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『オレの生徒はお嬢様!?』  作者: 宇都宮かずし
第二部 オレの生徒は男性恐怖症!?
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第九局 控え室 一本場『部活って……』

「まったく……なに考えているんですか、南先生?」


 剣道場の奥にある控え室。剣道部にあった予備の防具を借り、それを身に付けて始めるオレを見て、眉をしかめる響華さん。


 ちなみに、この部屋に居るのは二人だけである。


 オレはスーツのジャケットを脱いで、近くにあった椅子の背もたれに引っ掛けた。


「なにって……特に深い考えはないよ。ただ、お互い武道家同士。男らしく拳ならぬ剣で語り合おうかと――」

「北原さんは女性ですし、先生も女性にしか見えません!」


 グサッ!


 いくら他に人がいないとは言え、そういう際どい発言は心が折れそうになるので勘弁して下さい。


「それで。冗談はいいですから、ホントのところはどうしてなんですか?」


 次にまた冗談を言ったら許しません。的な鋭い視線を向ける響華さん。


「い、いや、冗談のつもりはないんだけど……ただ、他に理由を付けるなら、好きな事を悲しそうな顔でするのを見るのが嫌だったから……かな?」

「えっ?」

「部活ってさ、本来はもっと楽しいものだと思うんだよ。まぁ、部活に限らず多分生徒会もね」


 生徒会に関しては、学生時代に直接かかわりはしなかったので詳しくは知らんけど。


「楽しいもの……ですか?」

「そう、楽しいもの――ほら、このまえ貸したラノベに出てくる生徒会が楽しそうだって、響華さんも言っていたじゃん」

「えっ? ええ、まあ確かに……」


 響華さんが、初めてウチに来た時に貸したライトノベル。どこにでもあるような、田舎の高校の生徒会を舞台にした話。

 この学園の生徒会との違いに、結構なカルチャーショックを受けていたっけ。


 もっとも、あんな物を貸したせいで、壁新聞なんて物を書かされる事になったんだけど……


「それでは先生は……先生は部活、楽しかったのですか?」


 楽しかったか?

 響華さんのその問いにオレは、(たれ)を腰に巻きながら笑顔で答えた。


「楽しかったよ」


 そして遠い目で、天井を眺めながら大学時代の空手部の活動を思い出す。


「新歓スパーリングで上級生にボコボコにされた事も、新歓コンパでムチャ飲みさせられたあげく、駅のホームでパンツ一丁にされて校歌を熱唱させられたのも、今ではいい思い出さ。ハハハ……」

「そ、それは本当に楽しかったかのですか……?」


 オレの乾いた笑いに、頬を引きつらせる響華さん。


 ちなみにその後、駆け付けたお巡りさんに追いかけられ、オレを含めた一年生の数人が捕まってしまった。

 そしてパンツ一丁のまま、よりにもよって若い婦警さんにお説教を食らってしまったのも、今ではいい思い出である。


「まあ、それはさて置き。今朝、剣道部の朝練を覗いたときにさ、北原さんが悲しそうに練習してるのを見て、すんげー嫌な気持ちになった……」


 そう……

 あの顔は、決して好きな事をしている時の顔ではなかった。じゃあ、剣道が嫌いなのかといえば、それもないと思う。嫌いならば、自ら進んでロードワークなどには行かないだろう。


 本来なら、自分の好きな剣道の練習に没頭出来るはずの剣道部。

 しかし、実際は剣道部など名ばかりで、まともな練習などしていない。本当に剣道が好きな子にとっては最悪の環境だ。


「だからって他の部員たちに『真面目に練習しろ~!』って言ったところで、あの子たちじゃあ北原さんの練習に着いて行けるとは思えんし」

「だから先生が練習相手になろうと?」

「そうゆうこと。たまには試合形式で真剣勝負でもしないと――あんな環境で自主錬ばかりしてたんじゃ、精神衛生上、良くないしね」


 オレが胴を胸に当て、肩紐を結びながらそう言うと、響華さんは短くため息を吐いた。


「まったく……ホントに北原さんには優しいんだから……」

「えっ? 何か言った?」


 何やら小声で呟く響華さん。


「なんでもありません」


 そしてソッポを向かれてしまった……

 な、何なんだ? さっきもこんなやり取りがあった気がするぞ。


「それで? 真剣勝負はいいですけど、先生は剣道の経験がお有りなのですか?」

「経験ってほどじゃないけど……中学と高校の体育でカジッた程度かな。とりあえずルールくらいなら知ってるよ」


 そう、偉そうな事を言っているけど、剣道の試合の経験など皆無に等しい。

 実はさっきから、うろ覚えの記憶を引っ張り出し、どうにか防具を身に着けている感じなのだ。


「あきれた……それで試合だなんて。ご存知かもしれませんけど北原さんは、あの北原十三段のお孫さんなんですよ」

「うん、まあぁそれは知っているし、北原の家が武芸百般なのも知ってる。けど試合を申し込んだのは、勝敗が目的じゃなくて、北原さんに思い切り剣道を楽しんでもらう為だから」


 そう……変に遠慮してワザと負けたり、たった一人でロードワークをしたり、他の部員がお茶をしている横で、一人で素振りをしたり……そんな部活が楽しいワケがない。


 まぁ、とは言っても、剣道じゃ正直オレでもきっと役不足だろう。

 ただ、それでも他の部員よりはマシなはずだ。


「ふぅ……まったく、先生らしいです。ただ、いくら先生でも剣道で北原さんの相手をするのは無謀だと思いますわよ。ハッキリ申し上げて、北原さんに剣を持たせたら学院最強だと言っても過言ではありませんし」

「い、いや……それってどうなの? お嬢様学院の最強とか言われても……」


 北原の家が武芸百般で、彼女の立ち振る舞いからも北原さんが強いのは分かる。

 でも比較対象がお嬢様たちじゃ……

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