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『オレの生徒はお嬢様!?』  作者: 宇都宮かずし
第二部 オレの生徒は男性恐怖症!?
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第十九局 ランチ 四本場『目は口ほどにモノを言う』

「り、理事長先生ぃ!?」


 突然のラスボス登場に、慌てて立ち上がろうとする北原さん。


 しかし、美琴さんはニッコリ笑って軽く手を上げ、着席を促した。


「いいのよ北原さん、楽にしていて」

「は、はい。お心遣い、ありがとうございます」


「いえいえ。でも、こうして会うのも久しぶりね」

「はい、ご無沙汰しており、申し訳ありません」


 フレンドリーに挨拶を交わす真琴さんと、ちょっと緊張気味の北原さん。


「そうだ! 今度、本家の方にもご挨拶に行くと、雄山(ゆうざん)先生にも伝えといてもられるかしら?」

「はい、理事長先生がお顔を見せてくださるなら、祖父も喜ぶと思います」


 てゆうか――


「あの~、二人は知り合いなんですか?」


 そう、まるで旧交を温めるような会話に、そんな疑問が湧いた。


「ええ。だってわたしも、北原流で剣術を学んでいましたからね」

「はい、それに理事長先生は、お祖父様(じいさま)直弟子(じきでし)なんですよ」


 じ、直弟子っ!? あの滅多に弟子を取らない、日本武道界の首領(ドン)、北原十三段の直弟子だとっ!?


 い、いやまあ、美琴さんなら、あり得るかも……?


 普段は凄く優しくて、とても高校生の娘がいるようには見えないほど、若々しくて綺麗な美琴さん。


 しかし、ひとたび怒らせると………


 ……

 …………

 ………………っ!!


 子供の頃のトラウマがフラッシュバックを起こしそうになり、慌てて首を振るオレ。


 わ、忘れよう……

 あの(にが)い記憶は心の奥底へ封印するのだ。それがお互いのためだっ!


「ところで――面白い組み合わせね」


 美琴さんは、席に座るオレ達を見比べる様にして意味深な笑顔を浮かべた。

 その視線を受け、北原さんはキョトンとした顔をし、オレは背中に冷や汗を流す。


 もしかして、教師と生徒がプライベートで会ったりするのは、良くないのだろうか?


「南先生――」

「サー! イエッサーッ!」


 美琴さんに名前を呼ばれたオレは、反射的に立ち上がり直立で敬礼を送った。


 そんなオレに、ずいっと顔を近づける美琴さん。


 鼻孔をくすぐる爽やかな柑橘系の香りに、何故か危険な香りを感じ取り、固まったまま視線を逸らすオレ。


「南先生ぇ? まさかとは思いますが――法や条例に触れるような事はしていないでしょうね?」

「サーッ! 滅相もありませんですっ! サーッ!」

「そう……ならいいのだけど――」


 美琴さんは一度顔を伏せると、口角を吊り上げ不敵な笑みを浮かべる。

 そして右手を顔の前にかざし、その細く綺麗な指を一本ずつ、ゆっくりと折曲げて行った。


「もしも、法や条例に触れた時は――――分かっているわよね?」


 その白魚のような指と真紅のマニキュアに過去のトラウマを掘り起こされて、オレは身を震わせ顔面にダラダラと冷や汗を垂れ流す。


「サ、サァ……イエス、サァ……」

「声が小さいっ!!」

「サーッ! イエッサーッ!!」


 店中に響き渡る程の大声で返事を返すオレ。

 しかし、この異様な雰囲気に、店員すら近寄って来ない。


「よろしい」


 オレの答えるに満足した美琴さんは、再び優しい笑顔でニッコリと微笑んだ。


「法や条例ですか?」


 会話に付いてこれずに、北原さんはちょこんと首を傾げた。


「何でもありませんよ、コチラの話ですから。それに南先生は品行方正な人だと、信じていますし。一応、確認しただけです」

「サーッ! 信じて頂けて、光栄であります! サーッ!」

「んん??」


 ますます分からないとばかりに、首を大きく傾げる北原さん。


「さて、いつまでもここに居たのでは、二人のお邪魔でしょうから、わたしはそろそろお(いとま)しましょうか」


 そう言って、オレ達の席にあった伝票を手にする美琴さん。


「ちょ、美琴さんっ!? それは――」

「フフ……」


 オレのセリフを、美琴さんは優しい笑みで遮った。


「南先生――わたしとあなたは立場上、上司と部下。上司が食事をしている部下を見かけたら、奢るのが上司の務め。そして奢られるのが部下の義務。社会人の基本ですよ」


 社会人一年生であるオレを優しく諭すように、笑顔でそう告げる美琴さん。そして、反論は許さないとばかりに踵を返して歩き出した。


 さすが美琴さん。勉強になりますっ!


 しかし――


 美琴さんが向かった先は、出口とは逆方向。それにそっちは、美琴さんが現れた方でもなければトイレもない……


 はっ!? コレはもしや、認知症の始まりではっ!?


 確かに見た目はああでも、美琴さんは高校生の娘を持つ母親。

 しかも実年齢はたしか――


 美琴さんは不意に立ち止まると、近くのテーブル席にあったフォークを手に取った。


 そして次の瞬間――!?


「――――っ!?」


 美琴さんが手にしたフォークはオレの頬を掠め、背後の壁に深々と突き刺さる――


「南先生――『目は口ほどにモノを言う』という言葉を覚えておきなさい…………そして、次はありませんよ」


 天使の笑顔を浮かべながら、最後通告を突き付ける美琴さん。

 オレは無言のまま、その笑顔に物凄い勢いで首を何度も縦に振った。


「よろしい」


 再び踵を返す美琴さんの背中を見て、崩れ落ちる様にシートへとヘタリ込むオレ。


 てゆうか…………


 あなたは背中にも目があるのですか?

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