第十五章 決戦前夜 一本場『真実の愛は――』
「では、これより第四回『真実の愛はいつもひとつ』作戦の作戦会議に入りたいと思います」
南先生と北原さんのデートを明日に控え、わたしと真琴さんは今後の対策会議を開こうとしていた。
場所は学生寮のわたしの部屋――
そういえば、この部屋に家族と使用人以外の人間が入るのは初めてだ。
そう思うと、わたしには本当に友達がいなかったのだと痛感する。
しかし今は……今だけは、もっと問題にすべき事があるのだ。
それは――
「真琴さん……作戦会議は良いのですけど、この格好は何なのかしら?」
わたしはバルコニーへと続く大きな窓に映った自分の姿を目にしながら、正面に座る真琴さんに尋ねる。
「なにと言われましても――『さすが響華さまぁ、男装もお似合いですぅ。きゃぴっ♪』としか」
そう、窓に映るわたしは、男性の服を着ていた。
まあ、それはよい。明日は尾行をするのだ、変装は必要だろう。
しかし……
「こんな目立つ格好で尾行が出来ますかぁーっ!?」
キョトンとする真琴さんに、声を荒げるわたし。
そのわたしの格好というのは、真っ白いタキシードに大きなマントと片眼眼鏡。更に長い髪はアップにまとめ、それを白いシルクハットで隠しているのだ。
こんな派手な格好は、とても尾行に適している格好とは思えない。
「はぁ……何を言ってるんですか、響華さま?」
対して、青いジャケットに半ズボン。そして大きな黒縁の眼鏡と大きな蝶ネクタイをした真琴さんは、まるでわたしの見識の方がおかしいとばかりに、ため息をついた。
「尾行をするのに、これほど適した変装はそうそう無いですよ」
真琴さんの言い分には、さすがにわたしも少しカチンときた。
確かに、最近は自分の見識の狭さを痛感していたけど、この派手な格好は尾行に適さないという見識が間違っているとは思えない。
コンコン――
「失礼致します、お嬢様。お茶をおいれ致しました」
と、丁度良いタイミングで、つばめがお茶を持ってやって来た。つばめは西園寺家の中でもトップクラスの優秀なメイドだ。
ここはつばめに、真琴さんをたしなめて貰お――
「あら、おお嬢様方。明日はお出かけと伺っておりましたが、尾行でもなさるのですか?」
「なっ、なぜそれをっ!?」
驚くわたしを尻目につばめは、微笑を浮かべながらテーブルに紅茶とクッキーの乗ったお皿を並べて行く。
「なぜと申されましても――それほど尾行に適した格好など、そうそうないでしょう」
「そうですよねぇ」
あ、あれっ? も、もしかして、おかしいのはわたしなの……?
いやいや、やはり納得がいかない。
「ちょっと、つばめ。なぜ尾行をすると思ったのか、きちんと説明なさい!」
「簡単な推理ですよ、お嬢様――」
つばめは空になったトレーを胸に抱いて、ニッコリと微笑んだ。
「お二方の格好は、死神少年と怪盗少年と呼ばれる方々の衣装。高校生に限定するならば、真琴さまの死神少年は、日本一の名探偵。お嬢様の怪盗少年は、日本一の大泥棒です。そして、この二つの共通点は人目を憚ること。つまり隠密行動です。では隠密行動で何をするのか? お二人の家の総資産を考えれば、怪盗の仕事である泥棒は考えにくい。ならば、探偵のお仕事。つまり尾行に行き着くわけです」
「おおっ! さすが西園寺家のメイドさん。完璧な推理です」
「おそれ入ります、真琴さま」
笑顔で拍手を送る真琴さんに、仰々しく頭を下げるつばめ。
西園寺家のメイドが褒められるのに、悪い気はしないけれど…………
説明を聞いても納得出来ないのは、やはりわたしが変なのだろうか?
「更に推理を付け加えるなら、尾行の対象は――――『恋敵』といった所でしょうか?」
「っ!?」
つばめの言葉に、思わず心臓が止まるかと思った。
な、なぜそんな事まで……
「くくく……さすが、西園寺家次期当主付きのメイドさん。そこまでお見通しとは、恐れ入りました」
「お褒めにあずかり光栄でございます、真琴さま」
動揺を隠しきれないわたしとは対照的に、不敵な笑みを浮かべる真琴さんと、スカートを摘み優雅に頭を下げるつばめ。
そんな、次の句がつけずに固まるわたしを見越してか、真琴さんがコチラに視線を向けて来た。
「ところで響華さま。なぜこの子が、死神少年と呼ばれているかご存知ですか?」
自分の衣装を見せるようにして、わたしに話を振る真琴さん。
「い、いいえ、知らないわ」
そもそも、死神少年という言葉自体が初めて聞く言葉だ。
「実はこの少年の行くところ、必ず殺人事件が起こるのですよ」
「さ、殺人事件……」
真琴さんの口から出た恐ろしいワードに、わたしは思わず息を飲む。
「ちなみに有志の統計によりますと、一年未満という短い間(作中)に彼が関わった事件での死亡者数は、何と502人っ!(82巻現在)」
「更にアニメオリジナルと劇場版を合わせますと、948名――千人の大台も時間の問題でございます」
なっ……!?
ア、アニオリというのが何かは分からないけど、一年でそれだけの殺人事件に係わっている少年がいるなんて……
いえ、その少年の周りという限られた場所で、そんなにたくさんの殺人事件が起こるなんて、日本の警察はいったい何をしているの?
「ふふふっ……うまく行けば、この死神少年の呪いであの小娘を亡き者に……」
「ちょ、ちょっと……ま、真琴さん……?」
不気味に笑う真琴さんに、思わずたじろぐわたし。
この子、まさか本気で……?
「って、イヤだなぁ~響華さま。軽い冗談ですよ、冗談。アハハハ」
「で、ですわよね……」
「二割くらい」
「八割も本気ですのっ!?」
ホントに、この子はどこまで本気なのだろうか……




