表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『オレの生徒はお嬢様!?』  作者: 宇都宮かずし
第二部 オレの生徒は男性恐怖症!?
41/137

第五局 そして、さっそく別のお話し―― 二本場『その優秀さが呪わしい』

挿絵(By みてみん)


「……………………………………………………………………………………はっ! わたしはいったい何をっ!?」


 お、おかしい? パソコンの前に座ってからの記憶が飛んでいる……


 目の前にあるパソコンはスクリーンセーバー作動して、画面にはMindowsの文字が踊っていた。


 確か何もしなければ、五分でスクリーンセーバーが作動するように設定してあるはずだから、少なくとも五分以上は記憶が飛んでいるということだ。


 どうしたのだろう? 最近寝不足で疲れ気味のせいだろうか?


 そんな事を考えながらマウスに触れると、直ぐに画面が切り替わった。


「ふぅ……………………って、いけないいけないっ!」


 画面を見て再び意識を失いそうになるわたし。


 しかし、今度は何とかそれに耐える事ができた。そして、そのショックでわたしは全てを思い出した――


 わたしは例の言葉を検索して、その衝撃の結果が映し出された画面を見て、思わず意識を失ってしまったのだ。


 その、画面に映し出された衝撃の内容とは――


『縞パンとは――縞々パンツの略称で、紳士の被り物であると同時に淑女の下着でもある。

 しかし学術的に縦縞のパンツは縞パンとは認められていない。なぜなら縦縞のパンツは、男性が穿くものだからだ。

 縞パンとは、女子最後の着衣にして男子永遠の聖域である』


 ……

 …………

 ……………………落ち着け、落ち着くのよ響華。


 インターネットの情報というのは、過分に虚偽の情報が混ざっていると南先生も言っていた。一つのサイトの情報だけを鵜呑みするのは危険過ぎる。


 そう自分に言い聞かせ、わたしは画面を検索一覧へと戻した。

 そして先ほど見たサイトの、一つ下にあるサイトをクリックする――


「はうっ!?」


 画面に映し出された文章に思わず後ろに仰け反り、座ったまま後ろへと倒れそうになる。

 しかし、すんでのところで何とか堪えたわたしは、もう一度画面に映し出された内容を読み直した――


『縞パンとは縞模様のパンツの事である。なぜ縞パンが大きなお友達のみんなに好まれるのかといえば、この等圧線のような模様が少女たちのお尻の形状をハッキリと、そして立体的に浮かび上がらせるからだと考えられる。

 ちなみに、どうしてここで少女たちと限定したのか? それは大人の女性が年甲斐もなく縞パンを穿いていた場合、グーで殴られても文句は言えないからである。

 また、最近の動きが早いアニメにおいて、白いモノがチラっと見えただけではパンチラだと気付かれないケースがある。しかしこれを縞模様にする事により、パンチラである事をアピールする事ができるのだ。

 しかし、アニメの主人公が縞パンを見ると、もれなく蹴りも付いてくる――』


「…………」


 な、なんてことを……

 知らなかったとはいえ、わたしはなんてことを、しようとしていたのだ?


 こんな物を……こんな恐ろしい物を、あの人に贈ろうとしていたなんて……


 モニターに映る縞模様の下着を身に着けた少女のイラストを、虚ろな瞳で茫然と眺めるわたし。

 背筋に冷たい汗が流れ、マウスを持つ手は小刻みに震えていた……


「って! こんなところで呆けている場合ではないですわっ!!」


 わたしは慌てて辺りを見回した。


「け、携帯……わたしの携帯電話は……?」


 しかし、目につく範囲に、お目当ての携帯電話は見あたらない。


 え、え~と、最後に携帯電話を使ったのは……


「っ!!」


 わたしは勢いよく立ち上がり、リビングへと走った。

 そしてソファーの上に置いてあった、見慣れたスマートフォンを掴み、電話の発信履歴から彼女の携帯へ急いで発信する。


 焦る気持ちを抑え、わたしはその薄い機体を耳に当てた。


 ほどなくして聞こえてくる、呼び出しを知らせるコール音。

 しかし、まるで示し会わせたかのように、同時に玄関のドアが開く音が聞こえて来る。


「ただいま戻りました――」


 わたしの携帯から聞こえてくるコール音と、リンクするように聞こえてくる呼び出し音。その音が徐々に大きくなり、リビングの扉がゆっくりと開かれた。


「申し訳ありません、お嬢様。ちょっと手が離せずに、電話に出られないのですが――何かご用があったのでしょうか?」


 リビングに現れたつばめの姿に、思わず目を奪われるわたし。


 上手く言葉を発する事ができずに口をパクパクさせながら、手探りでスマートフォンの通話終了を押すと、そのまま崩れるように両膝を着いた。


 部屋を出てから、僅か数時間で帰ってきたつばめ。

 しかし、その両手には大きめのダンボール箱が五箱、バランスよく積み重なっていたのだ。


 一度、大きく深呼吸をしてから、なんとか声を絞り出すわたし――


「い、一応確認しますけど――そのダンボールの中身は――」

「はい、お嬢様ご所望の縞パンでございます。近隣のブルセラショップとお屋敷。ついでに別邸と分家の方も回って、かき集めて参りました」


 そんな説明をしながら、持っていたダンボールを床に置いて、ニッコリと微笑むつばめ。しかしその答えに、わたしは両膝だけでなく両手も地に着いてしまうのだった……


 確かにつばめは、とても優秀なメイドである。そして使用人が優秀だということは、主人にとって喜ばしく誇らしいことである。しかし今は――


 その優秀さが呪わしい……


「ね、ねぇ、つばめ……?」

「なんでございましょう。お嬢様?」


 まさに、与えられた仕事をやりきったと言わんばかりの笑顔。その笑顔があまりにも眩しすぎて、わたしは視線を逸した……


「え、え~とね……あれから色々と考えたのだけど、その……そ、それを贈るのは、やめようと……思っているの……」

「はあ……?」

「そ、それでね……悪いのだけど、そ、それは……返品して、もらえ、ない……かしら?」

「返品……でございますか?」


 どんどん語尾が小さくなっていく声……


 ああぁ……わたしは何を言っているのだろう?

 せっかくつばめが、こんな遅い時間に頑張ってくれたというのに、わたしはそれを全てムダにしようとしている。


 こんな事、上に立つ者として失格だ。


 でも……


「こ、ここに置いておいても仕方ないし……捨ててしまっては、譲ってくれた方々に申し訳が――」

「お顔を上げて下さいまし、お嬢様……」

「………………」


 目も合わせられず、リビングの床にへたり込んでいるわたしに、つばめは視線を合わせよう片膝を着いた。


「西園寺の人間が使用人の前に膝を着くなど、あってならない事でございますよ」


 ゆっくりと語りかけるような言葉に、顔を上げるわたし。そしてそこには、優しく微笑むつばめの顔があった。


「わたくしはお嬢様付きのメイドである事を、とても嬉しく、誇りに思っています。そしてそのお嬢様が望むのであれば、どんな事でも叶えるのがメイドの務めというものです」

「つばめ……あなた……」

「お嬢様……出来るメイドというものは、お嬢様が望むのなら空を飛ぶ事だって、湖の水を飲み干す事だって出来るものでございます。でも今は、これを返してくる事と――」


 つばめは傍らのダンボールをポンと叩いて一旦言葉を区切ると、まるで手品のように握った掌から小さな花を取り出して、わたしに差し出した。


 そしてわたしがその花を受け取ると――


「これが精一杯でございますけれども」


 そう言いながら、わたしの持つ花から小さな万国旗を伸ばしていくつばめ。


「まったく、あなたという人は……」


 さっきまでの申し訳なく心苦しかった気持ちが、一気に吹き飛んでしまった。微かにだけど、わたしの顔にも笑みが戻ったような気がする。


「覚えておいて下さいお嬢様。お嬢様の意思がわたくしの意思。そしてお嬢様の幸せが……わたくしの幸せなのでございます」

「――――!!」


 その言葉に思わず涙があふれそうになった。


 こんなにも(あるじ)思いのメイドが他にいるだろうか? わたしは本当恵まれている。


「ところでお嬢様。話しは変わりますが――一つ私的なお願いがあるのですけど、よろしいでしょうか?」

「お願い? なんでも言ってちょうだい。わたしに出来る事なら何でもするわ」


 それに、つばめにかぎって無理なことを願い出るなどはないでしょう。


「ありがとうございます。実は来月の第三土曜と日曜の二日間、有給を頂きたいのですが……」

「有給? そのようなもの、二日と言わず五日でも十日でも好きなだけ持っていきなさい」


 今回の働きに、二日の有給では安すぎるくらいだ。


「ありがとうございます。わたしが留守の間は、いつものように本家の方から千鳥が参りますので。至らないところもあるとは思いますが、よろしくお願い致します」


 千鳥――摘込千鳥(つみこみちどり)か。


 まだ若くて少しドジなところもあるけど、彼女なら問題ないだろう。


「それではお嬢様。わたくしはコレを返してまいります」


 そう言って立ち上がると、積み重なるダンボールに手を置いた。


 でも……


「つばめ。もう遅いですし、明日でも――」

「お嬢様っ!」


 少し怒ったような表情でわたしの言葉を遮り、座り込むわたしの顔を腰に手を当てながら覗き込むつばめ。


 これではまるで、母親に叱られている小さな子供のようだ。


「今日出来る仕事を明日に回すのは、無能なメイドのすること。そして西園寺のメイドに無能者など一人も居ないのでございます」


 つばめはそいう言って、冗談ぽく笑った


 本当に彼女にはかなわない……これではどちらが主人か分らないではないか。

 わたしも彼女に負けないよう、しっかりしなくては……


「では、わたくしは出掛けますけど、お嬢様は明日学校なのですから、もうお休みになって下さいませ。よろしいですね?」

「えっ? で、でもまだ調べモノが……」

「よ・ろ・し・い・で・す・ねっ!」

「うっ…………はい」


 本当に、どっちが主人なのかわからない……

 まだ調べたい事はあったけど、今日は縞パ――あの下着の事だけで我慢しましょう。


 でも……


 わたしはつばめの隣に積み上げられたダンボールを見上げた。


 あれが全部、女性モノの下着なのか……


「ねぇ、つばめ? その中には新品の物はないのかしら?」

「新品でございますか? なるほど……贈るのは止めて、お嬢様自身がお身着けになり、その殿方へお見せになるという事でございますね」

「――――!!」


 つばめの言葉に血流が一気に頭へ上がり、顔が紅潮する。


「確かに良いアイディアかと――」

「な、ななな、なにを言ってるの、あ、あな、あなたはっ!? 見せるってあなたっ! た、確かに身に着けようとは思っていましたけど、み、みみみ、見せようだなんてそんな! い、いえ、決して見られるのがイヤと言うわけではないのですが、む、むしろ機会があれば……ってなにを言ってますのわたしはっ!」

「落ち着いて下さいお嬢様。みなまで言わずとも分っております。というか、本音がダダ漏れでございます」

「ううぅ……」


 つばめを見上げて、頬を膨らませるわたし。


 すっかり取り乱して、言わなくてもいい事まで言ってしまったような気もする……


 そんなわたしの態度にもまったく動じる事もなく、つばめは重なったダンボールの一番上にある箱のフタをあける。

 座っているので箱の中身は見えないけれど、つばめはそこから小さな手提げの紙袋を取り出して、わたしに差し出した。


「これは?」

「こんな事もあろうかと用意した新品の上下セット。サイズはお嬢様のモノでございます」


 こんな事もあろうかとって……本当に彼女は何でもお見通しだ。


「ただ、カラーリングに関しては正直申し上げて白と緑や白と水色は、あまりお嬢様には合わないかと存じます。ですから、わたくしの方でお嬢様に似合う色を見繕っておきました。お嬢様とこの縞パンの黄金コンビなら、どのような殿方のイチコロでございます」

「イ、イチコロって、あのね……」

「ちなみに最初に見せる時はチラっと、縞のラインを2~3本くらい見せるのがコツでございます」

「いや、だからあのね、見せる機会などない――」

「何を言っております、お嬢様っ!」


 突然つばめは真剣な表情を浮かべ、再び片膝を着いてわたしの両肩を掴む。

 そして、まるで睨むように、わたしの目を見つめてくる……


「良いですか? 信じてさえいれば、必ず神風が吹くものでございます」

「か、神風……? あの神道に伝わる?」

「はい。古くは日本書紀の垂仁紀において、倭姫命(ヤマトヒメノミコト)天照大神(アマテラスオオミカミ)から受けた神託に登場するモノです。しかし近年、管理する神様が代わりまして、今は幸運助平乃神コウウンスケダイラカミが管理しております」


「幸運……助平乃神?」


「はい。またの名を幸運助平乃神(ラッキースケベノカミ)とも言います――正に今! この時! この瞬間しかないっ! というタイミングで、理論上有り得ない上昇風を吹かせる神様で、日本中の……いえ世界中のカメラ小僧(カメコ)たちに崇拝されている神様でございます」


 古典の神話だけでなく、近代の神話や神道の事まで知っているなんて……


 さすが西園寺家に選ばれて、わたしの家庭教師(ガヴァネス)を勤めるだけの事はある。とても博識だ。そしてその彼女が選んだというのだ、この縞パ……いえ、下着のデザインも間違いないのだろう。


「そういうわけでお嬢様。自分を信じて、己の道をひたすらに、歩いて明日を(さきがけ)て下さいまし」

「え、ええ……よく分らないけど、分ったわ」

「はい、今はそれで十分でございます」


 つばめは満足そうに笑顔で立ち上がると、五つのダンボールを軽々と持ち上げた。


「では今度こそ、本当に行ってまいります」

「ええ、気を付けて。わたしも明日に備えて休む事にします」

「結構です」


 ニッコリと笑ってからリビングを後にするつばめ。その背中を見送ってから、わたしはさっきの紙袋をしっかりと胸に抱いて、軽い足取りで自室へと引き返した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
一日一ポチお願いしますm(_ _)m
小説家になろう 勝手にランキング
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ