第十七局 追跡 三本場『張り込み開始』
「ちょっ、こ、ここって、まさか……パチンコ屋さんっ!?」
素っ頓狂な声を上げる響華さまに、思わずズッコケるわたし。
こ、この天然さんめぇ……
確かに派手な入り口に、電装の看板。何より、中にはパチンコ台やスロット台もあるけれど――
「響華さま、ゲーセンですゲーセン。ゲームセンター」
そう、わたし達が先回りしてやって来たのは、アーケード街にある二階建ての大きなゲームセンター。
お兄ちゃんが、時間を潰すなら間違いなくココだっ!
「そ、そう、パチンコ屋さんではなくゲームセンターね、ゲームセンター………………って、ゲームセンタァァァー!?」
再び素っ頓狂な声を上げる響華さま。
って、今度はナニ?
「ゲ、ゲゲ、ゲームセンターと言えば、いんペーだーとか言うゲームがある、不良のたまり場ではないですかっ!?」
「い、いつの時代のゲーセンですか、それは……」
ガックリと肩を落とすわたし。
箱入り娘の多いラファール学院でも、響華さまはホント筋金入りだ……
「大丈夫です、響華さま。今のゲーセンに不良なんて、ほとんど居ませんから。むしろ、普通の学生やカップルばかりですよ」
「そ、そうなんですの……?」
てゆうか、インペーダーの実機なんて見たことすらない。むしろ、話のネタに一度プレイしてみたいものだ。
「それに、この中ならわたし達の格好も目立ちませんから安心です」
「そ、そうなの?」
モノクル眼鏡の瞳で、自分の白いタキシードへ目を落とす響華さま。
そう、ここならわたし達のコスプレも目立たない。
なぜなら――
「ここの二階は、県内最大のプリクラコーナーになってまして、なんと撮影用にコスプレ衣装の無料貸出しもしてるんですよ」
「その『ぷりくら』というモノはよく分からないですけど、中にはわたし達と同じような格好をした人が居るってことかしら?」
「その通りです。しかも、わたし達より、ずっと派手な衣装を着た人達が」
まさに木を隠すなら、森の中。
周りの人達がコスプレしていれば、当然わたし達の衣装も目立たなくなる。
「こ、この格好よりも派手っ!?」
「ええ、タキシードなんかよりも派手な衣装はザラにありますよ」
今時のアニメヒロインの衣装は、ムダに装飾が多いし。ある意味、アニメーター泣かせである。
「じゃあ、中に入って、お兄ちゃんを待ちましょう」
わたしは響華さまの手を取り、入り口へと進んで行く。
「ち、ちょっと待って……まだ、心の準備が……」
「ゲーセン入るのに、いちいち心の準備なんて要りませんよ」
響華さまの手を引き、入り口の自動ドアをくぐった。
まず迎えられたのは、明るい照明と大音量の音楽。そしてお馴染みのクレーンゲーム。
って、なんかジ○リの復刻版ぬいぐるみが目立つな。そう言えば最近、金曜九時の映画もジブ○が多いし気がする。
もしや、新海さんのアニメ映画に興行収入を抜かれて、焦っているのか? 引退した駿ちゃんも、監督復帰するなんて噂もあるし。
そんな事を考えながら辺りを見渡すわたしと、そのわたしの背中へ怯える様に擦り寄る響華さま。
ゲーセン初体験に加え、想像していたゲーセンと現実のゲーセンのギャップに戸惑っているのだろう。
てゆうか、なんなんだ、この可愛い響華さまは……?
学院では絶対お目にかかれないレアなお姿に、思わず写メを撮りたくなってしまう。
もし、この姿を収めた写真なら、生徒会の一恵さんや二葉さん辺りは、鼻血を流しながら言い値で買い取ってくれるだろう。
まっ、その後の事を考えれば、いくら積まれても割りに合わないけど……
わたしは苦笑いを浮かべながら、もう一度あたり見渡した。
GWという事もあり、午前中だというのに結構な賑わいだ。
さて、店内を監視するならば………………やはりアソコか。
わたしは、吹き抜けになっている店内の二階へと目をやった。二階のプリクラコーナーもやはり、女子高生やカップルなんかで賑わっている。
そして予定通り、レンタルのコスプレ衣装を着ている人達も結構いるようだ。
何より、二階からなら店内全てを見渡せる。
「響華さま、二階に行きましょう」
「え、ええ、分かったわ……」
わたし達は階段を上がり、自販機の影に隠れるようにして店の入り口に目を向けた。
さあ、名探偵による張り込みの始まりだ。




