第十六局 待ち合わせ 二本場『たんたんコンビ♪』
「オウッ! テメ、コラッ!」
「お嬢さんを一時間も待たせるとは、どうゆう了見だ、アアッ、コラッ!」
おそらく軍団のリーダーとそのサブと思われる、縦幅横幅共にオレよりふた周りは大きいお姉様二人が、竹刀の先端をオレに向かって突き付けた。
思わず立ち止まり、両手を上げるオレ。
てか、一時間も前からここに居たのっ!?
「やめなさい、有子さん、美佳さん。それにまだ、約束の時間にもなっていませんよ」
「しかし、お嬢さん……」
「むぅ~」
北原さんが、可愛く頬を膨らませると、渋々と竹刀を下ろす二人。
「すみません、先生……ちょっとだけ口は悪いですけど、みんな根はいい人達なので、許して上げて下さい」
えっ? ちょっとだけ? てか、悪いのは口だけ? 人相とかガラとか他にも……
「アアッ!? なんか文句あんのか、コラッ!」
「文句あんなら、いつでも殺ったんぞ、コラッ! アアッコラッ!!」
「い、いえっ! 滅相もありませんっ!」
再び両手を上げ、勢いよく首を振るオレ。
てか、男性恐怖症の北原さんには申し訳ないが、そこいらのテンプレヤンキーなんかより、この乙女軍団の方がよっぽど怖いぞ。
「じゃあ、有子さん達。先生も来て下さいましたので、もう大丈夫です。付き合ってくれて、ありがとうございました」
「しかし、お嬢さん……ホントに大丈夫なんですかい?」
「何ならアタイ達も着いて行きやしょうか?」
い、いや……この軍団と行動を共にするのは、勘弁願いたい。
「ふふふっ。大丈夫ですよ、有子さん、美佳さん。先生はこう見えて、とてもお強いのですから」
「ふ~ん……」
ずいっと顔を近付け、品定めでもするように、オレの顔をマジマジと観察する有子さんと美佳さん……
てか、女性からこんなにも顔を近付けられているのに、こんなにも嬉しくないのは、生まれて初めてだ。
「とてもそんな風には見えやせんけどねぇ」
「確かにそうかもしれませんね。でもね、有子さん――少なくとも実戦なら、先生の方があなた達よりは強いですよ」
「「アアーッ!?」」
てか、なぜオレを睨む? オレ、何も言ってないじゃん!
とゆうより、北原さん。この状況で燃料を投下するのはやめて欲しい……
しかし、北原さんの次の言葉で、オレにガン付けするお姉様達の態度は一変する事になる。
「なにしろ先生は、わたしの上段飛び込み片手平突きを初見で躱したのですから」
「えっ!?」
北原さんの一言で、チンピラがガン付けするような十四個の瞳が、驚愕の瞳へと変わった。
「お、お嬢さん得意の……」
「あの、来ると分かっていてもかわせない、神速の片手平突きを……」
「初見でかわしたですって……」
ニッコリと笑って嬉しそうに話す北原さんへ、驚きで見開かれた視線が集中する。
「はい、綺麗に躱されました。しかも、ただ躱すだけではなくて、後の先を取って後ろ回し蹴りも決められました。もし先生が寸止めして下さらなければ、今頃わたしは病院のベッドの上に居たでしょう」
「…………」×7
物騒な事をあっけらかんと、そしてなぜか嬉しそうに話す北原さん。
しばしの沈黙の後、北原さんに向けていた視線を、ゆっくりとコチラに向ける屈強な乙女軍団。
そして、オレに詰め寄っていた有子さんと美佳さんは、呆然とした目をコチラに向けたまま、一歩うしろに下がると――
「「失礼しましたーっ!!」」
「失礼しましたーっ!!」×5
「自分はーっ! お嬢さんが師範を務める北原流剣術、第七女子道場で師範代をしている、杭丹有子でありますっ!」
「同じく、師範代補佐をしております、端野美佳でありますっ!」
「よろしくお願いしゃーすっ!!」×7
深々と頭を下げる、乙女軍団。
いや、まあ……
こうゆう挨拶は空手部で慣れているけど、衆人環視の――それも休日の駅前ではやめて欲しい。
てか、さすが体育会系。分かりやすいヒエラルキーだな、おい。
「お二人はウチの道場で、『たんたんコンビ♪』と呼ばれているんですよ。可愛いと思いませんか?」
「そ、そうだね……」
確かに名前は可愛い。名前は――
これ、大事な事なので、2回言っておく。
「ですから、もう心配いりませんよ、有子さん、美佳さん」
「はっ! では、南先生っ!」
「お嬢さんをよろしくお願いしゃーすっ!!」
「お願いしゃーすっ!!」×5
「は、はあ……ま、任されました」
いや、だから、人前でそれはやめて……
「自分達は、コレで失礼しまーすっ!」
「全員整列っ!」
「押忍っ!」×5
「駆け足ーっ、初めっ!」
「イチニ! イチニ! イチニ! イチニ!」
たんたんコンビと乙女軍団が走り出すと、進行方向の人だかりがモーゼの十戎のように割れていく。
「寄り道しないで、気をつけて帰るのですよ~」
「押忍っ!!」×7
その逞しい後ろ姿を、ニコやかに手を振って見送る北原さんと、呆然と見送るオレ。
あの乙女軍団と平然と話せるのに、男が怖いとか……精神的疾患というのは、奥が深いものだと痛感した。
「では、わたし達も行きましょうか、先生」
「そ、そうですね」
って、なぜ敬語になっているオレっ!?
 




