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『オレの生徒はお嬢様!?』  作者: 宇都宮かずし
第二部 オレの生徒は男性恐怖症!?
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第十八局 アーケード街 二本場『クロネコ』

「先生――まずは、どちらに行かれるのですか?」

「ん、もうすぐ着くよ」


 屈託のない瞳でオレを見上げる北原さんに、精一杯の作り笑顔で答える。


 ただそれでも、その瞳に映るオレの姿はハッキリと見えていないのだと思うと、胸の辺りがチクリと痛んだ。


 って、イカンイカンッ!

 今だけでも、北原さんには楽しんでもらわないと。


 とはいえ、まだお昼には少し早い。時間を潰すだけなら、ブックオン辺りでマンガを立ち読みしているのがコスパ的には最高だけど、さすがに生徒を連れてそれをやるのは厳しい。

 

 なら、ココしかないでしょう。


「さっ、着いたわよ」


 オレは、たくさんのポスターが貼られた派手な入り口に、やはり派手な電装の看板が立つ店の前で立ち止まった。


「せ、先生ぇっ! こ、ここって、まさか……パチンコ屋さんっ!?」


 素っ頓狂な声を上げる北原さんに、思わずズッコケるオレ。


 こ、この天然さんめ……


 いや、まあ確かに中には、パチンコ台とかスロット台もあるけどさぁ――


「いやいや、ゲーセン! ゲームセンターだから」


 オレのツッコミ気味のセリフに、今度は目を輝かせる北原さん。


「ゲームセンター! 有子さん達から聞いた事があります。なんでも、ゼビュースとかハックマンというゲームが置いてあるのですよねっ!?」


 お、惜しい……


 正確には『置いてある』のではなく、『置いてあった』が正しい表現だ。まっ、置いてあったのは二十世紀末だけど。


 てか、有子さんっていくつだよっ! 見た目はオレの少し上くらいだと思っていたけど、実はアラフォーなのか?


「と、とりあえず入ってみましょ」

「はいっ」


 まあ、ここでうだうだと説明してもしょうがない。百聞は一見にしかずだ。


 ポスターのベタベタ貼られた自動ドアをくぐると、まず迎えられたのは明るい照明に大音量の音楽。そしてお馴染みのクレーンゲーム――


 てか、ジ○リの復刻版ぬいぐるみが多くねぇ? そう言えば最近、金九の映画もジブ○が多いし気がするし。


 もしかして、新海氏の『君○名は。』に興行収入を抜かれて、焦っているのか? 引退した宮崎御大も、長編で監督復帰するなんて噂もあるし。


 そんな事を思いながら辺り見回していると、北原さんが、とあるクレーンゲームの前に張り付いていた。


 後ろからそのガラス張りの中を覗き込むと、そこにいたのはクロネコのぬいぐるみ。

 そう、ほうきで宅急便をする魔法少女の相棒だ。


「せ、先生……あのぬいぐるみは、おいくらで購入出来るのでしょうか……?」


 クロネコへ目を釘付けにしながら、北原さんが肩越しに問いかける。


「いや、コレは売り物じゃなくて、ゲームの景品だから」

「ゲーム……ですか?」

「そっ。まずこのボタンで――」


 オレは、クレーンゲームのやり方を、簡単に説明していく。

 てか、そんな難しいゲームでもないし。


「なるほど――分かりました」


 真剣な面持ちで頷く北原さんを見て、オレはコイン投入口へ五百円玉を投入した。


「はい、コレで六回チャレンジできるから」

「そ、そんなっ!? 先生にお金を出して頂くなんて――」

「いいからいいから。ほら、早く始めないと、機械が勝手に動き出しちゃうよ」

「えっ?」


 慌ててクレーンゲームへと振り返る北原さん。


 まっ、よほど長時間放置しなければ勝手に動き出すなんてしないけど、初心者の北原さんが、そんな事知るはずもなく――


「ほらほら、頑張って」

「は、はい……」


 北原さんは、教わったとおりにボタンを操作して、クレーンを動かしていく。


 しかし……


「あれ……?」


 狙ったポイントから僅かにズレて降りて行くクレーン。当然、景品を掴める訳もなく、クレーンは何も持たずに戻って来る。


 それを見た北原さんは、不思議顔でコチラへ振り返った。


「まあ、店側も商売だから、そう簡単には取られせくれないよ。とりあえず、ボタンを離してからクレーンが止まるまで少し時間があるから、次はそれを計算に入れてね」

「なるほど……」

「それと、クレーンが降りる時も、少しアームが回るから」

「分かりました」


 真剣な表情を浮かべで頷く北原さん。そして再びクレーンゲームへ向き直ると、背筋を伸ばしてジッとアームを見つめながら、操作を始める――けど。


 オイオイ……随分と的外れな場所で止めるなぁ……


 再び何も持たずに戻って来るクレーン。


 コレはもう少しアドバイスが必要か? このタイプは、むかし結構やり込んだし、コツが掴めればあまり難しくはない。


 そう思い、北原さんの隣へ踏み出そうとすると――


「なるほど……ボタンを離してからクレーンが止まるまでのタイムラグは、0.15秒から0.2秒。そしてアームは左に4度回転……なら、止めるタイミングは……あそこですか」


 北原さんは、小声でそんな事を呟いていた。


 オイオイ、ホントかよ……って、なっ!?


 北原さんの呟きに苦笑いを浮かべた瞬間だった。不意にオレの背筋が凍りつく。


 突然襲われた身が凍るほどの寒気。

 そして、その寒気の原因は、目の前に立つ和装美少女……


 小柄な少女は、試合での立合いさながら――いや、死合(しあい)での斬り合いさながらに冷たい殺気を滲ませながら、クレーンゲームを前に大きく深呼吸をしているのだ。


 い、いや、ちょっ……

 な、何もクレーンゲームで、寒気がするほどの殺気を出さんでも……


 顔を引きつらせ、心の中でツッコミを入れるオレの前で、北原さんはゆっくりとクレーンの操作を始める。


 おっ!? これは……


 北原さんがクレーンを止めた場所は、もしオレがプレイしていれば止めていたであろう場所と一致した。


 これなら――


 軽快な音楽と共にゆっくりと降りて行くクレーン。そして開いたアームがキッチリとネコの首元にあるくびれを挟み込む。


 そして、魔法少女の相棒をガッチリと掴んだアームは、所定の場所に戻り、左右に開いて行く――


「先生っ! 取れましたっ!!」


 とても、さっきまでの殺気ただ漏れ少女と同一人物とは思えない、無邪気な笑顔で振り返る北原さん。


「そ、そう。お、おめでとう……」

「はいっ!」


 景品のクロネコを胸に抱いて浮かれている北原さんに、苦笑いで言葉を詰まらせるオレ……


「ところで先生――あと三回ありますけど、残りは払い戻しとか出来るのでしょうか?」

「いや、払い戻しはできないかな」

「そうですか……では、どうしましょう?」


 てか、払い戻しって……

 北原さんって、お嬢様のくせに変なところで庶民的なんだよなぁ。


 小さなぬいぐるみを胸に抱き、ちょっと困り顔を浮かべる北原さん。

 オレはそんな北原さんに、笑顔で親指を立てる。


「悩む事ないでしょ。あと三回あるなら、あと三つ取っちゃいなさい」

「はいっ!」


 北原さんは元気に返事をして、再びクレーンしたへと踵を返した。


 ちなみに余談だが、クレーンゲームの小さなぬいぐるみは、小売りで約2~300円だそうだ。


 さて、顔も名前も知らない店長さん――五百円で景品四つ。悪いですが元は取らせて頂きます。

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