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『オレの生徒はお嬢様!?』  作者: 宇都宮かずし
第二部 オレの生徒は男性恐怖症!?
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第八局 剣道部 三本場『女王様参上っ!』

 空気を一変させる力強く、それでいてよく通る澄んだ声――

 その声の主の登場に、今まで勝手な言い分を口にしていた剣道部員たちの顔が一気に青ざめいあ。


「き、響華さん……どうしてここに……?」


 そう、よく通る澄んだ声とともに現れたのは、絶対無敵生徒会長こと西園寺響華さま。


「た、たまたま通りがかっただけです。気になって後をつけたり、覗いていたりなんてしていませんわ」


 たまたまって……そんな事あるのか? まぁ、ないとは言い切れないけど。


「そんな事よりもですっ!」


 響華さんが歩みを始めると、オレの周りに集まっていた人垣がモーゼの十戒のように割れて行く。そしてオレの隣まで歩み寄ると、ゆっくり振り返り剣道部員たちを睨む様に見渡した。


「確か剣道部の部長は、一ッ口さんだったかしら?」

「は、はい……」


 響華さんに名前を呼ばれ、一歩前に出る一ッ口さん。さっきまでのアピール力満点だった姿から打って変わって、怯えるように俯いている。


 いや、一ッ口さんだけじゃない。この場にいる全員が同じように俯いていた。


「一ッ口さん。あなたたちの事情は理解していますし、練習の内容について口を出すつもりはありません」

「はい……」

「しかし陰口――それも一人に対して大勢が集っての誹謗中傷などっ! それが淑女のする事ですかっ!? 恥を知りなさいっ!!」

「ひっ……」


 響華さんの一喝に、スッカリ竦み上がる剣道部員たち。

 しかし、会長さまのお説教はまだ終わらない。


「それから沖田さん、永倉さん、斉藤さん――」

「「「は、はい……」」」


 名前を呼ばれ返事はするものの、顔を上げる事も出来ずに震えている三人。しかし響華さんは、その三人を容赦なく睨み付ける。


 正に蛇に睨まれた蛙……いや、龍に睨まれた蛙だ。


「先程は練習内容には口出ししないと言いましたし、お茶会をするなとも言いません――けれど、あなたたちにとって、お茶をすることが部活の練習なのですか?」

「い、いえ、それは……」

「あの……」

「…………」

「ここが部活の道場である以上、優先されるべきは練習をしている生徒です! お茶を飲んでいる人に気を使う必要がどこにあるのですっ! 気を使うべきは、アナタたちの方ではないのですかっ!!」


 更に強い口調の言葉に身を震わせる剣道部員たち。中には涙ぐんでいる子もいた。

 さっきまではオレも同じように思っていたけど、その脅えきった姿は少しかわいそうに思えて――


「申し訳ありません響華さま! 以後このような事のないように致しますので、これからも一ッ口ファイナンスとは同様のお付きあいをお願いいたします!」

「このたびの事は、西園寺のご当主様には内密にお願いいたします!」

「お願い致します響華さま! 西園寺家に見捨てられては、永倉製薬はおしまいですっ!」


 全言撤回っ!

 まったくかわいそうじゃないっ!! この期に及んで何なんだコイツらは?


 一斉に頭を下げ、謝罪の言葉を口にする部員たち。

 しかし、北原さんへの誹謗中傷に対して謝罪し、その事を反省している子など誰一人いない。今、彼女たちの頭にあるのは保身だけ――


 ただ、その態度はオレだけじゃなく、隣に立つ響華さんの神経も逆撫でするものだ。


「今は生徒会長として話しているのであって、西園寺家(いえ)は関係ないでしょうっ!!」

「ひっ!」

「も、申し訳ありません!」


 ひたすら頭を下げ続けるお嬢様たち。

 そして、まったく的外れな謝罪をするお嬢様たち……


 とても納得など出来ないし、第一謝罪をする相手が間違っている。


 けれど……


「響華さん、もうその辺で――」


 この辺りが引き際だ。オレは、まだまだ言い足りなさそうな響華さんの耳元に口を近付け、小声で呟いた。


「し、しかし……」


 同じく小声で反論する響華さん。気持ちは分かる。オレだって同じだ。


 でも……


「これ以上は逆効果。それにあまり追い詰め過ぎると、北原さんへの風当たりが逆に強くなるだけだから」

「うっ……そ、それは……」


 以前にトサカくんを相手にした時もそうだけど、響華さんは熱くなると少し視野が狭くなるようだ。それでも響華さんは頭が良いし回転も早い。冷静になればその辺は理解出来るだろう。


「分かりましたわ……」


 了解の言葉を聞いて、オレは一歩後ろに下がり顔を離し――


「北原さんには、ずいぶんと優しいのですね……」


 顔を離したところで、ぼそっと小声で呟く響華さん。


「えっ? なに?」

「なんでもありません」


 なにやら怒っているような拗ねているような顔で、ソッポを向く響華さん。

 そして、ちょうどソッポを向いた先――その視線の先にあった扉が、ゆっくりと開きだした。


「ただいま戻りまし……えっ?」


 開いた扉から現れたのは、ロードワークから戻ったと思われる、渦中の人物。


「あ、あの……み、みなさま……どうかなさい……ましたか……?」


 入り口付近に集まっていた部員たちから、逆恨み的視線を向けられオドオドとする北原忍さん。


 やっぱり風当たりが強くなるよなぁ……


「お帰りなさいなさい。ロードワークお疲れさま」


 場の空気を少しでも(やわ)らげるよう、なるべく明るく声をかけるオレ。


「み、南先生っ!? そ、そそそ、それに、き、きき、きき響華さまぁっ!? あ、あのあの、ど、どどうして――」


 もうパニック状態といった感じの北原さん。

 ロードワークから戻ってみれば、ただならぬ雰囲気の剣道部。そしてそこには、絶対無敵最終兵器生徒会長さまと、一応オマケで教師が居れば、そりゃあ驚くか。


「も、もしかして、今日は生徒会の視察の日でしたか? 申し訳ありません、申し訳ありません! そんな日に遅れて来るなんてっ!」

「違う違う。視察とか、そうゆうんじゃないから。それに遅れて来たんじゃなくて、ロードワーク――部活の練習でしょう? 謝らなくていいから、むしろ胸張って帰って来なさい」


 ペコペコと頭を下げまくる北原さんに歩み寄り、肩に手を置いて笑いかける。


「やっぱり北原さんには優しいのですね」

「えっ? 何か言った?」


 また、小声で何かを呟く響華さん。


「なんでもありません」


 そしてまたソッポを向かれてしまった……な、何なんだろう? オレ、何か怒らせるような事を言ったか?


「え、えーと……み、南先生……? 視察でないなら、どういったご用件なのでしょうか?」


 とりあえず、響華さんの方はあとで何かご機嫌を取るとして、今は北原さんの方だ。


「ご用件ってほどの事はないんだけど……まあ、部活見学にね」

「部活見学……ですか?」


 ホントは、北原さんに色々聞きたい事があるんだけど、さすがに響華さんや他の部員たちの前でって訳にはいかないし。


「そう、見学。出来れば試合とかがいいな」

「し、試合……ですか……」


 北原さんは試合と言うか言葉に、顔を曇らせ口ごもる。


 当然だ。試合というのは一人で出来るモノじゃないし、この剣道部には彼女の他にマトモな試合が出来そうな子はいないだろう。


 しかし、オレはあえて笑顔を崩さずに話しを続けた。


「そっ、試合――わたしとね♪」

「………………えっ?」


 キョトンとした表情を浮かべる北原さん。いや、オレ以外、この場にいる全員がキョトンという表情を浮かべていた。


「え、え~と……誰と誰が試合をするんですか?」

「わたしと北原さんが試合するの」

「…………………………」


 あくまで笑顔を崩さないオレと、言葉を失っている剣道部員プラス生徒会長さま。


 そして、つかの間の沈黙の後――


「「「えぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーーーっ!?」」」


 豪華な造りの剣道場に、お嬢さま達らしからぬ驚きの声が鳴り響いた。

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