第十三局 約束 一本場『坂の途中』
さて、天の岩戸が開くまで待つとは言ったけど、さすがに女子更衣室の前で待つのは抵抗がある。
さりとて、寮の玄関前で待つのもストーカーみたいで気が引ける。
ならばどこが一番いいだろう?
色々と考えた結果、昨日北原さんがオレを待っていた場所。校門から寮へと向かう、坂の途中がベストであると判断した。
なにせ『坂の途中に恋がある』という格言もあるくらいだ――
って、あれ? 格言だっけ? いや、アニメか何かのキャッチコピーだったかな?
いや、でもウチのガッコの寮は、木造二階建てでもなければ、美人で未亡人な管理人もいないしなぁ……
まあ、いいや。
とにかくオレは、校門と学生寮のちょうど中間辺りで張り込みを開始した。
途中、下校する生徒達に何度か声を掛けられ『ごきげんよう』などと返しながら、待つこと一時間。
辺りには夜の帳が降り初め、下校する生徒もほとんどいなくなっていた。
もしかして、すれ違いでもう帰ってしまったのでは――――
などと不安が頭をかすめ始めた頃、お目当てのショートカットに黒縁メガネをかけた少女が、校門から姿を現した。
そういえば、初めて合った時もメガネをかけていたなぁ。
肩を落として、俯きがちに歩く北原さん……さてさて、なんと言って声をかけようか?
待っていたこの一時間で、色々とシミュレーションを重ねたけど全然まとまっていない。そして、ギャルゲの選択肢はリアルにおいて、全く役に立たないという事も痛感した。
仕方ない、ここはブッつけ本場だ。
「こんにちわ――いえ、こんばんわかしら? 随分とユックリだったわね?」
下を向いて歩いていた北原さんに、オレは努めて明るく声をかけた。
「せ、先生っ!?」
オレの登場に、目を丸くする北原さん。
さて、このあとは……やはりここは男らしく、ビシッと行くか。そう、男らしくっ!
コレ、大事な事なので二回言っておく。
「ごめんなさいっ!」
「申し訳ありませんでしたっ!」
オレが男らしくビシッと頭を下げると同時に、正面の少女もビシッと頭を下げてきた。
流れる沈黙……
同時に頭を下げるという予想だにしなかった展開に、オレは次の行動を決めあぐねた。
と、とりあえず状況を把握するためも、顔を上げて――
「っ!?」
腰を曲げたまま、顔だけを上げたオレの目に飛び込んで来たのは、顔を赤らめた北原さんのドアップ。
その超至近距離にあった美少女のご尊顔に、オレも自分の顔が紅潮しているのが分かる。
ま、まあ……お互い腰を直角に曲げたまま、顔をだけを上げれば、こうなるのは自明の理。
ふわりと香る石鹸の香り。そしてその香りと一緒に届く、微かな吐息が頬をなでる。
お互いテンパって、次の行動が取れずに見つめ合ったまま、硬直するオレ達……
「…………」
「…………」
「………………」
「………………」
「って! いつまで見つめ合ってんのモガモガモゴ……」
どこからともなく聞こえてきたツッコミに、オレは慌てて腰を戻して辺りを見渡した。
…………ん? 誰もいない?
幻聴か? 最近疲れ気味だからなぁ……
やはり今日は、奮発して牛丼に卵を付けるべきだな、うん。
とはいえ、これはこれで仕切り直すのに、いいキッカケになった。
辺りをキョロキョロと見回す北原さんに向き直り、改めて声をかけ直すオレ。
「北原さん、さっきはホントごめんなさいね」
「い、いえ、そそんなっ! わ、わたしこそ……頭の中が真っ白になってしまって……醜態をお見せして、申し訳ありませんでした……」
「そりゃあ、いきなり回し蹴りなんてされたら、ビックリもするわよね。ホントごめん」
「回し蹴りが――というより、その時の先生の姿が、あの人の姿と重なったからで……」
「えっ?」
「い、いえっ! な、なんでもありませんっ! …………そ、それに――」
何やら顔を赤くしてキョドったかと思えば、今度は急に肩を落としてシュンとする北原さん。
「部活のみなさまや真琴さま、響華さまにも失礼な態度を取ってしまって……ホントにお恥ずかしい限りです……」
「いやいや、そんなの気にする事ないって」
「しかし……よりによって、響華さまを怒らせてしまうなんて……」
響華さん? 北原さんの事なんて、怒っていたか?
「大丈夫よ。響華さん、怒ってなんかいないって」
なんかオレに対して怒って――とゆうか、機嫌が悪かったけど。
「そうでしょうか……?」
「そうそう。響華さんは、こんな事で怒る子じゃないから。確かに、人にも自分にも厳しい所があるから誤解されやすいけど、根は純真でとても優しい子よ」
「そうなのですか?」
「そうだよ。しかも、実は結構ドシッ娘だし」
「誰がドシッ娘で、モガモゴモゴ……」
落ち込む北原さんをなだめるオレに、どこからともなく綺麗な声のツッコミが入る。
二人して周りを見回して見るけど、やはり誰もいない。
顔を見合わせ、お互い首を傾げるオレと北原さん。
はっ!? も、もしや、ツッコミ欠乏症の症状が、幻聴の聞こえるレベルまで悪化しているのか?
ならば早く話しを切り上げ、牛丼を食ったらエンタの女神様総集編2005(レンタル落ち250円)でも観て、とっとと寝てしまおう。




