒は生徒会長!?
8/137

第三局 初登校、初トラブル 02

 …………

 …………

 …………


 ふぅ~、間一髪……


 男の拳がお嬢様の綺麗な顔へメリ込む直前に、その拳を手のひらでキャッチに成功するオレ。


 てか、このバカ。女の子の顔面にグーパンチかよ……

 しかもこの威力。当たっていたら顔に青タンが出来る程度じゃ済まなかったぞ。


 会長さんは、まさか自分が殴られなんて思っていなかったのだろう。目の前に迫った拳と、それを止めたオレの手の甲を、まるで放心状態のような顔で見つめていた。


 ちなみに最初に絡まれていた娘にいたっては、その場にへたり込んでいるし……


 当然か……

 ここは、全寮制のお嬢様女子校。こんな暴力的な場面に出くわす事なんて、まず無かったろうし――


「何だテメェは?」

「教師です。今日からですけど」


 突然現れ、自分の拳を止めたオレを訝しげな目を向ける男に、ニッコリ微笑むオレ。


「先公にゃ関係ねぇやろ、引っ込んでろやっ!」

「まあまあ、そう言わずに。話しは聞かせて貰いました。そのズボンのシミ、私が綺麗サッパリ跡形もなく消しますから、今日はそれで勘弁して下さい」


 オレの言葉に、男は再び両手をポケットに突っ込むと、偉そうにふんぞり返る。


「はっ! 面白れぇ、やって貰おうやないか。その代わり、少しでも跡が残ったら、あんたに弁償して貰うからな」


 く、くぅ~っ。ブ、ブン殴りてぇ……

 と、内心思いながらも笑顔で対応。オレも大人になったもんだ。


「えぇ、構いませんよ。こう見えてもわたし、シミみ抜きは得意なんです」


 そう言って、ユリさんに持たされたソーイングセットから、小さなハサミを取り出した。


 そして、ふんぞり返る男の前にしゃがみ込んで、シミのある右足の膝の辺りをチョキっと。


「お、おい、ちょと待てコラ」


 何か言っているみたいだが無視して、ついでに左の方もチョキっと。


 そして、両膝に開いた穴に指を突っ込んで――


「そ~れっと!」

「あぁ~~~っ!?」


 ビリビリビリ~ッ! と、布を引き裂く音と共に、膝の特製半ズボンの完全。


「な、ななな何すんじゃワリャーッ!」

「何って……シミ抜き? いえシミ切り取り――じゃなくてシミ切り離しかしら」


 顔を真っ赤にして喚く男に、あくまで笑顔を崩さず答えるオレ。


「お似合いですよ、半ズボン。まるで小学生みたいで」


 周りからクスクス聞こえる笑い声。赤い顔が更に赤くなったのは、恥ずかしさからか、それとも怒りからか……? いや、両方か。


「なめとんのか! このアマッ!」


 怒りにまかせ殴りかかってくる男。


 ふっ、そんな大振りパンチに、誰が当たるかバカ。


「アァ~と、(つまず)いちゃったぁ~~(棒読み)」


 よろける様にパンチをかわし、男の懐に飛び込んだ。そして、しがみつくように相手の首に腕を回し、下顎を親指で持ち上げる。後頭部を腕で、顎を指で押さえているので、口を開く事は出来ないはずだ。


 更に左手で股間を鷲掴みにすると、自分の身体で死角を作り、生徒達に見えない位置取りをする。


「潰すぞ……」

 男の耳元に口を寄せ、そっと呟きながら左手に少し力を込めた。

「う~、う~」


 全身をプルプル震わせながら直立の姿勢で首を横に振るトサカくん。

 しかし、そんな事は無視をして、トサカくんだけに聞こえるよう小声で話しを続けるオレ。


「ちょうど二丁目のママさんに、仕事出来る人がいたら紹介してって言われていたんだよ。こんな所でタカリかけているより、よっぽど稼げるぞ」

「う~、う~、う~」


 必死に何かを訴えようと頑張ってはいるが、開かない口では言葉にならない。まぁ、何が言いたいかは分かっているけど。


「ゲイバー勤めはイヤか?」


 涙目で動かない首を必死に縦に振ろうとする。


「なら消えろ」


 更に頑張って必死に首を振ろうとするトサカくん。まっ、これで少しは懲りただろう。


 オレは男の拘束を解いて二歩ほど後ろに下がった。そして、姉さん直伝の黒い微笑みを浮かべる。


「転びそうな所を支えて頂いて、ありがとうございます」

「い、いえ! 当然の事をしたまでであります!」


 おいおい、関西弁はどうした、エセ関西人。


「自分は、急用を思い出したので、これで失礼させて頂きます!」


 直立不動から、営業マンばりの直角おじぎをすると、トサカくんはダッシュで坂を下り始めてた。


 たくっ、人騒がせな奴だ。

 しっかし……身代わり中は、なるべく目立たないようにするつもりだったのに、いきなり目立ってしまった。


 さてと……


 本当は、このまま立ち去りたい所だけど――まぁ一応は教師だし、そうゆう訳には行かないよな。


 とりあえず、へたり込んでいる最初に絡まれていた女の子――涙目の瞳をパチクリさせて呆然している一年生の顔を、中腰になって覗き込んだ。


 改めて見ると小柄で、可愛い娘だな――たくっ、あのバカ! なにもこんな大人しそうな娘に、タカリをかける事もないだろに。


「大丈夫? 怪我はないかしら?」


 オレが声をかけると、瞳に溜まっていた涙が一気に溢れだした。


「ほら、泣かない泣かない」


 ポケットから綺麗にアイロンをかけて畳んであった、女物(姉さん)のハンカチで涙を拭った。


「ぐすっ……あ、ありがとうございます……」

「立てるかしら?」

「……はい」


 まだ力が入らないと感じでフラフラしている女生徒を、支えるようにして立ち上がらせる。


 そう言えばもう一人、呆然としている娘がいたな。

 やっている事は立派だったけど、あれはやり方に問題ありだ。ここは先生らしく注意の一つもしておくべきか……


 まだフラついている一年生を支えながら振り返るオレ。


「それから、会長さん」

「な、なんでしょうか?」


 こちらも、まだ立ち直り切れてないようだ。強がっているのが、ありありと伝わって来る。


「あなたのやった事は立派ですが、やり方に問題ありです」

「なっ!?」


 驚きの表情を見せる会長さん。しかし周りに集まっている生徒達の方が驚いているのは何故だろう?


 でもここで止めるのも変だよな。よし、ここは教師としての威厳を持って!


「学院内での常識も、一歩外に出たらその常識が通用しないような人が居ます。確かにあなたの言った事は正論だけど、その正論が通用しない人もたくさん居ます――いいですか? ああゆう人は、悪い事していると分かっていて敢えてやっているんです。そんな人に、悪い事はやめなさいと言ってやめる訳がないでしょう?」


 う~ん……言っている事は間違ってないよな? 自分で言っておいて何だが、先生の説教ぽくないぞコレ。

 やっぱりオレって、教師には向いてないみたいだよ姉さん。


 って、あれ?


 気が付くと野次馬さん達が殆ど居なくなっていた。残っている生徒達も、気付かれないように、そっと戦線を離脱しようとしてる。


「せ、先生……」


 左下方から弱々しい声。そう言えば、さっきの一年生をずっと支えたままだった――って、なんか震えてない?


「ハ、ハンカチありがとうございました……こ、これ洗っ返しますから…………失礼します!」


 そう言うと、ダッシュで校舎の方に走りだした。

 何なんだいったい?


 いつの間にか、この場にいるのは取り巻き眼鏡っ娘の二人を含め、四人だけになってしまった。


 っと、ここで取り巻きAさんとBさんが、そろって口を開く。


「先生――さっきの言葉、誰に向かって言ったのか分かっているのですか?」

「そうです、そうです! この方がどなたか、ご存知ないのですか?」


 いや誰って……生徒会長さん?


「一恵さんも二葉さんも、おやめなさい」


 一恵さんと二葉さん……? 取り巻きAとBじゃなくて、取り巻きその一と、その二だったか。


 二人を制止した会長さんは、睨むような瞳で真っ直ぐにこちらへと目を向けた。


「先生……先生はわたくしが世間知らずだと――そうおっしゃりたいのですか?」

「まぁ、ハッキリ言えば……って、い、いや、じゃなくて――」


 ヤバっ、思わず本音が出ていまった。


「そうですか、分かりました。一応、お礼は言っておきます。ありがとうございました」

「い、いや、だから、そうゆう訳ではないって――」


 ゆっくり踵を返して歩き出す会長さん。どうやら、言い訳は聞いて貰えないらしい……


「それでは先生、ごきげんよう。一恵さん、二葉さん、参りますわよ」


 後ろ向きでそう言い残し立ち去る会長さんと、まだ何か言いた気にこちらを睨みながら立ち去る取り巻きさん。

 そして一人ポツンと取り残されるオレ……


 な、何なんだいったい? ヤッパリお嬢様の思考は理解できん。

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