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『オレの生徒はお嬢様!?』  作者: 宇都宮かずし
第二部 オレの生徒は男性恐怖症!?
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第十八局 アーケード街 四本場『お揃いの物を――』

 残り三回で、キッチリ三個のぬいぐるみ、計四個のクロネコをゲットした北原さん。


 その四つ目を取り出し口から出した時、背後からパチパチと拍手の音が聞こえて来た。


「おねぇちゃん、すご~い!」

「ジィジィがいっぱいだ~」


 振り返ると、そこに居たのは二人の女の子。


 おそらく、幼稚園から小学校の低学年くらいの姉妹であろう。お揃いのワンピースを着た、小さな女の子達。


 って、迷子じゃないだろうな……?


 オレは二人の前にしゃがんで、視線を合わせる。


「ねぇ、キミたち――お父さんかお母さんは?」

「「あそこ~」」


 オレの問いに二人は揃って振り返ると、店内を指差した。


 そして、その先にはエアホッケーで対戦中の若い男女……


 はぁ……このバカ親どもがっ!

 まっ、迷子でないのならいいけど。


 オレはしゃがんだまま、呆れ気味にため息をついた。


「二人とも、このネコさん好きなのかな?」


 続いて、オレ隣りにしゃがみ、二人に声をかける北原さん。


「しゅき~!」

「ジィジィ可愛いぃ!」


 ちょっと舌足らずな喋りで、元気に答える姉妹。


 てゆうか、ジィジィじゃなくて、ジ――いや、いいか。むしろ舌足らずの方が、大人の都合的にちょうどよいか。


「そっか。じゃあぁ――はい」


 北原さんは、腕の中にあった四つのぬいぐるみのウチ、二つを♪達に差し出した。


「いいのぉ!?」

「いいですよね、先生?」


 ちょっと首を傾げながら、コチラに目を向ける北原さん。


「ええ。北原さんが取ったんだから、北原さんの自由にしていいわよ」

「だって。はい」


 北原さんは優しい笑みで、二人にぬいぐるみを手渡した。


「わ~い♪ やったぁ」

「リィ、ちゃんと、お礼を言わないとダメなんだよ」

「は~い」


 無邪気にはしゃぐリィちゃんと呼ばれた子。お姉さんにたしなめられて、テトテトとその隣に並んだ。


 そして――


「「おねぇちゃん、ありがとお、ございましぃた」」


 声を揃え、ペコリと頭を下げる幼い姉妹。


 てか、あの親からどうやったら、こんな礼儀正しい子供が出来るんだ?


 エアホッケーに夢中のバカ親を横目に見て、オレは苦笑いを浮かべた。


「はい、よく出来ました。大事にしてくださいね」

「「は~い♪」」


 姉妹は満面の笑みで返事を返すと、バカ親の方へと走って行った。


 そしてコチラを指差しながら、嬉しそうに母親へ報告する二人。

 しかし、両親の方は一度こちらに目をやると、軽く頭を下げ、すぐにプレイを再開した。


 少女達よ――これからも親に似ずに、まっすぐ健やかに育ってくれ。


 そんな事を祈りながら、ぬいぐるみを掲げて嬉しそうに笑う幼い姉妹を苦笑いで眺めるオレ。

 そして、そのオレの隣では優しい微笑みを浮かべ、同じ方へと視線を送る北原さん――


 今の彼女には、あの二人がどのように見えているのだろうか……?


 あの煩わしいメガネ越しでは、二人の太陽みたいな(まぶ)しく(ほが)らかな笑顔は見えていないだろう。

 ホントに……なんでこの子が、こんな目に合わなければいけないのだろう?


 こんなにも優しくて、いい子が何で……


「先生? やはり、お加減(かげん)が悪いのですか?」


 不安そうな顔で、下から覗き込むようにオレの顔を見上げる北原さん。


 って! 彼女にこんな顔をさせたら、本末転倒だろっ!


「だ、大丈夫よ。今朝食べたカップ焼きそばが、少し胃にもたれてるだけだから」


 オレは慌てて笑顔を作り、明るく答える。


「はあ、なら良いのですが……」


 とにかく、気持ちを入り変えろオレッ!


「と、ところで――さっき、そのクロネコを食い入るように見てたけど、何か思い入れがあるのかな?」


 オレは誤魔化すように、話題をあからさまに変えた。


「えっ? あ、あぁぁ……お、お恥ずかしいところをお見せしました……」


 頬を染めて、照れるようにうつむく北原さん。


「実は……実家の方で飼っているネコにそっくりだったものでつい……申し訳ありません」

「いやいや、謝る事ないでしょ。てゆうか、ネコとかぬいぐるみが好きなんて、女の子らしいくていいじゃない」


「先生もぬいぐるみとか、お好きですか?」

「わたしは……どうだろう? 嫌いではないと思う……よ」


 北原さんの問いに首を傾げるオレ。とりあえず、オレの部屋にも姉さんの部屋にも、ぬいぐるみなどといった、ファンシーグッズは存在しない。

 まあ、フィギアなら有るけど。


「じゃ、じゃあ、あの……コレ、貰ってもらえませんか?」


 そう言って、胸に抱いていた二つのクロネコの内、一つをオレの方へ差し出した。


「えっ? いや、わたしには、そうゆう可愛いの似合わないでしょ? だってガサツだし、女らしくないし」

「いえっ! 先生は凄く綺麗だし、とても女性らしいですっ!」


 俺の言葉を即座に、そして力強く否定する北原さん――

 てゆうか、褒められているのだろうけど、まったく嬉しくない。


 むしろオレのピュアなハートが折れてしまいそうだ。


「それに出来れば……先生とお揃いの物を持っていたいです……ダメでしょうか?」


 視線を外し、恥ずかしそうにモジモジと(うつむ)く大和撫子。


 そ、そんな風に言われたら、断れる人間はいないって……


「そ、そうゆう事なら、いただこうかしら……」

「はい!」


 パッと明るい笑顔を咲かせ、クロネコのぬいぐるみを差し出す北原さん。


 そんな笑顔を向けられるのが照れくさくて、オレは視線を逸しながらぬいぐるみを受け取った。

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