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『オレの生徒はお嬢様!?』  作者: 宇都宮かずし
第二部 オレの生徒は男性恐怖症!?
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第十一局 試合 四本場『上段の構え』

 静まる会場……

 ピンッと張り詰めた緊張感の中、開始線に着き、竹刀を構えるオレと北原さん。


「お二人共、準備はよろいしか? でございます」


 一流の格闘家である撥麗さんの放つオーラが、その緊張感に拍車を掛ける。


 前審判である一ッ口さんとは、比べられない程の真剣な眼差し。その鋭い視線で見据えてられ、オレと北原さんは静かに頷いた。


「それでは――」


 撥麗さんは一歩うしろに下がり、大きく息を吸い込んだ。


 そして……


「ガンガムファイトッ! レディィィィィィー」

「「そうじゃないだろ、東方無敗(マスターアジア)っ!!」」


 お嬢様達がキョトンとする中、オレと真琴ちゃんから揃ってツッコミが飛んだ。


 いや、まあ……撥麗さんの性格からすれば、審判を引き受けたら、このボケはお約束かもしれないけさぁ……


「おおぉぉっ」


 ちょっと脱力気味のオレに、目を丸くした撥麗さんが驚きの声を上げながら歩み寄る。


「先生――的確なツッコミ、ありがとう、でございます」


 そう言って、小手をはめたオレの手を取る撥麗さん。


「この学院に来てからというもの、ボケてもボケてもツッコミがなく、撥麗は虚しい毎日を送っていたのだ、ございます」


 オレの両手を強く握りしめ、そう訴える撥麗さんの瞳には微かに涙も浮かんでいた。


 そして、握られた手を逆に強く握り返すオレ。それは撥麗さんの言葉が、オレの琴線にも触れるモノがあったからだ。


「分かる……分かるよ、撥麗さん。あなたの気持ちは、痛いほど分かります。わたしもこの学院に来て間もないけど、すでにツッコミ欠乏症の症状が出てるもの」

「分かって下さいますか、先生? でございます」

「ええ」


 同じ感情を共有するオレと撥麗さん。お互いの手を握り合い、面越しに見つめ合う二人……


「先生……」

「撥麗さん……」

「「ひしっ」」


 そして、オレ達の距離はゼロになった……


「ちょぉぉぉーっ!? おに、じゃなくて、友子さんっ!!」

「なっ、ななな、なにをしておりますのっ!? 早く離れなさいっ!!」


 熱い抱擁を交わすオレ達に、勢いよく立ち上がった響華さんと真琴ちゃんのツッコミ――とゆうが怒声が飛ぶ。


「お気になさらずに、でございます。ちょっとした冗談です、でございます」

「そうそう、軽い冗談です」

「冗談で、抱き合う人がありますかっ!?」

「そうだそうだっ! そんな羨まけしからん事っ!」


 軽い冗談で流そうと、あっけらかんと答える撥麗さんとオレ。

 しかし、放送席の二人には流してもらえず、更に声を上げる西園寺と東のサイ☆アズコンビ。


 てか、こう書くと、どこぞの高校にある軽音部のユニットみたいだな。


「まあまあ、落ち着いて、でございます。女性同士のハグに、目くじらを立てる事ない、でございます」

「そ、そうそう……」


 と、同調しながらも、同意したくない内容に若干頬を引きつらせるオレ。


「くっ……この場で先生の秘密を暴露してしまおうかしら……」

「どうもすみませんでしたーっ!」


 眉をしかめて呟く響華さんの言葉に、速攻で頭を下げるオレ。


「わたしも、撥麗さんのパチンコ収支報告書、白鳥さんに郵送したい気分だわ……」

「どうもすみませんでしたーっ! でございますっ!」


 更に真琴ちゃんの呟きに、速攻で頭を下げる撥麗さん。


 ちなみに白鳥さんとは撥麗さんの主であり、オレのクラスの委員長でもある、ゴージャスお嬢様である。


「では、()(すみ)やかに、試合を再開なさい。わたくしも、それほどヒマではありませんから」

「「サーッ! ィエッサーッ!!」でございます」


 オレ達は同時に頭を上げ、直立で会長閣下に敬礼を送ると、速やかに所定の位置へと戻る。


『ツッコミならわたしも入れたのに……』などとブツブツ言っている真琴ちゃんの呟きを背に開始線へ戻ると、反対側の開始線の前で北原さんが楽しそうに微笑んでいるのが、面越しに見えた。


「中断しちゃって、ごめんね。目の前でボケられてツッコまないのは、わたしの中に流れる芸人の血が許さなくてさ」

「いえ、わたしも見ていて楽しかったですから」


 そう言いながら、北原さんはゆっくりと竹刀を正眼に構える。


「そう――楽しんで貰えたなら良かったわ」


 オレもゆっくりと竹刀を上げていく。


「はい、こんな楽しい気持ちで部活をするのは初めてです」

「そっか……でも実はさっきのやりとり、北原さんの集中力を切らせる為の作戦だったんだけどね」

「フフッ、この程度で集中力が切れるほど、ヤワな鍛えられ方はしていませんよ」

「確かに……」


 竹刀を正眼で構える北原さん。表情は微笑みながらも、構えには相変わらずスキがない。


 会話が止まり、お互いの緊張感が頂点に達した時――


「はじめっ!! でございます」


 試合再開を告げる撥麗さん。


 そのよく通る声と共に、オレはズリ足で一歩踏み込んだ。


「――?」


 踏み込んだオレに対して、同じ距離を下がる北原さん。更にオレが間合いを詰めようと踏み込んでも、北原さんはその分を後ろに下がって間合いをキープする。


 どうゆう事だ……? まさか、残り時間を防御に徹して逃げ切る気か? いや、北原の人間が、全力で臨むと宣言したんだ、逃げはあり得ない。


 そのままゆっくりと間合いを詰めて行くと、北原さんは場外線の手前でピタリと止まった。

 さて、どうする……?


 今の距離は、ギリギリ北原さんの間合いの外。半歩でも踏み込めば、打ち込まれるだろう。

 ならカウンター狙いで……いや、北原さんが下がった理由が分からない。カウンターに対して何か策があるのか……?


 対応を決め切れないオレの思考。しかし、北原さんの次に取った行動で、更に思考が混乱した。


 上段だと……?


 そう、ピタリと動きを止めた北原さんは、竹刀を上げて上段に構えたのだ。


 上段の構えは、火の構えと言われるくらい攻撃型の構えだ。胴のガードをガラ空きにしても先に攻撃を決める、先の先を取る構え……


 その小さな身体を目一杯大きく見せ、威圧する北原さん。

 そして、その威圧に押され、オレは無意識に後ろへ下がってしまった。


「やああぁぁぁああぁぁぁーーっ!!」


 その瞬間を狙っていたとばかりに、北原さんは気合いを込めた声を発し、一気に間合いを詰めながら竹刀を振り下ろす。


 上段から打ち下ろされる打ち込みは、さっきまでよりも更に間合いが広い。


 しかし……


 だ、大丈夫、かわせる。


 そう、打ち込みの瞬間、すでに後退していたオレ。もう半歩下がれば充分にかわせ――


「なっ!?」


 驚きに目を見開くオレ。


 充分にかわせると思っていた北原さんの竹刀は、振り下ろしの途中で、急激に軌道を変えた。


「つきぃぃぃーーーっ!!」


 空振りかと思われた北原さんの竹刀。しかし、その切っ先がオレの喉元目掛けて迫り来る。


 てか、あの勢いで振り下ろした竹刀を、途中から軌道を変えるとか、どんだけ強い手首(リスト)してんだよっ!


 心の中で毒づきながらも、懸命に身体を逸らし竹刀をかわしに行く。


 まだ大丈夫……ギリギリだけどかわせ――


「えっ!?」


 再び驚きに――いや、驚愕に目を見開いた。


 北原さんが持つ竹刀の切っ先が、コチラの予想より遥かに伸びて来たのだ。


 片手突きっ!?


 そう、北原さんは竹刀を片手で持ち、身を捻る様に竹刀を突き込んで来たのだ。


「くっ…………」


 威圧する気合い。そして、その気合いの乗った切っ先。


 その、生命の危機すら感じさせるほどの気迫が込められた切っ先が眼前に迫った瞬間、オレの頭の中がクリアになり、身体が勝手に動いた……いや、動いてしまった……


 静まり返える場内。そして、完全に動きの止まったオレと北原さん。


 場を静寂と沈黙が支配する……

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