第十七局 追跡 一本場『モテ期は突然やってくる』
「先生達が移動するようですわ。わたし達も行きましょう」
駅の構内から、隠れて広場の様子を伺っていたわたし達。
北原さんを取り囲んでいた恐ろしそうな女性達を、あっという間に懐柔してしまうとは、さすが南先生だ――
そんな事を思い、感心しながら眺めていた先生達の姿。
その先生が駅とは反対側の階段に進むのを確認して、わたしは後ろにいるはずの真琴さんへ声をかけた。
しかし……
「ちょっ、コラッ! 寄るな触るな、放せガキどもっ! って!? いま胸触ったのは誰だぁーっ!? ガキのくせに、いい指技してるじゃねぇかっ!」
「ねえねえ、スケボーは? スケボーはどうしたの?」
「サッカーボール! サッカーボール出して!」
「オレ、おっちゃんの声聞きたい。おっちゃんのこ~え~」
わたしの呼び掛けに、返事のなかった真琴さん。不審に思ったわたしが背後へ振り返ると、そこには小学生の男の子達に纏わり付かれる真琴さんの姿……
まったく……何をしていますの、この子は?
「だぁーっ! ガキはおとなしく家帰って、ウルト○マン・タイガでも観てろっ!」
「もう観て来たー!」
「てゆうか、オマエこそ家に帰れっ、死神っ!」
「そうだそうだっ! オマエが出歩くから、殺人事件が起こるんだぞぉ」
「オマエは一歩も外に出ないで、家でネットでもやってろっ! それが街の平和のためだっ、死神っ!」
「ぐぬぬぬぬぅ……」
小学生達の言葉に、頬を引きつらせて顔を紅潮させる真琴さん。
そして……
「もう怒ったっ! 全員、麻酔針で眠らせてくれるわーっ!!」
「わ~っ! 逃げろ~」
「死神が怒った~」
「大きくんなっても、頭脳は子供だ~」
「アハハハハハハ~」
真琴さんが左手の腕時計を突き出すと、蜘蛛の子を散らす様に逃げ出す子供達。
「むぁてぇぇー、ガキどもぉーっ! 命取ったらぁ~っ!」
逃げる小学生を、大人気もなく本気で追い回す真琴さん。
そして、集まっていた子供達を追い払うと、ドヤ顔で戻って来る。
「ふっ、恐れ入ったか、ガキども。94年から二十年以上も小学一年生をやっている、死神少年を舐めるなよ」
「何をやってるのですか、あなたは……?」
小学生相手に勝ち誇る真琴さんに、わたしはため息をついた。
しかし……
「あら、響華さまだって、人の事は言えませんですわよ」
そう言って、わたしに意味深な視線を向けて来る真琴さん。
いや、わたしにと言うより、わたしの足元へ。
わたしはその視線の先を追うように、下を向い――
「なっ…………?」
その、あまりの光景に、わたしは一瞬言葉を失った。
「キッドさま、綺麗ぇ」
「素敵ですぅ~、キッドさま~」
「あぁ~、キッドさまぁぁ~」
そう、いつの間やら、わたし足元には小学生の女の子達が群がっていたのだ。
「えっ? いや、ちょっとまっ……」
女の子達に四方を囲まれ、身動きの取れないわたし。さすがにこんな小さな子達を強引に引き離す訳にもいかず……
「キッドさまぁ、高い高いしてぇ~」
「あたし、抱っこ! 抱っこして欲しい~」
「とゆうか、抱いて下さい、キッドさま」
ちょっ、ホントどうすればいいの、これっ!?
「くくく……さすがラファール1の才色兼備と謳われる響華さま。男装の麗人姿に、小学生女子もメロメロですねぇ」
そんな小学生の女の子達にもみくちゃにされるわたしを見て、声を殺して笑っている真琴さん。
とゆうか……
「笑ってないで助けなさぁーいっ!!」




