第十九局 ランチ 二本場『ラスボス降臨』
運ばれて来た料理に舌鼓を打つオレ達。
そう、不吉な事は考えないっ! そんなもの知らないっ!!
はぁ? 社会的抹殺ぅ? 何それ、美味しいの?
………………で、でもまあ、帰ったらとりあえず、携帯のロックは強化しておこう。
そして、今は目の前の料理に集中しよう。それが料理人に対する礼儀だ。
ちなみにオレが食べているのは、ダブルハンバーグのワサビソースに、ランチセットの大盛りライス。
うむっ、大盛り無料というのは、いい事だ!
そして北原さんの方は、レギラーサイズハンバーグのオリジナルソースに、女の子らしくランチセットの半ライス。
この辺はやはりお嬢様らしい。姉さんだったら、大盛りライスにした上に、きっとお代わりもするだろう。
うむっ、ライスお代わり自由というのは、とてもいい事だ!
「ところで先生? ハンバーグにワサビというのは、合うのですか?」
どこぞの長女と違って、上品に食事を口に運んでいた北原さんが、オレの食べるハンバーグを見ながら、ちょこんと首を傾げる。
初めて見るにハンバーグとワサビのコラボに、興味があるようだ。
「合わなくはないと思うよ――まっ、ただコレは、ワサビソースと言っても、醤油ベースのワサビ風味って感じだけどね」
「そうなんですか――すみません、洋食にはあまり詳しくないもので」
「いやいや、謝る事ないって」
まあ確かに、北原さんは見た目からして『ザ・和風っ!』って感じだしな。
てゆうか――
「そうゆう事なら、和食の方が良かっかな?」
「いえいえっ! 洋食も食べ慣れてないというだけで、嫌いではないですからっ!」
そう言って、小さく切り分けたハンバーグを口に運ぶ北原さん。
「うん、とても美味しいです」
「そっか、良かった」
北原さんの笑顔がとても微笑ましくて、オレもつられる様に頬が緩んだ。
「そだっ! 気になるなら、少し食べてみる?」
「えっ?」
オレは、目の前のハンバーグを一口大にカットして、北原さんのプレートへと乗せた。
しかし、そのハンバーグを見つめ、キョトンとした顔を浮かべる北原さん。
…………
…………
………………
………………
ってぇぇぇー! なにやってんだオレっ!
純粋培養のお嬢様相手に、こんな野郎のダチと飯食い来た時のノリ、ありえねぇだろっ!!
「ごめんごめんっ! 人の使ったフォークで切り分けたのなんて、イヤだ――」
「そんな事ありませんっ!」
オレの謝罪に、凄い勢いで言葉を被せる北原さん。
更に真剣な表情で身を乗り出して――
「こ、これ……本当に頂いても、いいんですか?」
「え、ええ……イ、イヤでなければどうぞ……」
その迫力に気圧されながら、言葉を絞り出すオレ。
「で、では――」
北原さんは強張った顔で、緊張でもしてるかの様にフォークを震わせながら、ゆっくりとハンバーグを口に運んで行く。
「んん~~~♪」
強張った表情から一転、北原さんの顔は恍惚とした表情へと変化する。
「い、いかがでしょうか……?」
「味なんて分かりません。でも、とても美味しいです」
なんじゃそりゃ? 意味わからん。
「酒だ酒ぇーっ! ネェちゃん、酒持って来いや~っ!」
オレが北原さんの感想に首を傾げた時、奥の席の方から大声で喚く声が聞こえて来た。
座ったまま、通路に身を乗り出して確認してみるが、仕切りが邪魔でよく見えない。
しばらく眺めていたけど、その喚き声でやって来たウェートレスさんと何やら揉めてるご様子……
てか、結構若そうな女の声だったけど……
迷惑な若者ってぇのは、どこにでもいるもんだなぁ。まったく、親の顔が見てみたいもんだ――
「あら? 南先生じゃないですか?」
突然、通路に身を乗り出していたオレの背後から声をかけられた。
その聞き覚えのある声に、慌てて振り返るオレ。
「み、美琴さんっ!? ど、どど、どうしてこんな所にっ!?」
「どうしてって――なんか喚ばれたような気がしたから」
誰だーっ! こんなところに理事長を召喚したのはっ!!
そう、音もなく現れオレの背後を取っていたのは、学院の理事長にして真琴ちゃんの母親、東美琴さんだった。




