表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『オレの生徒はお嬢様!?』  作者: 宇都宮かずし
第二部 オレの生徒は男性恐怖症!?
71/137

第十八局 アーケード街 一本場『最低……』

「よっと」


 駅前から乗り込んだバスが目的地に到着。バスを降りたオレは、軽く身体を伸ばした。

 たいした距離は乗っていないけど、狭いシートで隣に女の子がいるとなると、やはり緊張して肩が凝る。


「お世話になりました」


 オレに続き、丁寧に運転手にお礼を言ってバスを降りる北原さん。


 見たところ変わった様子はないな。


 響華さんの前列もあるので、バス酔いを少し心配したけど特に問題はないようだ。

 まっ、バス酔いするほど、長い時間乗っていたわけでもないけど。


 オレ達がバスを降りたのは、アーケード街の入り口。さすがGWの初日だけあり、結構な人出だ。


「あ、あの~、先生……申し訳ありませんが、少し待ってもらってもかまいませんか?」

「え、ええ。いいわよ」


 申し訳なさそうに尋ねる北原さんに、笑顔で答えるオレ。

 すると北原さんは、手にしていた巾着袋からメガネケースを取り出した。


 そう言えば、たまにメガネをかけている時があるけど……その基準がわからん。


 パソコンやスマホ用のブルーライトカットってワケはないだろうし、本や文字を読む時にかけているワケでもない。


 イメージ的には、通学なんかの外出時にかけているイメージだ。


「え~と、北原さんって、目が悪いの?」

「いいえ、どちらも裸眼で2.0です。むしろ見え過ぎるくらいですね」

「じゃあ、それは伊達メガネ?」


 だけど、オシャレでメガネをかけるタイプには見えない。すると変装用か? 北原十三段の孫ともなれば、業界では有名人だろうし。


 しかし、北原さんはオレの考えを否定するように首を横に振った。


「いえ、ちゃんと度は入っています。掛けてみますか?」


 差し出されたメガネを受け取り、レンズを通して周りを見てみる。


 ん~、確かに度は入ってる。入ってはるけど、コレって……


「それ、モノがボヤけて見えるメガネなんです」


 モノがボヤけて? なんでそんなモノを……


「先生もきっと、わたしの病気の事はご存知なんですよね?」


 ちょっと悲しそうな笑顔で、話す北原さん。

 オレはその問いに無言で頷いた。


「そのメガネは、近くにいる人の性別を分かりにくくするように掛けているんです」

「えっ……」


 無理に明るく、そして何事もないように話す北原さん。

 その健気な姿にオレは、胸が締め付けられるようだった……


「で、でもそれじゃ……知り合いに会っても分からないんじゃ……?」

「それは大丈夫です。わたしはコレでも武道家の端くれ。歩く姿勢で分かりますし、一度見た人の動きは忘れません。特に先生の姿勢は綺麗ですし、武術を嗜んでいる方特有の姿勢なので、すぐに分かります」


 そう言えば、校門前で手紙を貰った時もメガネを掛けていたけど、すぐにオレだって気づいていた……


「――もっとも、こんなメガネを掛けているせいで、先日は水たまりなんて踏んでしまい、先生にはご迷惑おかけしました」


 そう言って頭を下げる北原さん。

 その行為に、オレの胸は更に締め付けられる。


 やめてくれ――キミは何一つ悪くない。キミが謝る必要なんて、どこにもない。


 悪いはキミを襲おうとした男達や、そんなキミにケチなタカリをかけて来た、あのバカじゃないか。

 なのに、なんでキミが……


「あの~、もうメガネ、よろしいですか?」

「えっ? ああ……はい」


 手にしていたメガネを、北原さんに手渡した。

 その受け取ったメガネをかけて、ニッコリと微笑む北原さん。


 なんでそんなに明るく笑えるのだろう……?

 そんな酷い目にあっているのに、一言半句(いちごんはんく)の愚痴すら言わずに……


 オレには、そんな彼女にかける言葉が見つからなかった――いや、かける資格すらないのだ。


 そう、俺自身も、そんな彼女を騙している――酷い事をしている、悪い男の一人なのだから……


「先生? どうかされましたか――もしや、具合が悪いのですか?」


 呆然と立ち竦んでいたオレの顔を、心配そうに覗き込む北原さん。


「い、いや……なんでもない、大丈夫よ」


 その視線を受け、オレは咄嗟(とっさ)に作り笑顔を浮かべた。


「さあ、行きましょ。今日はめいっぱい遊ぶわよ」

「はい」


 明るく話すオレに、満面の笑みで答える北原さん。


 ハハハ…………最低だな、オレ……

 こんな明るい笑顔を浮かべながら、平気でウソがつけるんだから……

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
一日一ポチお願いしますm(_ _)m
小説家になろう 勝手にランキング
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ