表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『オレの生徒はお嬢様!?』  作者: 宇都宮かずし
第一部 オレの生徒は生徒会長!?
5/137

第二局 愛と大人の個人授業 02

『はい、こちら綺麗で優しいお姉ちゃん』


 ここは突っ込んで欲しいのだろうが、そんな余裕などはない。


「姉さん! ちょっとなにアレはっ!!」

『んっ? ユリちゃんの事か? でも友也……アレはないだろ、アレは。いい人だぞ、ユリちゃん』

「いい人とかどうとかの問題じゃなくて! これはどうなっているんだよっ!?」

『どうもこうもないだろ――』


 よっぽど焦っていたのだろ。正直自分でも何を言っているのかわからない。

 それでも何とか会話が繋がっているのは付き合いの長さか、それともこうゆう電話がある事を予測していたか……多分後者だろう。


 焦っているオレを落ち着けるように、姉さんはゆっくりとした口調で話し出した。


『いいか友也――男のお前に女の何たるかを教えるのに、彼女以上の適任がいるか?』

「うっ……」


 姉さんの諭すような口調に、少しずつ冷静さを取り戻す。


 とりあえず、『彼女』と言う所にはツッコミたいが、言われみればその通りだ。


『それに彼女達は自分から望んで女になったんだから、本当の女以上に女らしいし、そうなるには並大抵の努力じゃないんだぞ。その血と汗と涙の結晶を無償で伝授してくれると言うのだ、大いに感謝する所だろう?』

「ううっ……」


 姉さんの言う事が正論過ぎて言葉が出ない。そういえば前にテレビで、ニューハーフのドキュメンタリーを観た事がある。確かに普段は明るく振る舞っている彼女(?)達はみんな、裏で大変な苦労をしていた。


 確かに、いくらキモいからと言って拒絶するのは失礼なのかもしれない――いやしかし、オレは望んで女装をしようとしている訳じゃないし……


『それにユリちゃんなら姉さんも安心だしな』


 ちょっと考え込んでしまったオレに、さっきまでとは一転して明るい口調で話す姉さん。


「安心って何が?」


 オレはちっとも安心してないぞ。


『いや、もしも友也がユリちゃんにムラムラ~っと来て襲ったとしても、ユリちゃんの腕力なら勝てる』


 いや、ムラムラ~とはか100%有り得ないから――


 てか、そんなに強いのか? 確かにプロレスラー並みの体型してるけど、オレだって大学時代は空手の全国大会に出たことがあるんだぞ。


『いいか友也――もしユリちゃんを口説くつもりなら覚悟しておけよ。ユリちゃんは元自衛隊のパラシュート部隊出身だぞ』

「パ、パラシュート部隊っ!? それって自衛隊第一空挺団パラシュート部隊かっ!? 自衛隊の中でもエリート中のエリートじゃん!」

『なんでも習志野駐屯地じゃ、灰色熊(グリズリー)中本一佐と呼ばれていたらしいぞ』


 グ、グリズリーって――し、しかも一佐?

 エリート中のエリートで更に佐官!? わかり易く軍隊風に言えば、劇場版の逆襲に来た赤い彗星と同じ大佐様っ!?


「な、なんでそんな凄い人が、二丁目でママなんかやってるんだよ?」

『聞いてやるなよ友也……訓練中の事故で身体の一部――しかも特に大切な部分を無くしたなんて、誰にも知られたくない話しさ――』


 なら話すなよ! 全部理解しちゃったよっ!!


「ところで姉さん……? オレがユリさんを襲う可能性は万に一つもないけど、オレが襲われる可能性は考えてないのか?」


 …………………しばしの沈黙。


 そして――


「あるな……いや、むしろ可能性は低くはない」

「ちょっと待てっ!!」


 再度沈黙。そして長い()の後に――


『…………………諦めろ』

「おいっ、コラッ!」

『相手の力は巨大熊と互角だが、本物の熊と違い知能が高い。死んだフリをしても、そのまま食べられるのがオチだ……でもまぁ、別に減るものじゃないし、痛いのは最初だけだ。それに――』

「それに……なに?」

『もし友也がソッチに目覚めても、姉さんは友也の味方だぞ』

「あほかぁぁぁぁぁーーーっ!!」


 深夜なのも忘れて大絶叫。いやしかし、これは仕方ないだろう。誰だって叫んでいたはずだ。


『友也……真夜中に大声を出すのは、ご近所迷惑だぞ』

『お客さん、あと10分ですよ』

『な、なにっ!』


 ふと、電話の向こうから姉さん以外の声が聞こえた。


 そういえば、さっきは慌てていてほぼ無意識に電話をかけていたけど、入院中の姉さんが何で真夜中に電話に出られるんだ?

 しかもよく聞くと、後ろから結構な喧騒も聞こえて来るし――


「ちょと姉さん、今どこに居る?」

『いやなに、病院のご飯だけじゃ足りなくてな。コッソリ抜け出してラーメン食べてた』


 まったくこの人は……


『という訳で友也、姉さんは残り十分で、あと二杯のラーメンを食べないとタダにならんのだ――』


 しかも大食いかよっ!


『ちなみに姉さんは、お金を一銭も持っていない。もし失敗した時には、お金を届けてもらうからな――しからば御免っ!!』

「って、ちょと待て! 話しはまだ――」

『プッ、プー、プー、プー』


 切りやがった……


 携帯のディスプレイに表示される、通話終了と通話時間の文字を見つめる。


 クソ~、姉さんの奴めぇ。弟の貞操の危機に、暢気にラーメンなんか食いやがって!


「フゥ~~♪」

「にょわぁっ!!」


 いきなり後ろから耳に生暖かい息を吹きかけられて、思わずな素っ頓狂な声を上げるオレ。


「お話しは終わったかしらン♪」


 背後から聞こえてくる、マスオさんの同僚そっくり声にゆっくりと振り返った。


 そして、そこにあったのは、やはりピンクの巨大なカベ――

 正に灰色熊ならぬ桃色熊。


「は、はい……お、終わりました」


 この時のオレは物凄く引きつった顔をしていただろう。しかしユリさんは、そんな事お構い無しに満面に笑みを浮かべて、その大きな顔をズイっと近付けて来る。


 ち、近いです。そしてキモイ……


「そ~ぉ、じゃあ行きましょう。夜は長いと言うけれど、二人の甘ぁ~い夜はアッという間に終わっちゃうものなのよン♪」


 そう言うと、ユリさんは身長差を無視して強引に腕を組むと、オレを引きずる様にアパートへ歩き出した。


「さぁ、愛と大人の個人授業の始まりよ~ン♪」


 お願い、姉さん助けて~~っ!!


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
一日一ポチお願いしますm(_ _)m
小説家になろう 勝手にランキング
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ